試験終わり(第33話)
試験の全てを終えて列車に乗っていると、列車の中でも莉里と遭遇した。
「おつかれ、莉里」
「おつかれさま。試験どうだった?」
「多少の手応えはあったかな」
「一緒だね。私も手応えはあったといえばあった。でも、受かっているのかは……わからない。急に自信無くしてきた」
「簡単には大丈夫っていえないけど、きっと大丈夫だよ」
と言っている私も、本当に受かっているのかは不安だ。受かるように勉強は続けていたものの、努力が全て報われるわけではない。
誰かが受かれば誰かが落ちる。それは仕方のないこと。それがもし私だったとしても。
試験が終わって、やることがなくなり虚無になるのかなと思っていたが、案外、やることはないけど、終わったという気持ちではなかった。
2次試験を意識しているわけでもない。何か、別にやることがある気がして、心の中がモヤモヤしていた。
やることといえば、あるにはある。試験が終われば、私と鳴沢が最後に作った曲、旅立ちの唄。それを練習すること。
私は作詞者だから、歌詞は頭に入っているし、鳴沢の曲もなんとなく頭に入れている。だから、急ぐ必要はないと思う。
私が今したいことってなんだろう。
あるかもしれない2次試験に向けての勉強? それとも──歌のこと。
作詞に関してはもう触れないって誓った。だから、もう何も気にしない。
気にしないつもりでいるけど、鳴沢に送った歌詞だけが気になる。
あれから返信は来てないし、動画のアップも止まっている。こっちにも帰って来ていないようだし、鳴沢とはもう会うことはないのだろうな。
寂しいけど、鳴沢の夢がそれで叶うのなら仕方ない。
鳴沢が声を届けてくれるのなら、近くにいなくたって構わない。
もともと、近い関係ではなかったし、卒業とともに距離が離れるのは、至って普通のことだ。
気がつけば、鳴沢のことばかりを気にしていた。今何しているのかな。とか、今度はどんな歌を歌うのかな。とか。
もう、私の歌詞を歌ってくれることはないけど、鳴沢の歌を聴くことは私にとって今では最大の楽しみだ。
それは確かなはずなんだけど──どうしても、私の歌詞を歌ってくれている鳴沢の顔が浮かぶ。
忘れたくても脳裏に焼きついた鳴沢の顔が消えない。
夜はもう深夜に差し掛かりそうな時刻だった。
それでも、勢いで鳴沢に電話した。
出て欲しい。けど、出られないならそれでもいい。
出てくれない方が、私にとっては諦めがつく。もう、鳴沢は、別次元にいるんだと。
『もしもし、近藤さん。どうしました?』
なんでこんな時に限って出るんだろうか。
本当に大事な時には一切出てくれなかったのに。
スマホから鳴沢の声が聞こえて、思わずスマホを枕に投げつける。
「………………」
『近藤さん?』
なんて言おう。電話をかけた理由はなんだっけ。詰まるところ、私が鳴沢の声を聞きたかっただけだ。
だけど、そんなこと鳴沢にはいえない。
「ご、ごめん……忙しかった?」
『いえ。大丈夫ですよ。こっちは明日も休みなので』
「そ、そうなんだ……」
話すことがなくなってしまった。
頭がまだ正常に回っていなくて、テンプレ的な言葉ばかり頭の中をよぎる。
どれも今の場面に当てはまらないのに、同じ言葉が何度も頭の中を駆けては戻ってくる。
「あ、そ、そうだ。そっちでの生活はどうなの?」
『難しいことも多いですけど、楽しいですよ。この間も……』
鳴沢の東京での生活。嬉しそうに話す鳴沢の言葉を聞くに耐えられなかった。
「そうなんだ」そんな言葉ばかり繰り返して、内容は全て聞き流した。
自分から聞いておいて、なんて態度をとっているんだろうと、自分が嫌になる。
ごめん。鳴沢。
『……近藤さんの方はどうですか?』
「え⁉︎ わ、私はね。今日、大学の試験終わって、今はのびのびしているところ」
『手応えの程はどうなんですか?』
「自己採点は、思っているよりも取れているかなって感じ。まだ受かったと決まったわけではないから、安心はできないけど。とりあえずは終わったーって、身体が軽くなっているよ」
『気が抜けないのは確かですけど、お疲れ様でした』
「ありがとう」
何もなかったかのように鳴沢は応えてくれた。
言いたいことも言えないまま、電話が終わろうとしていた。
そんな時。鳴沢から私の望んでいた答えが聞けた。
『そういえば。近藤さんが送ってくれた歌詞、どれもすごく良かったです。また、今度、曲を作ってみるので、できたら一番に聞いてください』
鳴沢、返信はくれなかったのに、見てくれてはいたんだ。
「見たなら返信くらいちょうだいよ」
『すみません。今少し忙しくて、今さっき見た所なんです』
電話の向こうでガサガサと音を立てる鳴沢。
次の瞬間、スマホが音を立てた。
(返信遅くなってごめんなさい。)
(どの歌詞も丁寧に描かれていて、僕はとても好きです)
「遅いって」
『ごめんなさい。勉強大変でしたのに、歌詞までもらって、ありがとうございます。僕も、この歌詞に応えられるよう曲を頑張ってみます』
「……ありがとう」
『では、おやすみなさい。ゆっくり休んでください』
「うん……鳴沢もね」
電話が切れた。だけど、余韻は残っていた。
久しぶりに鳴沢と電話ができた。なんだかんだあったけど、元気そうでよかった。
嬉しいこともあった反面、私の心の中は、恥ずかしさ埋め尽くされていた。
原因は送ってしまった歌詞。
「なんで勢いで送ってしまったんだろう……」
誰も見ていないのに、顔を隠しながら後悔した。
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