第三話「夢のような偽物のゲンジツ」
あの血と鉄のにおいが立ち込める悪夢を見始めてからもう、三年が経つ。
台所に一人立って、窓から差し込む日光を光源に蛇口を回す。
ザザザッと水道水をガラスのコップに注いで煽った。
こぼれ落ちた雫が頬を伝って首元へ沈み込んでいく。
ひんやりと冷たい水滴が首を冷やした。
水道水の無機的な香りは、窓から拭き込むガソリンの臭いに上書きされ、失われてしまう。
寂れたシンクの隅に置かれた果物の包みを掴む。ゾロロッとビニール特有の擦れる音を故意に無視しながら、中身を取り出した。
果物についた水滴を服の裾で拭く。
ステンレス製の色のない台所のそばで果物をそのまま頬張った。
表面に苦服のあるゴツゴツしたその果物は、なぜか味も色もない。
一体自分は何を食べていたのだろうか。
日光だけが光源のこの部屋は暗い闇が支配していた。
ゴトゴトと自動車による振動が床に伝わり、ガラスのコップに堆積した水道水には波紋が起きる。
色も動きもないこの部屋で、小さなコップに含まれる水だけが動いていた。
そんな水を呆然と遠目に眺めながら、口を開ける。長年声を出していなかったせいか、寂れて自分の声と思えない掠れた声色が飛び出した。
「あの夢は、本当に夢に過ぎないのだろうか。ここは本当に現実なのだろうか。」
その弱々しいつぶやきには、少量の疑問と期待が含まれていた。
が、すぐにその声は霧散し消滅する。そしてコップの水は再び煽られて失われた。
灰色の黒煙の立ち込める都市街のすみ。
今やこの薄暗い部屋には色も動きもない。
また失われてしまったのだ。
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全焼してしまった記憶は元通りに戻らない。たとえ新しい記憶を植え付けられてもそれは本物ではない。
過去に死んだ記憶こそが本物であり、新しく埋め込まれた記憶に必ず人は違和感を感じる。
何度も夢に見るのだ。
暖かな思い出が全焼したあの日の事件を。




