第十話「死に戻りの空間は、死に逝く大いなる愚者のため」
天井に据え付けられた蛍光灯は、ピカピカと青白い光を弱々しく放っていた。
台所の上に置かれたガラスのコップは波紋を生み出している。
懐かしい風景を思い起こす空間。変わり映えのない部屋。
高速道路を走行する自動車による振動が、この死んだ部屋でも響いていた。
「ここ…俺は、戻ったのか…」
外界とを繋ぐ窓の隙間からガソリンの臭いを乗せた生暖かい風が吹き付ける。
そのカビの生えたツンとした風は頬を撫でて去っていった。
割れた液晶テレビの前、紺色の座椅子にドサァと腰を預けて物思いに沈む…
ここは、過去に俺が住んでいた灰色の部屋。三年間住んでいたという記号だけが残る空間。
「死に戻り…か…何が目的だ…」
水面の波紋が床の振動と合わせて揺れる。
そんな静謐な空間に答える存在はいない。
「…あんたが、俺を助けたのは、助けを求めていたから…」
一人、声に出して自問する。
「だったら、俺は死ねないのか…」
燦々と輝く太陽はその姿を都市街の背後に隠し、その御姿は失われていた。
灰色の都市街の隅、暗くて冷たいこの部屋はまるで独房のようだった。
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古今東西、愚者が逃げることは許されない。大いなる力に利用されるために生かされている。それはこのガソリン臭の漂う死んだ都市街でも同様だろうか。




