第十二話「最強を作り出すための残酷な研究」
アランに連れられて、部屋の外に飛び出した俺。
水滴が滴り落ちる長方形の電灯を通り過ぎると思い出した。
あの日の思い出を…
あの頃の記憶が都合よく思い起こされる。脳に漂う幼い頃の記憶は鮮明で色褪せていなかった。
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俺の父親は有能な技術者だった。
自分の研究が国に認められた時,父親は歓喜の声をあげて、さっさと都市へ去ってしまった。
たとえ研究の承認が彼の苦労の人生を肯定することでも、家族を簡単に捨てるのは間違っていると、そう思った。
ましてや、生まれたばかりの妹と幼い自分。学のなかった母親を田舎に置いて去ってしまうなど。
俺は父親が嫌いになった。
ある日、木製のローテーブルに置かれた1杯のシチューを分け合って飲んでいた時。
俺は父への不満を母にぶつけた。
「なんでどっか行ったの。父さんは僕たちが嫌いなの。」
母は妹にシチューを食べさせながら言う。
「彼は誰よりも家族を想ってる。世界中の子ども達が安全に暮らすため、強い国を作っているのよ。」
わからない。知り得ないことだ。
大事な家族を捨てて、国や他の家族を優先するなんて。
「母さん、父さん一人だけで本当に国が強くなるの。」
俺の問いはあまりにも純粋で、だからこそ母は優しく答えてくれる。
「彼は、すごい研究をしているの。誰にも負けない最強を作って、安心して私たちが暮らせるように。」
そう言うと母は、俺の頭を優しくスワリスワリと撫でてくれた。
納得はできない、研究というもの自体がよくわからなかったから。けれど、父親のことを語る母の姿はあまりに辛そうで、その横顔は涙を流しているようだった。
だから聞けない。自分よりも辛い気持ちなのは母だろうから。
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記憶の清流は流れを止め、意識が戻る。引き戻される感覚に身を委ねて、視界が覚醒した。
純白の装束に頬を引っ付けて、茶色い髪が目の前でサワサワと揺れていた。
すわりすわりと、おぶられた体は弛緩して安心し切っている。長い通路を、おぶられながら進んでいく。
「アランさん…」
厳かだが、優しさに満ちた声色で彼は答える。
「眠っていたようだが、夢でも見たのかい。」
…今ならわかるかもしれない。家族を裏切ったのは、父親ではないだろうか。
死に戻りも、あの日の事件も、父親が計画したのでは。
冷たい空気が頬をかけた。背中がゾワリと揺れる。彼の体から発する温もりが、俺の荒れ狂う心の波を収めてくれた。
研究を何よりも優先する父親が、自分の家族を実験台にすることは不自然じゃない。
だから掠れた唇で緊張した声色は響く。
「ユイ、父親は…いや…あの日を境に世界は、何が起きたんですか。」
静謐な廊下を律動的に鳴らす彼の足音は重く、彼は見えるもの以上の思いを背負っているようだった。
ゆっくりと彼は言葉を紡ぎ出す。
「君は、監視されていた…あの液晶テレビで。大勢の人間が君を観察していた。」
濁した返しは、不信を抱かせた。
彼の肩に手を置いて、身を乗り出す。冷たい通路が俺たちをその先へと誘っていた。
「それは…驚きです、観察って…僕は一体…」
観察、監視、どうやらあの死んだ部屋は本当に牢獄だったらしい。
コツコツと足音だけが響いている。他に誰の気配も感じない。
「君は被験者と呼ばれている。僕はコントロール側だった。」
銀杏のツンとした香りは彼の肌から匂っている。
「えと…なんの研究の被験者なんですか、僕は…」
俺の問いに彼は黙った。一拍の静寂の後、彼は語った。
「私の知る全て…君は知りたいか。」




