第四話「待ち望むのは死ではなく変化」
永遠に続くだろう静寂を肌で感じながら座椅子に座り、果物を頬張る。
硬く味のない果物を無心に噛み砕きながら、無心で割れたテレビを凝視する。
ボロボロと口に含んだ果物の破片を喉に落とし込んだ後、つぶやいた。
「俺は一体何を食っていて、一体何がしたいのだろうか。」
その声も静寂に殺されてこの部屋の一部になる。
果物を握りしめる右腕に力が入った。無駄に力んだ腕はどうしようもない憤りを発散させていた。
燦々と輝いていた太陽は傾いて、今や都市街の影に隠れている。
西日がザザっと窓から差し込み、座椅子に腰掛けるこの体を照射した。
外界とこの部屋を繋ぐ唯一のすりガラスの窓の隙間。
ガソリンの匂いを乗せた生暖かい風が、ソソソと頬に吹き付ける。
冷え切ったこの死んだ部屋に届く日光と風は、なぜか生命の残骸を感じさせた。
そんな乱入者に後ろ髪を靡かせられながら、依然果物を頬張り、液晶テレビを見つめる。
電源の入っていない割れた液晶。何かを映すわけでもないのに。
空っぽな部屋に佇む空っぽな自分。力んでいた右腕は次第に弛緩し、ガソリンの異臭も薄まっている。
空虚な世界でも生命の囀りは残っている。
生暖かい風は、この部屋の温度に溶かされ消失する。
それに、ツンとしたガソリンの匂いもいくばくか経てば消え去る。
無味の果物でさえ、いつしか食べ尽くされる。
あぁ全てはこの世界の中心に吸い取られ消え去る運命。
背中を座椅子の背もたれに預け、色のない天井をただ見つめる。
あかりが灯っていない蛍光灯は外界からの振動でぐわんぐわんと揺れている。
あれからどれだけの時が経ったのだろう…
その変化のない蛍光灯の揺れを眺めながら、この衰えた体は、いつしか来るであろう自分の死を待ち望んでいた。