#009 事務局長との面談
微妙な雰囲気のまま朝食を済ませ、ロイル君には一旦馬車に戻ってもらう。もちろん勝手にいなくならないように言い含めておく。素直に従ってくれた。今いなくなってしまったら探した意味もなくなってしまうが、さっきの様子からだと特に問題はなさそうだ。
「さて、本日最初の予定をこなすことにしよう。」
悠希はそういうと、左手の掌を地面に向けて、目を瞑る。ほどなく地面に魔法陣(よくわからないが、もう魔法陣でいいや、と美里は思っている。)が現れる。今回の魔法陣は移動用ではない様子だ。乗れとか突っ込めとか悠希が言わないから、というのもあるが、魔法陣の中央付近の上あたりに何かしら映像っぽいのが映り始めたからだ。どうやら通信手段的な何からしい。
「おはようございます。事務局長。ご連絡が遅くなり申し訳ございません。」
え?悠希がまともな言葉遣いをしている?と若干混乱がちな美里だが、その考えを巡らせる暇もなく、その映し出された人物は声を上げた。
「あぁ、おはよう。片桐くん。無事に任務の第一段階は終わったようだね。」
「はい。迷い人に関しては、閉鎖空間から連れ出せました。あとは届けるだけです。今回は3日ほどかかるかと思います。」
「その点はすでに報告を受けている。で、今日の連絡はそれではないのだろう?例のパートナーはその子かい?」
向こうからも見えるのだろうか。Sky○eみたいなものなのかな、と不思議な気持ちで見ていた美里は、自分のことを指摘されてちょっと驚く。
「え、あ、はい。たぶんそうなんだと思います。北條美里です。」
「ははは、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、北條くん。どうせそこの朴念仁はまともな話はしていないだろう?」
「余計なお世話です。朴念仁も余計です。とりあえず先ほどの質問の答えとしては、はい、でもあり、いいえ、でもあります。私は仕方なく面倒を見ているだけです。他でパートナーのなり手があったら引きとてもらっても構いません。」
「な、無理やり連れてきといて、その扱いとか酷くないですか?」
「まぁ、そうケンカしないでくれたまえ。片桐くんも無理はいかんな。自己紹介がまだだったね。私は特別次元捜索官協会日本第十三支部の事務局長の藤堂剛士という者だ。どうぞお見知りおきを。」
「は、はい。何もわからないまま、こんなことになっていますが、どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「なかなかよいお嬢さんじゃないか。朴念仁にはもったいないな。」
藤堂は、見た目が40代半ばだろうか。精悍な顔つきで、机に座っているからわかりづらいは、結構大きい感じがする。
体つきはガッチリしていて、ラガーマンと言われてもおかしくはない感じだ。年齢よりも若い感じの顔つきだが、髪が少し白いものが混じっているので、40代半ばだと思ったのだが、実際はどうだろうか。
「さて、早速面談というか、最終登録確認をしておこうか。」
「名前は北條美里。女性。身長165cm、体重とスリーサイズは……、うん、片桐くんの前だからやめておこうか。個人的にはとても魅力的なスタイルだと私は思うけれどね。××県の○○市出身。市ではあるが、吸収合併されて無理やりできたところだったな。
北條くんはその中でも結構山の中の住まいだったんだね。両親はご健在。祖父母は母方の祖父と、父方の祖母が亡くなっている。兄弟は弟が一人。中学生だね。今年、地元の県立高校を卒業後、片桐くんと同じ大学に入学して、現在経済学部在学。
大学の学生寮に住んでいて、学費と寮費は両親持ち。その他の生活費等を稼ぐため、大学近くの小料理屋『瑞希』で週4回アルバイトをしているね。女将さんがお母様のご友人だとか。客からの評判は上々と聞いている。初めてバイトをしたとは思えないほどよく気が利き、女将さん、板前さんからの覚えもめでたい。
大学での友人はまだ少なそうだが、後藤沙織さんという親友がいるね。彼女もとてもキュートだな。大学での部活動・サークル活動はしていないし、特に興味をひいているものもない。将来は地元の企業に就職して、そこで働きたいと思っているようだね。
特に持病などもなく、健康体だ。何よりだね。でも高校1年生の時に2か月ほど入院していたそうだね。」
と、どこからか取り出した書類を見ながら、藤堂は流暢に美里の身体的特徴、経歴、家族構成、生活事情、友人事情などを列挙した。
あまつさえ、ここでは誰にも話していない高校時代の入院騒ぎまで知っているとは……。
「な、なんで、そんなことまで……。」
「私たちは、迷い人を元の所属場所まで送り届ける仕事をしている関係で、情報の収集と分析のスピードは命だ。片桐くんもさすがにそれくらいは言っていると思うが、迷い人が『回廊結界』に入ってから出るまでは早い方がいい。出た後は今君たちが置かれている状況の通りで、元の居場所に送り届けなければならない。だから、いろいろとそのための手段も講じている。が、細かい話はやめておこう。こちらの協会の機密事項でもあるのでね。」
軽くウィンクをして締めくくる藤堂。いろいろと唐突過ぎて、茫然とする。
