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大賢者の末裔  作者: 理想久
第四章 魔術師の邂逅
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探求せよ。それが魔術師に課せられた使命であるが故に 参


 ■◇■


「なあフリッツ」

「なんだよ。早く入ろうぜ、混んだら面倒臭いぞ?」

「ああ……ああ、そうだな。だが少し待ってくれ」


 店先に到着した矢先、こめかみを抑えながらエリンが言う。

 落ち着いているようにも見えるが、その様子からは抑えきれない何かが感じられた。

 それも当然だ。何故ならゼルマですら若干呆れている。


「私の勘違いでなければ、ここはあの場所じゃないか?」

「え、そうだけど?」

「……一応聞いておくが、味は保証できるんだよな?」

「分かんね」


 あっけらかんと答えるフリッツに怒りを含んだ微笑を浮かべるエリン。

 そう、エリンの言う通りフリッツに案内されて連れて来られたこの場所は、かつてフリッツによって案内され痛い目にあった店と同じ立地だったのだ。


「分からない……?大丈夫と言っていたのにか……いや、お前まさか」

「だって入ったことねぇもん。でも見た目は綺麗だろ?」

「~~~!!お前という奴は……!!」


 遂に溢れる感情を堪えきれなくなったエリンが静かに怒る。

 流石に公衆の面前で大声を出さない程度の理性は残っているようだが、逆に言えばその程度。一触即発と言っても過言ではない状態だ。


「大丈夫だって、ここは前の店とは全く別の店なんだぜ?しかも改装して見た目も綺麗になってるしよ。そんな心配しなくたって良いって」

「馬鹿!ここがどういう場所だか知らないのかお前は!!」


 最高学府内の土地は限られている。

 いくら広大だといえども、それは無限ではない。明確に『最高学府』として存在する土地は、外壁の内側であり、これは不変だからだ。

 それでも尚、都市の開発は続けられているし、新しい学府の施設は建設されている。なので普通に暮らしていく分には何ら支障はないのだが……逆に言えば既存の土地はある種の取り合いということでもある。


 そういう事情もあって、最高学府における店舗(テナント)というものは基本的に固定化されているか頻繁に中身が変わるかの二択になりがちなのだが……この場所は完全な後者だ。

 しかも一年以内に店舗が変わるなどザラ。立地自体はそこまで悪くないのだが、余りにも頻繁に中身が変わるせいで賃料は安くなり、結果としてその安い賃料に見合ったような店舗が入るようになり……といった悪循環が続いているのである。


 以前ゼルマとエリンが連れられた際も開店して間もなくだったのだが、それはもう酷い料理のオンパレードであった。ゲテモノ料理専門店なのかと疑う程の。

 なのでゼルマもエリンがきつく言うこと自体に異論はない。彼女の言う通り、この場所はそういう曰くのある場所なのは間違いないからだ。


 しかし……それはゼルマとエリンの共通認識でしかない。


「落ち着いてください、エリンさん。折角ここまで足を運んだのですから、入ってみましょう」

「だがクリス。何が起こってもおかしくないぞ?いや、間違いなく何か起こる」

「それなら、何が起こるか楽しみということですね」


 経験済みのエリンの忠告も未経験のクリスタルにはいまいち伝わっていない。

 いや、あるいは伝わっていてなお気にしていないのかもしれないが。

 兎も角、クリスタルはその微笑を絶やしていない。


「……ゼルマ」

「まぁ……店前でとやかく言っても仕方ない。覚悟を決めて入ろう。それにフリッツの言う通り、この店は前の店とは別なんだ。意外と普通に美味いってことも十分ある」

「……確かに、それはそうなのだが……いや、これは私が悪いな。分かった入ってみようじゃないか」


 そうして、一行は覚悟を決めて入店したのだった。


 ■◇■


「……普通だ。余りにも、普通の良い店……のように見える」

「だから言っただろ、大丈夫だって。それじゃあ、いただきまーすっと」

「いただきます」


 新装したという店内は以前訪れた時の内装と構造は同じなれど、確かに綺麗になっていた。

 いくつもの店舗の怨念が凝縮されたような陰鬱な雰囲気はすっかりと消え失せ、中央通りの人気店と比べても遜色ない。この場所が例の場所だとは、最早言われなければ気が付かない程だ。


