一欠片目『鬼との遭遇』
ご覧いただきありがとうございます!
9月18日をもって改稿しました。
初投稿ではなくなりましたが、初作品には変わりないので、まだまだ未熟な部分もあると思います。
ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです!!
ここは、鬼魃と呼ばれる生命が死に絶えた土地。
ここでは遮蔽物は殆ど無く、ひび割れた平坦な荒野が広がっている。
極めつけは蜥蜴すら迂回するほどの強い陽射しが一日中照りつけ、ジリジリと肌を焼き焦がす。
そして今、そんな場所を駆ける人影が二つ。
一つは二十歳前後の青年、その名も蒼龍。
彼は今まさにもう一つの影の持ち主、鬼との鬼ごっこの真っ最中であった。
「はぁ…はぁ…おい…。テメェ…いつまで逃げる気だ!!
さっさと俺の腹に入れ!!」
「…………」
「腹減ってんだよ!!」
息を切らしながら迫り来る鬼に対し、我関せずといった様子で走り続ける。
この追いかけっこは開始してから既に二時間が経過しており、鬼の方が呼吸が荒くして今にも倒れそうになっている。
「おい…テメェ……。む、ゴホッ、無視…。してんじゃ……ねぇ」
あまりのへとへとぶりに少し不憫になる。
ただ一言…いや、ため息でもいいのでついてあげて欲しい。
ついにその時は来た。重く閉ざしていた口が開く。
「………そろそろ面倒だね」
辛辣。だが、そんな一言でも満足いくものだったのだろう。鬼はキラキラと目を輝かせている。
喰おうとしてるくせに少し可愛いく見えるのはなぜだろう。
蒼龍はくるりと体を捻って振り返る。
冷えた視線は鬼を捉え、静かに構える。
『雷鳴——』
瞬間、蒼龍の足に電気が迸り、周囲の空気が僅かに揺れだす。
同時に、紺色掛かった黒髪と瞳が蒼く発光する。
無情にも蒼龍の必殺の一撃が決ま――
「うぉぉぉぉぉ!!」
ることはなかった!!
「え?」 「はぁ…あぁ?」
突如、蒼龍と鬼の間に割って入るように少年が飛び出して来た。
突然の出来事にゼェゼェと息を切らしながら、戸惑う鬼。
放つ筈だった蹴りを蒼龍は慌てて止める。一方で新手なのではと警戒も強める。
だが、当の子供はよほど急いで来たのか「ぜぇ…はぁ…ゴホッ、ゴホッ」と顔を真っ赤にし息を切らしている。
その様子に流石に心配になり、大丈夫かと声を掛けようとするが——
「大丈…」
「大丈夫か?」
鬼に先を越された。 いや、なぜ?
お前の役目じゃないだろ、と子供の背中を擦る鬼に刺すような視線を向けながら蒼龍は思った。
息が整ったのか子供は鬼に向かって「あんがと」と頭を下げる。
だが、その姿勢のまま固まり、動かなくなってしまう。
その様子に鬼が心配して「具合悪いか?」と優しく尋ねる。
いや、鬼子母神か。
だが、次の瞬間——
少年は両手を広げ「ぐわぁぁ!!」と咆哮を上げ威嚇する。
そんな猫だましのような事で驚くやつなんて——
「おわっ!?」
——いた。
絵面だけ見れば漫才のようだが、実際は殺るか喰われるかの死闘の真っ最中である。
咆哮で鬼をずっ転けさせることに成功したので、その間に逃げようと必死に蒼龍の手を引っ張る。
だが、まだ疲れているのだろう。
「うギィー、はぁはぁ」とすぐに息を切らしている。
必死なその姿に蒼龍は、親と力比べをする子供を見ているかのように和やかな表情を浮かべていた。
頑張る子供はかわいいが今ではない。
必死になって「いそげー」と腕を引っ張る子供のためにも早く逃げて欲しい。
時間がかかり過ぎてしまい、鬼が起き上がってしまう。もはや絶対絶命。
「おい、笑ってないで逃げてやれよ可哀想だろ」
まさかの鬼から鶴の一声。本当に捕食者なのか疑わしくなる。
少し気まずそうに鬼は後頭部をポリポリと掻いている。
鬼の態度に、名残惜しそうな表情を浮かべつつ蒼龍は動く事にする。
鬼に少し待つよう、視線を送り少年に背中に乗るよう促す。
しっかり掴まったのを確認し、鬼に向けて親指と人差し指で円を作り、準備万端の合図を出した。
合図を受けとった鬼は軽く頷くと同時に勢いよく飛びかかる。
「突撃!お前らが昼飯!!」
「行くよ」と少年に囁くと、疾風の如く駆け抜けていった。
その速度は鬼ごっことは比べものにならず、負われている少年の方がぐるぐると目を回すほどであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん。ここらへんでいいかな」
全力疾走の末、二人は日陰に丁度いい岩陰に隠れる事にした。
「うぅ、めがまわったぞ」
「少し飛ばしすぎたね」
少年とはいえ人一人を背負ってなお、鬼を置き去りにする速度での疾走。
搭乗者に優しくない速度だったのだろう。視界が定まらないのも頷ける。
少し休憩を挟んだ後、お互いに名乗り始める。
「改めて、俺は蒼龍。君の名前は?」
「おれはノアだ!!よろしく!!ソーリュー!」
見た目相応にノアは子供らしく、元気いっぱいに答えた。
「よろしくノア。さっきは助けてくれてありがとう」
ノアの介入が無ければ、恐らく鬼を倒していただろう。それでも礼を言うあたり、蒼龍の人柄が伺える。
「ノアはなんでこんな所に居たんだい?」
人のことを言えた義理ではないだろうが、確かに少年がいていいような場所でないこともまた事実であった。
「おれ、森でデストとふたりでくらしてたんだ」
「デスト?ノアの家族かい?」
「おぉ!そだぞ!ずっと一緒にくらしてたんだ!!