「北條くんは、たまたま、学内の『回廊結界』内に入り込んでしまって、そこの片桐くんに助けられた。その際、右足の踵に『印』がついてしまったために、学内の片桐くんの潜伏場所にも入ってしまい、協力を強制させられた。いわば、正式な手続きを踏んで協会の捜査員になったわけではない。そこで、今この場を設けてもらっている。本来は、こちらの世界で直接来てもらうつもりだったんだが、急に片桐くんに仕事ができてね。同行してもらったというわけだ。唐突なことでいろいろと驚いていると思うが、すまなかったね。何か不便はないかな?片桐くんが失礼なことをしていないかな?」
「え、ええ、不便は今のところありません。お気遣いありがとうございます。片桐先輩には、いろいろと失礼なことをしていただいておりまして、苦情の一つや二つ挙げておきたいくらいです。」
「おいおい、私が何かしたのか?」
まるで完全に冤罪であるかのように嘯く悠希だが、ついでだからこれまでの悪事(?)を上司に言ってしまえば、セクハラで処罰でもされるのではないか、と期待半分で美里は報告した。
「はははははは。これは愉快だ。片桐くんも色々と役得な状況を楽しんだようだね。まぁ、同僚職員へのセクハラは処罰対象だからね。後で報酬からその分カットしておくよ。」
「お言葉ではございますが、役得とか思ったことは微塵もありません。北條の報告内容は事実ではありますが、不可抗力であり、意図的な行為ではなく、緊急性が高かったことから、情状酌量を求めます。私個人としては、貧相な北條の肢体には興味がありませんので、見たくもないものを見せられた精神的苦痛による補填を悠希求します。」
「何度も貧相っていうなー!そんでもって精神的苦痛とかいうなー!」
さっき藤堂が魅力的なスタイルであると言ったのが、聞こえなかったのだろうか。大きくはないよ、大きくは。でもバランスはいいんだよ!きっと!と心の中で追加文句を唱える美里。
「まぁ、冗談はそれくらいにしておこう。時間も限られている。早速だが、最終登録確認をしておく。」
と、ひとしきり笑った後、真面目な顔つきに戻って藤堂が続ける。
「我々の活動については、片桐くんから概ね聞いていると思う。まぁ、疑問はいろいろあるとは思うが、最後にまとめてお願いする。活動はシンプルだ。一つ、『回廊結界』に迷い込んだ迷い人をそこから救出する。一つ、救出した迷い人を元の所属場所に送り届ける。この二つだ。ただし、迷い人の所属場所に該当する世界は、通常の我々の世界とは限らない。寧ろそうではない方が確率が高い。日本における年間の本当の行方不明者の割合は説明を受けただろうか。」
悠希の話でその件はあった。確か2000名ほどの人間が見つからない行方不明者の概数であったと思う。
「その通りだ。実際には単に人目につかず亡くなってしまった人もいるだろうし、そこまで多くはない。概ねその半分くらいだと思ってもらえればいい。一日あたり3人平均というところだな。当協会の日本支部は全部で25。その中で捜索官は1000名ほどの登録があるので、年に1回当たればいい方だ。それに引き換え仕事の発生率は高い。つまり他の世界の仕事が多いということになる。北條くんからすると、全くこれまで聞いたこともない世界での仕事になる。」
美里は、意外に捜索官の人数が多いことに驚いた。そんな人数の人がこの仕事に関わっているのか、聞いたこともないが……。
「さて、北條くんは自らの意思とは関係のないところで、この世界に足を踏み入れるきっかけができたと聞いている。今は成り行きで仕事に入ってもらっているが、こちらで正式に捜索官として登録をするために、次のことを確認したい。」
いよいよ本題なのか……、緊張した面持ちで美里は藤堂の次の言葉を待つ。
「一つは、協会からの任務は特定のものを除き、必ず受けること。これは悠希望ではなく悠希請であり、捜索官に拒否権限がないことを示している。当然難度は、各担当に最適なレベルの依頼しか行わない。無理な依頼をして達成できないということは、考慮しなくてよい。もう一つは、別世界にも我々と同じような組織があり、日々活動をしているが、任務中にその組織から追加の任務依頼がされる可能性があり、その依頼に関しての授受・結果に関して、我々はその責任を負わないことを了承すること。最後に、別世界の文明・文化に影響を及ぼすような行動をしたり、文明レベルの違う物を残したりしないこと。これは逆にこちらの世界に影響を及ぼす行動・物に対しても同じであることを理解するように。以上3つのことを了承してもらえれば、登録が完了する。」
任務は必ず受ける。別世界の協会依頼は任意で受けることができる。別世界に影響を及ぼさない、影響のあるものは持ち込まない。最初の任務は必ず受ける、というのが一番難しそうで、残りの二つはある意味当然のことと思われた。
「あと、我々の任務は基本的にツーマンセルだ。今後の北條くんのパートナーは、片桐くんにお願いすることになる。面白味のないヤツだが、よろしくやってくれ。」
よろしくやってくれ、というのは悠希の方に言うべきでしょうに、と思いながら首肯する美里。
ツーマンセルでの仕事であり、他の捜索官が分からないこと、大学が同じで連絡が取りやすいことを考慮すると、ベターな選択なのかもしれない。それでも気になっていることはある。
「片桐先輩のこれまでのパートナーってどうなったんですか?」
話が終わったと判断して、美里は質問した。
次回8/21投稿予定です。
中々先に進まないですね……。
すいません。
お読みになった方、ぜひご意見・ご感想お願いいたします。
拙作『FANTASY OF OWN LIFE』もよろしくお願いいたします。
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