 加えてサービスもメニューも今のところ順調。

 前の店のおすすめメニューが『毒草と岩石の酸味煮込み』であったことを考えれば天と地の差である。

 後は肝心の味なのだが……


「んん、味も悪くねぇぞ。やっぱ、偶然だったんだって」

「…………確かに、美味いな」

「何事も偏見は良くないってことだな」

「……悪かった。疑って」


 そうして、一行は運ばれて来た料理を楽しむ。

 そこに先程まであった不穏な緊張感は存在していない。

 何事も偏見は良くないのだと、エリンは改めて認識したのだ。


「そういえば」

「ん、どうした?」


 皆が料理を味わっている中、不意にクリスタルが発言する。


「予定していた外出ですが、延期することにしました」

「「えっ!!??」」

「…………」


 それは唐突に言われるにしては、かなり衝撃の多い言葉だった。

 エリンもフリッツも食事中にもかかわらず、思わず声を出してしまう程のもの。


「そりゃまた……随分と急な話だな?もうとっくに準備も終わってると思っていたが……」

「ええ。ですが少し最高学府でやるべき事ができてしまったので。当分の間は中の方に集中するつもりです。無期限の延期、ということになります」

「まあクリスの予定だし、クリスが良いならそれで良いけどよ。俺らに決定権がある訳でもねぇし」

「皆さんには大会も含め、色々とこの件についてお世話になりましたから。報告をしておくべきだと思いました」


 二人が驚いたのは、それだけクリスタルが準備をしていたことを知っていたからだ。

 最高学府において長期に渡る外出は簡単に行えるものではない。

 外出の必要性を担保する根拠や計画を念入りに準備し、初めて許可が得られるもの。特待生であるクリスタルであれ、『魔境に所有する土地』という理由がなければ魔境の探索は許されなかっただろう。


 それを取りやめにするということは、許可を得られた外出計画を破棄するということであり、次に外出しようと思えば再度計画を立てて許可を得る必要がある。

 これはかなりの手間だし、再度許可を得られる保証もない。


 なので準備の手間を知っているエリンとフリッツにしてみれば、彼女がした決断ならば支持するという意見であれ、かなり驚愕の事実であったのである。


「で、その『やるべき事』というのは一体何なんだ?」


 となれば、次に気になるのは当然その理由の方だ。

 あれだけ準備をしていた外出を土壇場になって取りやめる程の理由とは一体何なのか。

 身近にいたエリンだからこそ、気になるのだろう。


「魔儀大祭に出場することにしました」

「「な―――!!??」」


 それは予想外の発言。

 再度訪れた衝撃に、先程と同じく声をあげる二人。


「マジかよっ!大賢魔戦か!?」

「いやいや、クリスなら理智魔会の方だろう。な?」

「ふふ。どちらにも出場するつもりですよ」

「「―――!」」


 今度は言葉を失う二人。

 そんな二人を余所目に一人食事を続けるゼルマ。

 だが普通は二人と同じく、驚いて然るべきなのだ。


 魔儀大祭は一年の総決算。

 最高学府最大の大祭であり、武と理のそれぞれでその年の最も優秀な魔術師を決める大会が開催される。言わば、魔儀大祭とは最高学府の魔術師にとっての一つの目標地点なのだ。