でも、きのういきなりへんなヤツがきて殺されたけどな」
余りにもあっけらかんとした態度で答えるノアに驚きよりも、恐怖に近いものを感じる。
それでも感情を一切表に出すこと無く蒼龍は続ける。
「それは残念だね…。不躾だがデストを殺した人物の特徴は分かるかい?」
「んーと、クロくてツノと尻尾とハネが生えたな。
あっ、そうそう!デストが神ってよんでたぞ!!」
「ッ!?」
神、その一言に蒼龍は思わず呼吸を止め、硬直してしまう。
神とはこの世界の頂点にして絶対者である。
逆らう者がいれば使徒が裁きを与えにやってくる。
故に、神にやられたなど虚言にしかならず、むしろ神の名を使ったとして粛清対象になる事だろう。
だが、ノアの述べた黒いという特徴はごく一部の者しか知り得ない情報であり、それこそがノアが神と対峙した事実を物語っていた。
そして、そんな神が自ら手を下すほどの存在――デストとは、一体何者なのか。
「ノアは神を探すために、あそこに居たのかい?」
「おう!でもどこにいんのか分かんないからブラブラしてたらソーリューがみえて、つっこんだ!!」
ひとまず納得すると、蒼龍は顎に手を置き考える。
(ノアは神を見つけてどうしたいんだ?
話を聞く限りでは復讐が妥当ではある。だけどノアからは怒りや憎しみといった復讐者特有の雰囲気を感じない。
あっけらかんとしてたが、デストの話をする際に無意識に手の甲を撫でていた………)
むむむ、と思考を悩ませる蒼龍にノアが問いかける。
「蒼龍はなんでツノはえたヤツにおわれてたんだ?」
その問いに、蒼龍は虚を突かれたような表情を浮かべる。
別に、追われていた理由について話す分には抵抗は無い。
故に蒼龍が驚いたのはノアの『角生えた奴』この一言に対してであった。
二人がいる場所は大和と呼ばれる島国であり、そこに住む者であれば鬼を知らないはずがない。
例え国外から来たとしてもそれは変わらない程に、鬼の存在は知れ渡っている。
そのため、いくら幼いとはいえノアが知らないのは不自然であった。
再び唸ること五分。思考の末、蒼龍は一つの可能性を導き出す。
「ノアが住んでいた森には、君とデストの二人以外に人は居なかったんじゃないかい?」
「おう、そだぞ? おれたちいがいは、兎とかしかいなかったぞ」
(となると、やはり不知森かな)
【不知森――入ったら最後、決して出て来れないとされる森であり、十年程前から失踪事件が多発したことで禁足地に定められた】
(確か神隠しが始まったのは十年程前から、ノアもそれぐらいの歳かな?
