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三曲目

「ふう、とりあえず門を出たからもう大丈夫だろう」


街で頻繁にストリートライブをしていた事もあって、街には獣人達のファンが数多くいた。

毎回ライブをする広場が即席のコンサート会場のようになっていたほどだからな。

そのため、国を出るという事をMCで伝えた時はもの凄いブーイングだった。愛があった。


そしていざ国を出る時の引き止められ方は尋常じゃなかった。

俺を押し倒してマーキングしようとする人が出るほどで、なんとか兵士さんたちの組んだスクラムで隙間を作ってもらって脱出して今に至るわけだ。


門を出た所には一台の馬車がとまっていた。

これは王ちゃんが餞別で、とくれたものだった。

目的を果たしたら返しに来いよと涙目で言っていたのが思い出されるな。


御者が出来るという事でうさ耳メイドさんが御者席に乗り込み、俺は後ろ荷台に乗り込む。

この荷台にはドラムが積んである。

むしろこの為に馬車を用意してもらったようなものだ。つまりこの馬車は機材車という事だな。


「確かここから左に行ったら”異教徒の国イウダ”で、右に行ったら"罪人の国ゲーヒンノーム"だったよな?」


俺は荷台から御者席のウサ子に声を掛ける。

ちなみにウサ子というのは俺が付けた名前で、本当の名前は舌を噛み切らない限り俺には発音出来なさそうだったのでそう呼ばせてもらっている。


「はい、そうですね。どちらに行きましょうか?」


「そうだなぁ、罪人の国っていうのはなんだか怖い感じがするからまずは背信者の国イウダに行こうと考えてるよ」


元の世界をベースに考えると宗教絡みなんだろうし少し怖い感じもするけど、まぁ罪人の国という響きよりはマシだろう。

俺の言葉をうけたウサコは馬を左側に向けて歩かせ始めた。


「先に聞いておきたいんだけど背信者の国っていうのはどういうところなんだ?」


「そうですねぇ、魔族の国だって話ですよ。私も行ったことはないので分からないんですけど」


なんだと……罪人という響きより魔族という響きの方が怖いじゃないか。

いや、待てよ。


「それはおかしいんじゃないか? だって4つの国が力を合わせて魔王を打ち倒したって話だったのにその中の一つが魔族の国だなんて。魔王っていうのは魔族の王という意味だろう?」


「ええ、魔王は魔族の王という認識で良いかと思います。ですから魔王に背いた背信者が集まった国なのですよ」


戦った余波でこんな大きい凹地が出来るような人に逆らった人が集まる国か……ちょっと早まったかな。


でも走り出した馬車は止まらない。

俺も止まれないんだ。


ーーーーーーーー


夕方近くになって背信者の国に着いた俺達は門の前で足止めを食らっていた。


「んーどうしたもんかなぁ」


確かに考え無しでここまで来てしまった事は否めなかったけど、粘り強く話せばなんとかなるんじゃないか

なんて思っていた。

それがどうだ、ろくに話すらさせて貰えない。

ウサ子を見るなり「獣人はカエレ」の一点張りだ。


門は開いていて中も見えるのに入る事が出来ないのがもどかしい。

しかし流石に門を守っている番兵を無理矢理突破していく事は出来ないだろう。

どうしようかと考えながら門の側で出入りする人を見ていると色々な人が出入りしていて、目の前を通る度に不思議そうな目や、敵意がこもった目で見られるので少々居心地は悪かった。