 だがしかし、故にこそ両方の大会に出場する魔術師は多くない。

 本来ならば大賢魔戦も理知魔会も、それ単独で時間を捧げ準備すべき程の大会である。実技と理論を両方とも行うことで結果として質が落ちては元も子もないのだから。


 なので多くの魔術師は片方の大会にのみ出場するということが多い。

 実技が得意な魔術師は大賢魔戦に、理論が得意な魔術師は理知魔会にといった具合だ。


 いくら『大賢者の再来』と称されるクリスタルといえども、何も準備せずに勝ち進めるほど魔儀大祭は甘くない。実技でも理論でも、最高学府には実力のある魔術師が多く存在しているのだ。

 新星大会では無双した彼女が、魔儀大祭でそうできるかというと決してそんなことはないのだ。


「しかし……なんでまた魔儀大祭に?外出の計画を立てている段階で、魔儀大祭には興味がないのだと思っていたが……まさかまた学園長からの課題か?」

「そうではないのですが……少しきっかけがありまして」


 ちらりとクリスタルの視線がゼルマに向いたのだが、二人はそれに気がつかなかった。。

 ゼルマもまた、あえて気が付かないふりをして料理を口へ運ぶ。


 あの日、ゼルマとクリスタルが行った戦い。

 ゼルマが勝利し、クリスタルが敗北した戦い。

 そうして、ゼルマが一方的に約束を交わしたあの戦い。


 クリスタルが理由を濁したのは、あの日の戦いのことはゼルマとクリスタルだけの秘密にしようという話になったからだった。

 エリンとフリッツには話しても構わなかったのだが、どこから話が漏れるか分からない。

 魔儀大祭に向けて、要らぬ噂や疑いがかかることは互いに避けるべきだとしてまとまったのである。


「きっかけか……まぁそこまで追求するつもりはないが……そうか出場するのか」

「何か私が出場することに不都合でもありましたか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

「俺達も出場予定だったからな、魔儀大祭に!」


 エリンが濁した言葉を、フリッツが代弁する。


「そうだったんですか?」

「まぁ隠すようなことでもないが、私も少なくとも理知魔会の方に出場する予定だったんだ」

「そんで俺は勿論大賢魔戦の方に参加予定だったってことよ」

「そうなのですね」


 魔儀大祭の出場者は多い。

 新星大会とは異なり、最高学府の全魔術師が参加可能なのだから当然と言えば当然だ。

 それなりに実力のある魔術師ならば三年目までの魔術師でも、どちらか片方に出場するということはよくあることなのだ。


「では、ここにいる全員が魔儀大祭へ出場するということになりますね」

「えっ!てことはゼルマもか!」

「聞いてなかったな……そうなのか?」

「……ん。まぁな」


 口に料理が入ったままだったので返事がワンテンポ遅れてしまったが、これは別に話題が振られることを予想していなかった訳じゃない。

 寧ろ、いつ自分に話題が振られるのかと備えていたくらいだ。


「俺もクリスと同じだ。大賢魔戦と理知魔会の両方に参加する」

「ゼルマもか……参加するなら理知魔会の方だけだと思っていたが。まさか、何か人に言えない理由でもあるんじゃないだろうな?」

「別にそういうことはない。ただ……俺だって新しいことには挑戦するべきだってことだ」


 言葉を少し濁したが、これは嘘でもなかった。


 ゼルマは既に魔儀大祭への出場を自分の意思で決めていた。

 学園長からの命令ではなく、自分の意志で出場すると決めていた。

 だがここに、新たに出場する理由が加わった。


 再戦。


 クリスタルの外出予定は無期限の延期となった。

 ゼルマの目的は既に達成されてはいる。

 極論を言えば、魔儀大祭でゼルマが負けても問題はない。


 だが、そうではない。そうではないのだ。

 負けても良いから勝つつもりもない……それは許されないことだ。

 ゼルマは決断したのだ。

 自分自身のため、自分を信じる弟子のため、そしてあの日交わした『宿題』のために。

 偽物である自分が、魔術師として生きるために。


「『探求せよ。それが魔術師に課せられた使命であるが故に』……ってことだ」


 ゼルマはどこか晴れやかな微笑みを浮かべ、料理を再び口へと運んだ。


 ■◇■


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