遥か未来の果ての果てでA
『ほら見ろ、確かに人類は絶望的だが、こんな事はいくらでもあった、きっとまだまだ先を見せてくれるはずだ』彼は得意げにそう■■た。
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宇宙移民船「迦具夜」の中は静かだった。
でも暗い空気があるわけではなかった。
モニター越しに見ると、皆がみなこれからの事に希望を持ち、決意を秘めた表情をしている。
私達は終わらない。
そういった気持ちが伝わってくる。
この船に乗る私も同じ思いだ。
たしかにこの星は限界だった。
空気は淀み、水は濁り、植物は枯れ、天候は嵐で常に荒れている。
この原因が人類が行ったこと、人類が環境を破壊したのならまだ諦めもついただろう。
環境破壊や燃料の枯渇、汚染といった環境変化は人類とは全く無関係に、そして対策を打つ間もないほどの速度を持って進行した。
過去の人類が環境保護なんて言って偉そうに星に施しを行おうなんてやっていたのを、今の現実を生きる人々が見たら笑ってしまう程に。
だけど人類は諦めなかった。
この星が駄目なら別の星へ。
今までコストに見合わないことや、明確なメリットが見つからなかったために、ある種の酔狂な人間しかやって来なかった、遥か遠くへの移民を目指して船を作り上げた。
技術的には可能と長く言われながら、星から大した距離まで離れていかなかったのは意味が無いと思われていたからだ。
必要なら人類はまだまだやっていける。
そんな事をつらつらと思っていると、隣の席に座っているサクヤが不意に手を握ってきた。
どうしたのかと彼女を眺めてみると、不安そうな瞳をしている。
この先は未知の領域、何が起こるか分からない。
誰しも不安を抱えているのだ。
私は彼女の手を握り返した。
「大丈夫だ、私達ならやっていけるさ」
「ミコト……そうね、きっと私達はこの先もやって行ける」
そう言って不安を誤魔化すように、私は彼女と手を絡め合わせた。
そんな事をしているとサクヤの更に隣にいるイワナガが溜息を吐いた。
「こんな時まで恋人ごっこをしているなんて……、少しは目の前のことに集中したらどうなの?」
イワナガはとても不機嫌そうだ。
しかし、先程の言葉はいただけない。
「恋人ごっこと言うが、彼女は間違いなく恋人だよ。私は間違いなく彼女を愛している」
「別に新天地に向けて私達の血を途絶えさせない為に決められたペアリングを個人がどう解釈しようと構わないけど、この星から離れる瞬間に予定外の事が起きれば、それこそ人類の絶滅だってあり得るのよ、操縦に集中して」
まあ、もっともだ。彼女は大事だが、確かに操縦(とは言え、ほとんど自動だが)を疎かにしてよい理由にはならない。
私達3人はAIでも判断できない緊急事態のときに介入するための仕事を受け持っているのだから。
私が彼女から操縦に気を逸らそうとすると、今度はサクヤが不満げな声をあげた。
「たとえ周りから決められた事でも私達はお互いを想い合っているわ。そう、古い言葉で言うと愛し合っているのよ」
それは間違いなかった。確かに恋愛感情というのは過去の遺物ではあるが、確かに私達はお互いを尊重しあい、共に子供を作り、育てていく事は生産的かつ効率的なことで、それを目指すことを共に誓い合っている。これは間違いなく恋愛感情だろう。
しかし、今はそんな事を言っている場合ではないのも間違いない。
確かに殆ど自動的に進む打ち上げも、ありえないこととはいえ、私達が出鱈目にパターンを切り替えたりするととんでもない事故につながる可能性だってある。
「私達が生産的かつ効率的な恋愛感情を抱いている事は間違いないが、そんな事よりも2人とも今は打ち上げに集中しよう、これは私達人類の未来がかかっているのだから」
そんな事を話していると、打ち上げシーケンスが始まった。
エンジンが熱量を上げ、刻一刻と地面を拒絶し、宇宙へと引き寄せる力が強まっていく。
船体の振動が心地よく身体を震わせる。
「そんなこと……ね」
不意にイワナガが呟いた。
「人類に明るい未来があったとしても、私には永遠に来ないわ」
不意に、隣にいたサクヤの頭が消えた。
ふと隣を見ると、イワナガが何かを構えていた。
突然の事に私は声が出なかった。
「生産的かつ効率的……そんな感情じゃないことはわかっている……でも、貴方が隣に来ない未来を私は認められない!」
そう言って、彼女は何かのトリガーを引き絞り、私の頭は……。
―――――
『そして人類は滅亡しました……と』
『え?』




