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異世界訪問は突然に  作者: 矢吹さやか
第2章
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#018 カフェでの遭遇

第2章開始です。

 2講時目の講義が終わって、美里は沙織と学生会館の中にあるカフェで、ランチを楽しんでいた。

 普通のご飯が食べられる幸せを噛み締めていたら、沙織に変な顔をされた。


 何かと柔軟な思考の沙織であったが、流石に昨晩(というのもおかしな話なのだが)の仕事の話はしなかった。


「そうだ、昨日はご飯ありがとうね、美里。女将さんにもよろしく言っておいてね」


 あぁ、そう言えば3日前(・・・)は、沙織と『瑞季』で賄を一緒に食べたのだった。

 それすら遠い出来事のような気がして、ちょっと反応が遅れてしまう。


「い、いいえ、どういたしまして。また行こうね」

 と当たり障りのない返事をしたのだが、沙織はその隙を見逃してくれなかった。


「どうしたの?あなたらしくないわね。何か考え事でもしてるの?」

「い、いや、そういう訳では……。」


 心ここにあらず、という感じの美里に沙織が怪訝な顔をする。


「あなた、今朝もちょっと変だったし……。」


 そう、今朝講義の前に沙織に会った時、美里はまた会えたことに安堵し、ついしがみついてしまったのだ。友人の挨拶にしてはちょっとオーバーだ。


「ホント、何でもないよ。」

 一生懸命普通を装うが、沙織はさらにジト目になり、美里を見ている。沙織は結構人を良く見ている。観察眼が鋭いというか、変化を見逃すようなことをしない。


「あ、あなたもしかして……、恋煩い?」

「そんな訳ないじゃない!どこから恋煩いとかでるのよ!」

「友人を目の前にして、心ここにあらずというのは、だいたい恋煩いなのよ。優先順位の問題ね。」

 そういうものなのだろうな。恋人ができて友人たちと疎遠になる女の子は確かに少なくない。相手に夢中になってしまい、それまでの他の関係を疎かにしてしまうのだ。しかし、今の美里はそうではない。


「だから、違うってば……。ちょっと疲れただけよ。」

「韜晦するのは、疲れた時の反応とは違うのよ。私の目を誤魔化すのは無理なの。」

「ご、誤魔化してなんかないって。」

 本当によく見ている。体調管理までされているのだろうか。


「そ、そもそも恋煩いって相手が必要じゃない!私にはそういう相手はいないよ。そんなの沙織が一番知ってるじゃないの。」

「え?相手って、もちろん片桐先輩のことだけれど?昨日アレなことをされたから、気になってるんでしょ?」

「ち、違うよ!変なこと言わないでよ~。」


 変化は見逃さないが、内容がガールズトーク方面に行ってしまうのが玉に瑕だ。いや、女の子だけの会話なんてそんなものなのだけれど。

 ファッションの話、グッズの話、スィーツの話、芸能人の話、そして恋の話。

 それらがあれば、何時間だって話せるものなのだ。

 しかし、あまり自分が中心にはなりたくない。


 一息つくために紅茶を口に含む。


「何か怪しいんだよね~。もしかして、片桐先輩が夜這いでもかけてきた?」


 ぶーっ!と女の子失格の擬音とともに、盛大に紅茶を吐き出してしまった。


「げほ、げほっ……。んなわけないでしょ!女子寮に夜這いとか、あり得ないしっ!」


 必死に否定する。当たり前だ。そんなことはされていない。ちょっと風呂に突っ込んでこられただけだ。それも言えることではないけれど。

 噴き出した紅茶がテーブルを汚してしまったので、布巾で拭いていたところに……。


「汚いな。貧相なだけでなく、行儀まで悪いのか?美里は。」

 と、第三の声が 届く。


「貧相言うな!誰が貧相なのよ、誰がっ!」

 と、声の主に顔を向けた美里は、言葉を失う。

「……、ゆ、悠希?」

 そう、そこにいたのは散々話題になった、片桐悠希その人であった。

 悠希は食事のトレーを持って、席を探していたようだ。

 何で今ここにいるんだ、と美里は困惑する。


「かなめ?もしかしてこの人が、片桐先輩?」

 沙織が状況を素早く把握し、指摘をしてきた。


「何だ?私がここに居てはおかしいのか?美里。私はここの学生なのだが?」

 美里が、信じられないものを見るような目つきで見ていると、悠希はそう尋ねた。

 そして沙織に向かって、一礼して、

「あなたが後藤沙織さんですね。初めまして。片桐悠希です。あなたの事は美里から伺っています。話に聞いていた通り、素敵な方ですね。」


 と、偉く丁寧に挨拶をした。

 いや、沙織のことを言ったのは、藤堂さんだろうがっ、と心で突っ込む。

 そしてなんだ、その賛辞は。扱いが違い過ぎるでしょっ、という不満も心の中で叫ぶ。


「やはりそうなのですね。初めまして、片桐先輩。後藤沙織です。私のこともご存知とは知りませんでしたわ。お世辞でもそう言っていただけて光栄です。」


 沙織が席を立って同じように一礼した。


「で?美里さん?」

 礼を終えた沙織が、美里に向いて声をかけた。沙織が、さん付けして呼ぶ時は後に引かないくらい強い気持ちの時だ。

「は、はい?何でしょうか?沙織さん」

 美里のさん付けは、単にこれからの追及のことを恐れているだけだ。沙織のジト目がその迫力を増している。


「色々とお話することがありそうよね。あ、片桐先輩も同席されませんか?」


 結構カフェ内は賑わっていて、他の席がないようだったので、沙織の提案に、喜んで、と見たことがない紳士な対応をし、美里の横に着席した。


(なんで私の隣なの!こんな所に座ったら私が困るじゃないのっ!)

