死地への招待状
「ちっ、泣くなよ。お前は腐っても聖騎士なんだろ。そんな女がめそめそするんじゃねえ。騎士と言うんなら気高く堂々としていろ」
俺はルーナの頭に手を置き、優しく撫でた。
「うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁんっ! キースさんっ!」
俺が頭を撫でたらルーナはもっと泣き出したので、仕方なく抱き着く。俺も背が高い方じゃないが、ルーナはもっと低い。ほんと子供くらいの背丈しかない。だからか、抱き心地がメイと同じだった。
「うぅ……。騎士団の野郎……、私が女だから、部下が下町のやつらだから、死地にわざと送ろうとしているんです。私達は貴族から死んでほしいって思われてるんですよ」
ルーナは俺の胸の中で泣きながらぼやいた。――本音がだだ漏れじゃねえか。
「貴族がどうとか知らねえが、俺にとっちゃルーナは立派な騎士で皆の指揮官だ。お前がいなかったら、どうしようもなく、ただ死に急ぐだけの人生のままだった。お前の魔弾がなかったら今頃、俺はとっくに死んでるし、テリアちゃんだって助けられなかった。お前は俺の人生を大きく変えやがったんだ。その責任はしっかりとってもらう」
「うぅ……。じゃあ、命令しますよ。一度命令したら取り消せませんからね」
ルーナは腕の中で涙と鼻水でグチャグチャの顔を俺に見せてくる。この顏だけ見たら、男の保護欲を掻き立ててくる可愛すぎる美少女にしか見えない。
「ああ、お前は俺の指揮官だからな。どんな命令を下されても従うしかねえよ」
ルーナは俺から離れ、一歩下がり、手の甲で眼を擦りながら鼻水を啜り、背筋を正す。
「キースさん。貴族の子息を奪還するために私と一緒に第三幽閉施設に行ってください!」
「わかった。行かせてもらう」
俺はルーナから死地への招待状を貰った。
「じゃあ、あいつらはさっさと逃がさないとな」
「はい。そうしましょう」
「この話はハイネに聞かれていないのか?」
「ハイネさんの耳には私が魔力で作った耳栓をしてもらっています。普通の声は聞こえますが、頭で考えていることは読めません」
「そうか。なら、大丈夫だな」
俺とルーナはルーナ小隊が待機している天幕に移動した。
「キースさん、目を覚ましたんですね。良かった~!」
ハイネは俺が天幕に入るや否や抱き着いてきた。男なのに可愛いな、おい……。
「……キース、おはよう。ナデナデして~」
エナも俺が来ると体に抱き着き、抱擁を求めて来た。俺は頭を撫でてやる。するとエナは嬉しそうに笑った。こいつらを無駄に死なせるわけにはいかない。
「アイク、体調の方はどうだ?」
俺はアイクに話かける。
「ああ、痛みは引いた。車くらいなら運転できる」
椅子に座りながら弾倉に魔弾を入れているアイクは呟く。
「そうか。じゃあハイネとエナ、ライト、救出した子供達を車に乗せてルークス王国に戻ってくれ」
「キースとルーナはどうするんだ?」
「俺とルーナはまだここに残る。敵兵の保護をしないといけないみたいだ。騎士団と共に行うから数はいらない。皆、疲弊してるだろ、さっさと帰ってゆっくりと休め」
「一番疲れているのはお前だろ。ルーナの回復魔法を使って一日以上寝込むなんて相当な疲労がたまっているんだ。お前が真っ先に帰った方がいい」
ライトは冷静に俺の状態を判断した。無駄に思考しやがって。
「ま、指揮官と副長が残るのは普通だろ。部下はさっさと帰れ」
「キースがいつから副長になったんだよ。たく……」
ライトは苦笑いをしながら立ち上がる。
「じゃあ、先に施設に帰って宴会の準備でもしてる。ナリスの葬式の準備もな」
ライトは俺の肩に手を置き、横を通ったあと、天幕から出て帰国の準備を始めた。
「はぁ、しゃあない。ライト、俺も手伝おう」
アイクもライトを追い、帰国の準備を手伝う。
「ハイネ、お前も手伝ってくれ」
ライトはハイネの名を呼んだ。
「は、はい! わかりました」
ハイネはライトの後を追う。
「…………エナ、キースと一緒にいたい」
エナは俺に抱き着きながら、子供のようにぐずった。
「エナ、もう疲れただろ。先に帰ってゆっくりと休んでいればいい。これからの仕事は俺とルーナだけで充分事足りる」
「…………でも、エナ、キースがいなかったら生きていけない」
「大丈夫だ。エナの仲間は沢山いる。前みたく、もう一人じゃない。だから心配するな」
「…………でも、でも」
「エナちゃん、私達はちょっと残った仕事を一瞬で終わらせてすぐに帰るから、心配しないで。皆と一緒に宴会の準備をしていて」
ルーナはエナの頭を撫で、聖女のような屈託のない微笑を見せた。
――ほとんど嘘なのによくそんな顔が出来たな。
「…………わかった、約束だよ」
エナは俺から離れ、ライトたちについていく。
天幕の中は俺とルーナだけになった。
「はぁ……、やっぱり俺は嘘を着くが苦手だ。どうも肩がこって仕方がない」
「そうですね……。私も嘘を着くのは苦手です」
俺とルーナは作戦を練る。俺達は自殺しに行くわけじゃない。死ぬ気で貴族の子供を救いに行くだけだ。
「キースさん、第三幽閉施設は山脈の麓に隣接されています。平地を突っ切って向かうのはほぼ不可能です。もし突っ切れば敵の集中砲火を受け、地面の養分になるかと」
ルーナはテーブルに地図を広げ、指を差しながら話す。
「なら、山脈側から敵陣地に降りていけばいいんじゃないか?」
「そうしたいのはやまやまですけど、傾斜が大きくて移動が難しいですし、山脈にも敵兵はいます。地の利はあちらの方が有利なので山脈を上るのも一苦労ですよ」
「だが、平地を突っ切るよりも作戦を成功させられる可能性があるんだろ。なら、山脈を上って敵の裏側を着く。だが、それが出来たとしても貴族の子供達を助け出して逃げるとか言う最難関の問題が残ってるんだよな。敵兵をすべて倒すなんて荒業は難しいだろ……、どうしたものか」
俺は腕を組み、足りない頭で考える。
「高火力の武器さえ無力化できれば、敵を戦闘不能にするのは不可能じゃありません。戦車砲や機関銃さえ止められれば、通常の銃火器は魔法で防げます」
「戦車砲……、機関銃……。機関銃の威力はわかるが、戦車砲ってどのくらいだ?」
「二階建ての家が軽く吹き飛びます。私の魔力でも防ぐのは不可能です」
「馬鹿みたいな火力だな。だが、そんな弾は反動もデカいだろうし、何発も連続で撃てないだろ。逆にルーナはそんな火力を放てないのか?」
「撃てます。ただ、連射は無理です。あと、その間、バリアで援護が出来なくなります」
「なら、俺が守ればいいだけだな」
俺はルーナの肩を抱き、笑う。
「な……。わかりました。しっかりと守ってくださいね……」
「ああ。任せとけ」
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