表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/12

第十二話「最強を作り出すための残酷な研究」

アランに連れられて、部屋の外に飛び出した俺。

水滴が滴り落ちる長方形の電灯を通り過ぎると思い出した。

あの日の思い出を…


 あの頃の記憶が都合よく思い起こされる。脳に漂う幼い頃の記憶は鮮明で色褪せていなかった。


__________________________________________________


 俺の父親は有能な技術者だった。


 自分の研究が国に認められた時,父親は歓喜の声をあげて、さっさと都市へ去ってしまった。


 たとえ研究の承認が彼の苦労の人生を肯定することでも、家族を簡単に捨てるのは間違っていると、そう思った。


 ましてや、生まれたばかりの妹と幼い自分。学のなかった母親を田舎に置いて去ってしまうなど。


 俺は父親が嫌いになった。


 ある日、木製のローテーブルに置かれた1杯のシチューを分け合って飲んでいた時。


 俺は父への不満を母にぶつけた。


 「なんでどっか行ったの。父さんは僕たちが嫌いなの。」


 母は妹にシチューを食べさせながら言う。


 「彼は誰よりも家族を想ってる。世界中の子ども達が安全に暮らすため、強い国を作っているのよ。」


 わからない。知り得ないことだ。


 大事な家族を捨てて、国や他の家族を優先するなんて。


 「母さん、父さん一人だけで本当に国が強くなるの。」


 俺の問いはあまりにも純粋で、だからこそ母は優しく答えてくれる。


 「彼は、すごい研究をしているの。誰にも負けない最強を作って、安心して私たちが暮らせるように。」


 そう言うと母は、俺の頭を優しくスワリスワリと撫でてくれた。


 納得はできない、研究というもの自体がよくわからなかったから。けれど、父親のことを語る母の姿はあまりに辛そうで、その横顔は涙を流しているようだった。


 だから聞けない。自分よりも辛い気持ちなのは母だろうから。


__________________________________________________


 記憶の清流は流れを止め、意識が戻る。引き戻される感覚に身を委ねて、視界が覚醒した。


 純白の装束に頬を引っ付けて、茶色い髪が目の前でサワサワと揺れていた。


 すわりすわりと、おぶられた体は弛緩して安心し切っている。長い通路を、おぶられながら進んでいく。


 「アランさん…」


 厳かだが、優しさに満ちた声色で彼は答える。


 「眠っていたようだが、夢でも見たのかい。」


 …今ならわかるかもしれない。家族を裏切ったのは、父親ではないだろうか。


 死に戻りも、あの日の事件も、父親が計画したのでは。


 冷たい空気が頬をかけた。背中がゾワリと揺れる。彼の体から発する温もりが、俺の荒れ狂う心の波を収めてくれた。


 研究を何よりも優先する父親が、自分の家族を実験台にすることは不自然じゃない。


 だから掠れた唇で緊張した声色は響く。


 「ユイ、父親は…いや…あの日を境に世界は、何が起きたんですか。」


 静謐な廊下を律動的に鳴らす彼の足音は重く、彼は見えるもの以上の思いを背負っているようだった。


 ゆっくりと彼は言葉を紡ぎ出す。


 「君は、監視されていた…あの液晶テレビで。大勢の人間が君を観察していた。」


 濁した返しは、不信を抱かせた。


 彼の肩に手を置いて、身を乗り出す。冷たい通路が俺たちをその先へと誘っていた。

 

 「それは…驚きです、観察って…僕は一体…」


 観察、監視、どうやらあの死んだ部屋は本当に牢獄だったらしい。


 コツコツと足音だけが響いている。他に誰の気配も感じない。


 「君は被験者と呼ばれている。僕はコントロール側だった。」


 銀杏のツンとした香りは彼の肌から匂っている。


 「えと…なんの研究の被験者なんですか、僕は…」


 俺の問いに彼は黙った。一拍の静寂の後、彼は語った。


 「私の知る全て…君は知りたいか。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