それでも幸い絡んでくるような輩は居なかったので安心して人々を観察していた。


魔族という種族の見た目は様々で、角や羽が生えている人や、目が3つある人もいた。

皮膚の色も様々で青かったり赤かったり、少し発光している人さえいた。

人という括りも非常に曖昧で竜のような姿形だったり、足がなくて蛇のような蛇腹で動く女の子もいた。


人としての営み自体にも大した違いはないんだろうという事が分かってきた。

魔王のヘソから帰ってくる人達は魔物のような物や、果実を抱えたりしていて、逆に出ていく人達はこれから狩りにいくような格好をした人が多かった。

きっと狩猟をして日々の糧を得ているのだろう。


やっぱりどこにいっても同じなんだな、と思った俺は隣に座っている彼女を撫でる。

彼女は分かってるよ、とでもいうように一つ微笑んでギターに変わる。


やっぱり俺にはこれだろう。


俺はギターを弾く。

どうにもならない時に。

むしゃくしゃした時に。

愛する人に、泣いてる人に、笑っている人に。

口は旋律を啄む。


特訓の成果か、馬車の荷台ではウサ子が俺の即興に合わせてビートを刻んでいる。

最初は何事かと遠巻きに伺っていた人々はやがて周囲に集まりだした。

やはりこの国でも音楽というものは存在しないのかもしれない。


でもそんな事は関係ない。

俺は、俺のやりたいようにやるだけだ。


そろそろ夜の帳が降りようとする頃になっても門の前は人々で賑わっていた。

俺達の即興ライブに立ち止まっている人達が溢れていて門を閉められないのだ。

そろそろ宴も酣……か。


俺はラスト!と叫ぶと最後の曲を演奏し始めた。

この曲はウサ子と俺がみっちりと練習してきた曲だ。


最初は戸惑いながら手や翼を叩いていた観客も既に出来上がって(・・・・・・)いる。

体でリズムを刻んで一番の盛り上がりでは炎まで吐いている人もいるくらいだ。

最後の曲を終えた俺は観客にこれで終わりだ、と告げて門番の兵士に頭を下げる。

まぁ門番といっても最前列に陣取っているので何を番しているのかよく分からないのだが。


そうして門が閉まった。

辺りは静まりかえっていて、さっきまでの熱気が嘘のようだった。


「さて、今日はここで寝るぞ」


ウサ子は手早くドラムセットを片付けて荷台に寝るスペースを確保してくれた。

よく出来るドラマー……いや、メイドだったか。


次の日の朝。

外の騒がしさに目を覚ました俺は馬車の外を覗いて驚いた。

昨日のライブの話を聞きつけたのであろう人々が既に集っていたのだ。

俺は低血圧だ。

朝からライブで盛り上がるのはちょっと難しいのだが……。


顔を出した俺に周囲の人々が色めき立つ。

と、そこに一人の女の子が進み出てきた。


「昨日の晩にここでなにやら騒いでおったのはそちか?」


「あ、あぁ。そうだけど……君は?」


「ほほう、我を前にしてそのような口の効き方とはなかなか豪胆じゃの。我はこのイウダの王が娘、そして先代魔王の孫であるユーティスじゃ」


なんと、見た目は小中学生だというのに王様……いや先代魔王の孫だって?

聞いた話によると魔王との戦いは200年以上前だって話だったけど……。


「ほう? 疑っておるのか?」


「あ、いえ。その……まぁ」


「なんじゃその歯切れの悪さは。こう見えて我は齢100を超えておるでの。なに、若さを保つ秘訣とな? それはのう……」


なにやら聞いてない事を勝手に喋り始めたぞ。

これは残念系女子かもしれないな。

俺は適当に若さの秘訣とやらを聞き流してから尋ねてみる。


「その、イウダのお姫様がなぜここに?」


「人々が、特に門の番をしていたものがそれはそれは興奮した様子で捲し立てておったからの。まぁ大事になる前に我自ら出向いた、というワケじゃ」


「なるほど……それじゃあここでライブをするなという事を言いに?」


「そうじゃな、ライブというのはよく分からぬが昨日やっておったという催しをここでするのは許可できんの」


そんな……こうなったらダメ元で国に入れて貰えないかお願いしてみるしかないか。


「であるから、次にやる時は国の中のきちんとした場所でやるようにせよ」


ん、なんだって?


「我もそのような催し嫌いではない。であるならばきちんと体裁を整えてからするのがよかろう」


こうして俺達は祭り好きのお姫様の許可を貰い、晴れて魔王の国イウダへと入国する事が出来たのだった。

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