3話:黒魔獣の襲撃
「てめえ、舐めたこと言ってんじゃねえぞ。表に出ろや、ああっ?」
「本当に野蛮な猿ね。あなたのような人がいるから冒険者は野蛮だという印象を持たれるのよ」
アスターは馬車の扉を蹴って開けた。そして馬車から下りる。
「てめえ、口だけは達者なようだな。だが実力はどうなんだ?明らかにそっちの2人よりも弱そうだけどよぉ。てめえみたいなやつがAランクだからAランクは弱いなんて印象を持たれんだよ」
「なっ!……上等よ!」
売り言葉に買い言葉に売り言葉、うん?どっちが売ってどっちが買ったのかよく分からなくなったが、ランカも馬車を下りた。
口だけならランカに軍配が上がっていると思ったが、意外とアスターも饒舌なようだ。
「リリー、どうする?」
2人が熱くなって、外で殴り合いの喧嘩を今にも始めそうな所を見ながらリリーに相談する。
「1度レア様が彼をボッコボコにすればよろしいかと。そうすれば彼も大人しくなるでしょう」
ダメだ。リリーもアスターにムカついているらしい。もう協力するのは諦めるかな、なんて事を一瞬頭をよぎった時に外から声がした。
「レア!黒い魔獣よ!」
その言葉を聞いて俺とリリーは即座に馬車から下りた。
周りを見渡すと黒魔獣の群れがいる。やはり黒魔獣の群れにはいろんな種の魔獣がいる。群れのリーダーらしき魔獣は黒い大将級のオーガだ。他にはブラットウルフやトロールといったものが見受けられる。数は全部で10体ほどといったところだ。
「はっ!あれが黒魔獣とやらか。俺が全部ぶっ殺してやる!」
そう言うや否やアスターは走り出した。
そういえばアスターの戦い方は知らない。どうやって戦うんだろうか?
「気をつけろ!黒魔獣は通常の個体よりワンランク上の強さだぞ!」
「俺に指図すんじゃねえ!てめえらは黙ってそこで見てろ!」
アスターは群れの中へとつっこんだ。
自分から魔獣に囲まれに行くなんて正気だろうか?そんなことをすれば袋叩きに合い、魔法を創る時間を作れない。
「オラァアア!」
アスターはその掛け声と同時に、トロールへとパンチを繰り出した。直後トロールは、凄まじい音を立てながら腰から上が弾け飛んだ。
次いで、2体目のトロールへと蹴りを繰り出すと、そのトロールの下半身が吹き飛んだ。
同様のパンチと蹴りを2.3回繰り返すとアスターの周りにいた魔獣はリーダーの黒いオーガを除いて全て全滅した。
なるほど、魔力で身体能力を上げる超近距離タイプか。アスターが俺達に加われば、前衛がいないという俺達の弱点が解消されて劇的に強いチームになるかもしれない。そんなことを考えていると、ランカが叫んだ。
「あいつに手柄を全部横取りされちゃたまらないわ!私も行くわよ!」
そう言ってランカは自分の魔法の射程距離のところまで走っていった。
「レア様、私達はどうしますか?」
「うーん、今回は見てよう」
「分かりました」
アスターは黒オーガへと走って行く。
近づいてきたアスターに黒オーガが棍棒を振り下ろした。それを後ろに跳んで躱したアスターはもう1度黒オーガに向かって走って行くが、黒オーガの棍棒捌きに近づくことができない。
「チッ!」
「紅蓮火炎弾!」
黒オーガの後ろからランカが放った火魔法が直撃した。
「ガァァァァ!」
黒オーガは明らかにダメージを負っている。まだ完璧には程遠いがランカは魔力操作を習得し、練り上げた魔力を使った魔法は黒オーガにダメージを与えるほどにまでなったようだ。
「よし!効いたわ!」
「てめえ!余計なことをすんじゃねえ!」
「あんたが勝手にするなら私も私で勝手にするわ!」
舌打ちをして、アスターはもう一度黒オーガへと近づきに走った。それを見た黒オーガはアスターに向けて棍棒を振り回す。だがそれをランカが魔法で阻止した。
「火炎十字弾!」
ランカの魔法を喰らい、隙が出来たオーガの懐へアスターが潜り込む。右拳が淡く光り、それを黒オーガの腹へと叩き込んだ。
「鬼正拳!」
「グオォォォオ!」
黒オーガの腹に大きな穴が空くも、まだ倒れない。最期の力を振り絞ったのかアスターへと拳を振り下ろした。
「グッ!……」
アスターは黒オーガの拳をなんとか両腕で受け止めた。だが全身が痺れて動けないようだ。そこへ黒オーガの2撃目の拳が飛んで来た。
しかし、
「紅蓮鳳凰弾!」
ランカが放った鳳凰の形をした火魔法が、アスターに黒オーガの拳が当たる前に直撃し、とうとう黒オーガは力尽きて地面へと倒れこんだ。
「レア!見てた?わたしの魔法が黒魔獣に効いたわよ!」
戦いを終えたランカが俺とリリーのいるところへと走って来た。
「ああ、見てたよ。お疲れ様」
「やっぱり魔力操作ってすごいわね。この前は全然効かなかったわたしの魔法が黒魔獣に通用したわ」
そう言うランカは笑顔だ。リベンジできたことが相当に嬉しかったんだろう。教えた甲斐があるというものだ。
「アスターもお疲れ様。近距離タイプだったんだな。俺達のパーティーとすごく相性が良いよ」
戻ってきたアスターにも労いの言葉をかける。
「ああ?うるせーよ」
相変わらずつれない態度だ。だが直後、アスターがランカへと近づいた。
「な、何よ。礼なら受けとるわよ」
「チッ。可愛くねえ女だな。だが、まあ、よくやった」
「お礼が言いたいの?」
「うるせえ!おら!さっさと出発すんぞ!」
そう言うとアスターは馬車の中に入って行った。
「やっぱり尖りたいお年頃なんでしょうね」
アスターの評価は素直になれない青年になってしまったようだ。