音楽会の季節①
そろそろ音楽会の季節。
音楽担当のあたしは大忙し。
今は授業時数の確保とか何とかいって
あたしが子どもの時みたいに
毎日2時間ずつ練習なんてありえない。
最短時間で最高の作品に仕上げなきゃいけない。
ここが音楽担当の腕の見せ所。
あたしはパソコンが苦手だったけど
次第に必要に迫られてかなり上達した。
前任校は近辺の学校のトップを走る情報教育先進校だった。
ここへ変わってきたら・・・
あたしは先生達の先生。
鍛えられて学校かわってきたせいで
〈パソコンも出来る先生〉
なんです。
歌も合奏も耳から覚えると仕上がりは早い。
パソコンを駆使して
CDに焼いて、何度も子どもたちにメロディーを
覚えさせた。
「家でもCD聞いて練習したかったらやいたげるからね」
っていうと、次の日からCDがどっさり届いた。
100枚は焼いたぞ・・・
だけど、その効果は絶大だった。
音楽担当の先生方、これから音楽会される方、
手間を惜しんではいけません!
おかげで、余分な時間をとることもなく
かっこよく仕上がった。
歌も発声がしっかり出来れば大丈夫。
「お前、すげーな。俺全然わかんねーや。」
雄ちゃんはパソコンが使えない。音符も苦手。
「大丈夫。あたしが頑張るから。」
ニコって笑って答えた。
雄ちゃんは5年生担任なので
リコーダー奏と合唱。
体育館で、担任の先生達も入って練習が始まった。
はじめはあたしが今までのように歌わせる。
それから、学年の先生にバトンタッチして歌わせる。
あたしは一応監督。
でも、所々サポートに入る。
雄ちゃんは今年ベテランの先生に
「歌を指揮しなさいね」
って言われてる。
「俺、わかんねーからさ、どうしたらいいか教えてくれな。」
雄ちゃんはあたしに言った。
おまかせくだされ。
雄ちゃんは指揮を振った。
4拍子の指揮がとれてれば、小学校の音楽会は
まぁ、うまくいく。
ほんとは、それじゃダメなんだけどね。
一通り曲が終わった。雄ちゃんは
「どうしたらいい?」
ってあたしにそっと聞いた。
「入り方、もっとはっきり歌詞を意識して。
ここからは盛り上がるから、フォルテ。
さいご、ちゃんと六拍伸ばすこと。あと・・・・・」
「ちょっとまて、とりあえずそれだけやっとこう。」
雄ちゃんは、あたしの指示通りみんなに伝え
ちょっとずつ音楽ができあがっていく。
一緒に授業は楽しいな。
あたしは、授業中にも雄ちゃんといられる幸せに
自然に笑顔に。
普通、この時期、先生達の顔って引きつってるんだけどね。
少し離れたところで川上先生の鋭い視線が突き刺さる。
雄ちゃんに注意されてから先ぱーい、は、無くなった。
でもあたし、最近にらまれてる気が・・・
でも気にしなーい。
あ、あたしってちょっと強くなった?
って、違うこと考えてるうちに
何だか歌が壊れ始めた。
「先生、ちょっと変わってもらっていいですか?」
雄ちゃんにいって指揮を変わってもらう。
イメージをもって歌わせなきゃ。
具体的な指示と正しい姿勢と、何より
集中させること。
いい声を思い出させて、さっきまでの三倍ボリュームもあげて
曲の山を意識させ、最後まで歌わせた。
ベテランの川野先生が大きな拍手。
「さすがねー」
と、あたしにほほえみかける。
雄ちゃんも拍手してくれた。
「みんなすげーじゃん!!!」
雄ちゃんに褒められて子どもたちも笑顔。
雄ちゃんとあたしと川野先生が笑顔で顔見合わせてるのを見て
川上先生だけはつまらなさそう。
合わせる楽しさは音楽会でこそ味わえる。
これだから、音楽会は止められない。
珍しくあたしと雄ちゃんは職員室で一緒にいた。
あえて、一緒にいないようにしてたけど
今日は別。
なぜかというと・・・
楽譜を前に雄ちゃんにチェックポイントを伝授。
雄ちゃんは一生懸命楽譜に書き込み。
「ここはpで、ここはmp、ここからクレシェンドかけて
さびの所はf。・・・」
「ちょっと待て、意味わからん。ここは小でここは中の小
で、ここは、大。っと・・・」
ほう、そういう書き方するか・・・まあいいけど。
楽譜を見ながらあたし達はお茶を飲んだ。
学校でこんなにゆったり雄ちゃんと過ごしたのは
いつ以来だろう・・・
そこへ、三年生の学年の担任がそろってやってきた。
「時間あいたら、三年生の相談にも乗ってくれませんか?」
「だめー。貸してやんない!」
雄ちゃんは、笑顔で言う。
あたしには冗談に聞こえないんですけど。
ドキドキしながら、
「はい、喜んで!」
って必要以上に元気に答えると
「どこかの居酒屋みたいだな」
って雄ちゃんは笑った。