前に森に子供が入ったと目撃情報もあったし。
なにより、此処から徒歩一日圏内にある森で人が居ないのはあそこだけ。ほぼ間違いないだろう)
なぜ、そんな所にノアが住んでいたのかは分からないが、少なくとも神隠しの原因はノアに……
そんな思考が頭をよぎるが、これ以上は邪推だろうと切り上げた。そして、改めてノアの問いに答え始める。
「さっきの角の生えてた奴は鬼と言って、生き物の生命力を喰べて生活しているんだ。だから普段は人や生き物の多い森とかに居るんだ」
「ほうほう、オニ?」
「それで、ここは鬼魃と呼ばれる生命が枯れ果てた不毛な地でね。生き物も寄りつかない場所なんだ。
だから鬼も居ないだろうと思って選んだんだけど、何故か居てね。
俺を恰好の餌だと思ったんだろうね。追いかけてきたんだ。」
説明中、ふむふむと頷く様は子供らしく見ていてほっこりとする。思わず口元が緩んでしまった。
ついつい、追われていることを忘れそうになる程に。
だが、次の瞬間——
「見つけたぞ」
背後から掛けられる低い声に、反射的に振り返る。
そこに立っていたのは——
岩であった。
「そっち…じゃない…こっち…だ…」
か細い声がやや上の方から聞こえ、改めて顔を向ける。
そこに居たのは——
息切れで腹式呼吸をする鬼であった。
「ふぅ…ふぅ…」
辛そうな鬼に少し心配になりながらも、ノアは蒼龍の袖を引っ張り逃げようとする。
だが、蒼龍は余裕の笑みを浮かべ煽るように鬼へ言い放つ。
「遅かったね」
その一言にノアは思わず「なに、いってんの!?」と蒼龍の腕を掴み揺らす。
あわあわと慌てている中、背後から肩を叩かれる。
振り返ると、今にも消えそうな声で「ま…てくれ……はぁぁ……」と鬼が懇願してきた。同情心から待ってあげる事に…。
三分程経ちようやく息が整ったのか鬼が口を開く。
「見つけたぞ。かくれんぼを続けるなら付き合ってやる。俺の腹の中に隠れるといい」
どうやら先程の「見つけたぞ」には続きがあったようで、今まさに最後まで言い切れて満足そうにしている。
「さぁ、どう――」
さぁ、どうする。その言葉を言い切る前に、二人は全力疾走で逃げていた。
またも取り残される鬼はまるで、仲間外れのイジメられっこのよう……。
「……クソが…クソがぁ゙ぁ゙」
ついに鬼の堪忍袋の緒が切れ、鬼の形相で突っ走って来る。もともと鬼なので当たり前ではあるのだが。
「これ以上喰わなかったら死ぬんだよ!」
鬼気迫る勢いで加速する。先程まで息切れしていたとは思えない。
「ソーリュー!あいつ死ぬとかいってるぞ?」
「はは、そうだね。死にかけてるね」
「わらっていいのか!?」
【鬼――魂を喰らい生きる存在。生き物の生命力を糧とし、喰らう程に強さを増す。】
そして、長期間食べなければ見た目に変化こそ無いものの自身の魂を消費することになり、やがて死に至る。
「鬼魃ところに居るぐらいだから、余程食べていなかったんじゃないかな?
まぁ、子供の足でも一日あれば森に着く距離に留まってるんだから自業自得さ」
逃げるのもいい加減飽き、蒼龍は反撃に出ようとその場で鬼に向かって振り返る。
『雷鳴——』
蒼龍の一撃が今度こそ決ま——
「うぉぉぉぉぉ」
らなかった……。
またも、ノアに阻まれる。見せ場を奪われ、しゅんとする蒼龍に対し「なにしてんの!?」とノアは焦り散らす。
何故そこまで動揺しているのか蒼龍には理解出来なかった。
確かに顔を真っ赤にした文字通りの赤鬼が迫って来たら怖いだろう。
だが、神と相対した者であれば、少し強面の成人男性にしか見えない筈。
そんな疑問を浮かべていると、ノアからまさかの一言。
「デストを殺したヤツもツノがはえてた!!アイツもオニなのかもしれない。
だったら今のおれじゃかてない!!」
「えっと…ノア? 君の家族は神に殺されたんだよね?」
「ん?そうだぞ?」
「だったら問題はないよ。だって、神は“竜”なのだから」
「・・・リュー?」
「うん、竜。 竜は角が生えてて尻尾があって翼もある。ノアが教えてくれた特徴通りの」
「えっと、じゃあ…」
ようやく勘違いに気づいたノア。
「ソーリューにも角があるのか?」
前言撤回、何も気づいていなかった。
これには蒼龍も苦笑…いや、口元をピクつかせ笑いをこらえていた。
「俺に角はないよ。確かに名前にリュウがつくけど…字が違うしね」
「おー、そうなのか!だったら、あいつからにげるひつようないのか!」
口角を上げ、満面の笑みで迫り来る鬼に向け駆け出す。
「おらぁぁぁ!!」
「へ?」
全力疾走で迫って来るノアに、思わず間抜けな声を出す。
鬼の目の前で「とうっ」と軽く跳び、鬼の肩に向け右足を落とす。
『十字星』
落とされた右足は勢いそのままに鬼を一刀両断し、着地と同時に左足を軸に右足を滑らせ脇腹目掛けて横に蹴り切り、上下左右、泣き別れの四分割となった。
(そんな、あっさりと…)
「おりゃあ!!」
(えぇ……)
ここは、神が統べる神世界。生殺与奪は神に委ねられ、背くものは容赦なく排除される。
そんな世界で神を討ち取らんとする者達が世界を敵に回し立ち向かう物語。
これはそのプロローグである。
ご覧いただきありがとうございます!
記念すべき第一話、楽しんでいただけたでしょうか?
初投稿ということもあり、本日は三話同時投稿となっております。
今後は毎週金曜日20時に更新予定ですので、よろしければ次回も読んでいただけると嬉しいです。
引き続き、『神世界のエスカトロジー』第二話もお楽しみください!