 一人焦っている美里。悠希は我関せずだ。とはいうものの、沙織の隣に座られてもやはり変だし、ここは自分が沙織の横に移動するのが正しいのだろうな……と思っていたら、完全に出遅れた。


「早速ですが、片桐先輩は、昨日初めて美里に会ったんですよね?」

「はい、そうです。それがどうかされましたか?」

「いえ、昨日の話は、概ね美里から伺いましたが、何だか、聞いていたよりも遥かに親密度が高そうなので、不思議に思っているのです。」


 いきなりのストレートど真ん中だ。悠希はどう打ち返すつもりなのだろう。


「呼び方の事ですか?美里から話を聞かれたのでしたら、同じ仕事をすることになったのもご存知ですよね?」

「えぇ、昨日その話で盛り上がりましたよ。」

「仕事をする上で必要があって、お互いの呼び方を決めただけですよ。親密度は高いとは言えないレベルだと思いますよ。」

「いつの間にそんな話をしたのです?昨晩美里とお会いになったのですね?」


 まぁ、そりゃそうだよね、と内心でため息を吐く。沙織との夕食の後そのままバイトに入ったし、終わったら夜中と言って差し支えない時間だし、今日はゆっくりだったとはいえ、午前中から講義に来ている訳だし、残る時間は深夜しかない。


「いえ、会いはしていないですよ。夜中に色々心配になったらしくて、美里が寮から電話してきたんですよ。全く以て迷惑な話です。」


 悠希はしゃぁしゃぁと嘘を並べる。しかも美里からのアクションにすり替わっている。

 思わず美里は念話で反論する。


『ぜんっぜん、違うじゃないですかっ!なんで私が相談したことになってるんですかっ!』

『ん?間違った事は言ってないぞ。呼び方を決めようとしたのは間違いなく君の方だ、美里。もう忘れたのか?』


 うっ。そうだった。お前呼ばわりが嫌だったから提案したのだが……。

 そんな伏線回収しなくていいじゃない、と美里は拗ねる。


「そうなのですね。それでも、それ以上の何かを、私は感じています。今も、もしかして昨晩先輩が、美里に夜這いでもかけたのかと、聞いていたところでした。

 電話ではなくてお会いされていたのだと思うのです。それも結構濃密な時間の使い方だったのでは?と考えています。いかがですか?」


「後藤さんは、想像力豊かな方ですね。なぜそこまでお気になさるのですか?」

 悠希が、微妙に曲げてきた。

「いいえ、どうやらこの友人が、先輩に恋しているようなので、たった一日で何があったのだろうと考えていただけですよ。」


 美里は完全においてけぼりであるが、流石にこれは聞き逃せない。


「沙織~、私恋してないって。失礼な先輩に文句言ってただけだよ~。」


 果たして、私の抗議は無視された。


「どうでしょうか。私の友人はそれなりにお買い得だと思うのですが。」

 沙織はなぜか私を売り込もうとしている。どのあたりがお買い得なのかはさっぱりわからない。


「今の所、私の予定に美里とそういう関係になるというのは、入ってないですよ。それに、本人も嫌そうですしね。お買い得というのは……、そういう趣味の人もいるってことですかね。」

 悠希が即答で否定する。間違っていないのだが、それはそれで傷つく。

(そういう趣味って、私を好きになるのはそんなに趣味が悪いってことなのだろうか……。)

 落ち込む美里にお構いなく、悠希は続ける。


「それに濃密な時間というのは、色々語弊がありますね。あまり人前で言うとそれこそ誤解を受けてしまいます。本当に電話していただけですよ。」

 正直に話すことはできない。してしまったら色々と既成事実ができてしまう。そんなネタを提供するわけにはいかないのだ。

 横でうんうんと首を縦に何回も振って、同意する美里。


「あら、そうなのですか?とてもそうは見えませんが。特にそこの友人は根が正直ですから、反応でよくわかるのですよ。」

「まぁ、とても素直な性格であるとは思いますね。裏がなさ過ぎて心配ではありますが。」

 余計なことをいう悠希である。あんまり言うとボロがでるでしょうに!と心の中で文句を言う。悠希の横で落ち込んだり、怒ったりと忙しい美里であった。


 本来、沙織は簡単に諦める人ではない。それでもこの場は珍しく引き下がった。

「まぁ、今回はそういう事にしておきます。で、実際のところ、友人に脈はあるのでしょうか。」

「美里は仕事のパートナーですのでね。そういうのはなしにしておきたいと思いますよ。」

「そうだよ、沙織。し、仕事を一緒にするだけだし、何もないよ。」


 悠希の否定に乗っかっておく。

 沙織の目が妖しく光った気がした。


「わかりました。今のところはそういう事にしておきます。」

 ほっ。助かった。と思ったのはその時だけだった。


「後で美里に色々聞いておきますね。」

 追加追及確定だ。

 色々と覚悟する必悠希がありそうだな、と美里は心の中で恐れおののき、それを回避するための策を練るが、よい方法は思いつかなかった。かなり憂鬱な夕飯になりそうだった。


久しぶりの大学です。


沙織と要をどう会話させるか悩みながら書いたら少しながくなったので、分割です。

その分少し短めになっています。


次回は9/8更新予定です。


拙作『FANTASY OF OWN LIFE』もよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n1320dk/

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