帰国組との
俺とルーナが作戦を練っていると、天幕の中におっさんの騎士が入って来た。
身なりは整っているが、腹が出っ張り、良い品をたらふく食っているんだろうなとわかる。
眉間にいくつもの皴があり、ふてぶてしい顏だ。
髪が薄くなり始めているのか、金髪のかつらをかぶっている。だが、微妙にずれており似合っていなかった。
「おやおや……、ルーナ小隊の者達に活でもいれてやろうと思ったのだが、聖騎士様と野蛮な下町のガキが一人か?」
「レナード上級騎士指揮官どの。どうかいたしましたか。今、作戦会議中なのですが」
ルーナはおっさんの騎士に睨みを効かせながら淡々と言う。
「作戦会議……。はっはっはっ! そんな時間、無駄でしかないだろう。女の聖騎士と野蛮な下町の男で何ができる。ルーナ聖騎士様や、さっさとその座から降りて有力な貴族の下に嫁入りした方がバラ色の人生があなたを待っていますよ。下町の者など捨てておけばいい」
「あなたには関係ありません。作戦会議の邪魔ですから、出て行ってください」
「せっかくあなたのためを思って言っているのに……。女なんて男の言うことを素直に聞いておけばいいんだ。非力な女に何ができる。女の騎士なんかが聖騎士になるなど一〇〇〇年の歴史の中であり得ないことだ。自分の無力さは十分理解しただろ」
おっさんは笑っていた顏から豹変し、顔を険しくしながら俺達をみくだす。
「無力かどうかなんてレナードどのには関係のないことです。私は命令を遂行するのみ。戦場の指揮権はあなたにありますから、今回は従います。でも、あなたが私の配下になった場合、覚えていてくださいね……」
ルーナは満面の笑みをレナードに向けた。威圧感が半端ではなく、ちびりそうなほど怖気がする。
「あ、明日の夜までに出発しろ! そのまま一生帰って来るんじゃねえ!」
ルーナに笑顔を向けられたレナードは顔を青ざめながら天幕を出て行った。
「はぁ……。面倒臭いおっさんですね。私に騎士団の指揮権なんてほぼおりないというのに、あの青ざめた顔、滑稽でしたね」
ルーナは穏やかな笑顔を見せながら呟く。
「あんな怖気の走る笑顔は初めて見た。滅茶苦茶興奮したぜ」
「は、恥ずかしいのであまり言わないでください。あと興奮したとかわけがわかりません」
俺とルーナは作戦会議を続け、明日の夜中に出発することにする。
今日の昼頃、出発の準備が整った帰国組が俺達のもとに挨拶しに来た。
「キースさん、一緒に帰りましょうよ! 私、嫌な予感がします。キースさん、絶対死ぬ気ですよね。他の人は騙せても私は騙せませんよ!」
俺との拘わりが長いテリアちゃんは俺の顔を見ただけで心を読みやがった。ハイネ以上の超能力者なんじゃないかと錯覚する。だが、俺は焦らずにリーズ先生宛の手紙と回収したペンダントをテリアちゃんに渡す。
「これをリーズ先生に渡しておいてくれ。これはテリアちゃんにしか頼めない。あと俺のことは気にするな。下町にもいい男は沢山いる。そいつらに目を向ければ幸せになれるさ」
俺はテリアちゃんの頭を撫で、微笑みかける。
テリアちゃんは顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた。
――せっかく別嬪なのにもったいない。
「キースさん、ルーナさん、本当に簡単な仕事なんですか?」
ハイネはテリアちゃんの発言から、疑いの目で俺達を見てくる。耳栓はしているので心の声は聞こえていないはずだ。だが、それでは信用してもらえないだろう。だから……。
「ああ。本当だ。耳栓を外してもらっても構わない」
「じゃ、じゃあ。外します」
ルーナはハイネとの間に魔力の壁を作り、心を読まれないようにしていた。魔力の壁は無色透明で存在していないようだが、実際は魔力の分厚い壁が出来ている。
「心の声が聞こえませんね。本心と言うことですか……」
ハイネは耳栓を付け、少し安心したのか微笑む。
「キース、帰ってきたら煙草と酒、女を教えてやる」
アイクは体調の悪そうな顔をしながら、つぶやく。
「女だけで十分だ。他はいらねえよ。アイクは女以外ほどほどにしておけよな」
アイクははにかみ、先に天幕を出て行った。
「ナリスとレインの死体が見つからないそうだ。敵兵に拉致された可能性もなくはない。まぁ、ナリスは魔動車と一緒に連れていかれたのかもしれないが、レインの行方が不明だ。あいつがそう簡単に死ぬとは思えねえ。だが、俺は先に帰る。お前達が見つけてやってくれ」
ライトはさっさと帰りたいようだ。いい奴だと思っていたが、人間臭い野郎だった。
「ああ。わかった。じゃあ、ガキどもの護衛は頼んだぞ」
「わかってる。俺だけじゃなく、エナもいるから大丈夫だ。何かあったらこいつに全部任せる」
ライトはエナの頭に手を置こうとするも、小さな手で弾かれる。嫌われているな。
「キース……、ルーナ……。早く帰って来てね……」
エナは眼をうるうるさせながら呟いた。願いを必ず叶えてやれるかはわからない。
「エナ、お前は強いから一人でも生きていける。でも仲間がいるからずっと生きていける。仲間を信じて生活を共にすればもっとお前の力を発揮できるはずだ」
「エナちゃん。女の子だからって馬鹿にされても気にしないで。戯言を呟く奴なんて私よりも格下の雑魚なんだからね。エナちゃんは私が認めた素晴らしい兵士よ。自信をもって」
俺とルーナはエナの肩に手を置いて別れ際の言葉をかけた。
「わかった……。エナ、やっと生きていたい場所を見つけた。だから生き続ける」
エナは魔弾の副作用がまだあるのか、ぎこちない動きで俺とルーナに抱き着く。そのあと、ハイネに肩を貸してもらい、ぐずるテリアちゃんの手を引っ張りながら一緒に天幕を出て行った。
ルーナ小隊用の天幕内は俺とルーナだけになり、物寂しい空気が流れる。
俺は椅子に座り、テーブルに脚を置いて行儀悪く天井を眺めた。




