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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第三章 グニラエフ立石群
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85 グニラエフ立石群 三日目 7

 85


「あ、ああ、ぁあああああ……」

「ほれ、何か言いたいのならしっかりしゃべらんか」


 話しながらロープで新たな図式を描く。


 ふむ。

 二度目にもなると、ちと慣れてきたの。

 これなら構築までざっと五秒といったところか。

 もう二・三も繰り返せば三秒は切れそうじゃ。


 ディアロスは銃をだらりと下ろしたまましばし同じ一音を呟き続けておったが、唐突に銃口を持ち上げた。


「ありえないぞ」

「現実逃避とは情けないとは思わんか?」


 白と黒の激突が起きる。


 返事は無言のままの銃撃じゃった。

 じゃから、儂も先程と同じように相殺するだけじゃ。

 いや、相殺ではないのう。

 風圧にディアロスの体が揺れおった。

 威力の幾分かがあちらに向かったのだろうから、儂の竜砲の方が威力で勝ったか。


 なるほど。

 この程度のなら力を注いでも図式が焼け落ちる前に撃てるか。

 もう二割は足せるそうな気がするのう。


「ありえないんだ!」

「そう言うなら、三度目も試すか? 儂は付き合っても構わんぞ?」

「な、にを、なあっ!?」


 儂は既に両手・・の先に構築した糸の図式を向けている。


 両方ともいつでも同時に撃てる状態じゃ。

 儂が二丁で、あちらは一丁。

 このまま撃ち合えばどうなるか、誰でもわかるじゃろう。


「……何故だ。竜砲なのだぞ。皇族にのみ許された特権だぞ! 平民が! いや、ストレンジが、何故だ! 使えるわけがないのだ!」


 少しは頭が冷えたようじゃのう。

 すぐに喚き出すのは変わらんが、頑なに認めないところからは進めたようじゃ。


「皇族だけの特権ではない、それだけの話じゃよ」


 よく見えるように糸へ活力を通し、図式を浮かび上がらせる。

 竜砲が竜砲足り得る力の源。


「こっちが力を弾丸にするための図式じゃな。そして、こっちがその力を超高速で飛ばすための図式じゃ」

「図式? 何を、何を言っている!」

「じゃから、ぬしの竜砲の弾倉と銃身に刻まれておった図式じゃよ」


 まったく、本当に不勉強なようじゃのう。

 腔発の件で騙されたのもそうじゃが、もっと根本的に、自身の竜砲の仕組みも把握しておらんとは話にならんぞ。


 数百年も皇帝として君臨する皇族が調べていないわけはないじゃろうから、ディアロスの気性を考慮した上で秘匿したのかのう。

 どの道、折角自分の竜砲があるのだから調べればよいのだ。

 まあ、そんな発想がないからこそ、秘密も広がらないだろうと泳がせておったのだろうがのう。


「他の竜砲まではわからんが、少なくともぬしの竜砲は読み取らせてもらったよ。弾倉には弾丸精製の図式が、銃身には弾丸発射の図式が、それぞれ刻みつけられておった」

「なら、貴様は、貴様は俺の竜砲を!」

「やっと気づいたのかのう。そうじゃよ。あれこれ話している間に細かくばらしたロープでなぞって調べておったんじゃ」


 別に確信があって調べたわけじゃないがのう。

 しかし、何かしら仕組みはあるとは思っておった。

 いくら竜卵と言えども、剣には剣の、槍には槍の、ロープにはロープの、生物には生物の道理がある。

 何もなしに拳銃から砲撃なんぞできるわけがない。


 調べて利用できるならよし。

 手に負えんか、そもそも儂の見込み違いだったのなら、そのまま銃を封じて打ち倒すつもりだったのだが、結果は最善となったのう。


「して、まだやるのか? 返事を聞いておらんぞ? やるというなら銃を構えよ。やらんのなら銃を捨てよ。五秒で決断するのだな」


 ディアロスは憎々しげに俺を見て、自身の竜砲を見て、歯ぎしりをする。


「五・四・三・二……」

「平民がっ……」


 最後に吐き捨てながらもディアロスが竜砲を足元に落とした。


「一・ゼロ」

「きさ――」


 同時射撃。

 儂の放った白い砲撃がディアロスの左肩と脇腹を掠めた。

 強力な竜砲の一撃は掠めるだけでも大ダメージだ。

 それぞれを酷く抉られたディアロスは声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちる。


「リィナが受けた分、確かに返したぞ」


 悶えるディアロスに歩み寄り、足元の竜砲を踏み砕いた。

 アームズを破壊された衝撃で、ディアロスは一度大きく痙攣し、そのまま意識を失ったようじゃ。

 ヴィンセントたちからロープを回収するが、ディアロスの近くで竜砲を見ているだけに儂へ襲い掛かってくる事もなかった。


 正直、助かったのう。


 四度の射撃で儂のロープも半分近くを消耗してしもうた。

 ぶっちゃけ儂も、フィードバックでかなりやばい。

 もう一度撃てば気を失いかねんな。


 とはいえ、まだ仕上げが残っておるのだ。

 泣き言はいっておれんよな。


「なんてことはない! 皇族の特権など技術を独占していただけにすぎん! この図式さえ竜卵で再現できる者なら、竜砲は誰でも使える!」


 声を張る。

 離れた場所で見ているリィナに聞こえるように。


「なあ、リィナ! おぬしのキュイが放つ白炎! あれも竜砲の一種じゃないのかのう!」


 息を飲む気配を感じる。

 まあ、あれはどちらかというと銃というよりは火炎放射器じゃから連想はできんかもしれんがのう。

 つまるところ、キュイは『生きた竜砲』なのではないかと儂は考えておる。

 マリー先輩から話を聞いた時、儂は真っ先にそんなふうに思ったのじゃ。


 とはいえ、こんな仮説をリィナが心から受け入れられるかといえば疑問じゃった。

 リィナの中で竜砲は特別になりすぎておる。

 部外者である儂の言葉では届かんかもしれん。

 言葉にするならまずは証明せねばならんだろう。


 竜砲は特別じゃない、と。


 だから、こうして平民のストレンジ持ちが竜砲を使い、皇族の竜砲を砕いてみせた。


 これならきっと届くじゃろう。

 さあ、後は俺が言ってやれ。

 儂はちぃと疲れたから休ませてもらおうかのう。


「――っう」


 体が重い。

 儂はこんな状態なのを隠して戦って、脅して、勝ったのか。

 我が事ながら信じられない存在だ。


 でも、儂も俺なんだ。

 儂にできて俺にできないわけがない。

 リィナが隠れている巨岩に向かいながら声を張る。


「リィナ! 君の事情は色々と聞いた! 勝手に調べてごめん! でも、これだけは言わせてほしい!」


 俺だけじゃない。

 マルスから預かった気持ちを乗せて、リィナに届けるんだ。


「竜砲がどうとか、キュイが間違いだとか、そんなのはどうでもいい! 少なくとも俺はそれを一番には考えられない! そんなのでリィナの価値は決まらないからだ!」


 これまでのリィナの人生を否定しているかもしれない。

 リィナのやってきた事は的外れだと指摘しているかもしれない。


 でも、誰かが示して、言ってやらないといけないのなら、その誰かは俺がいい。

 本当ならマルスがやりたかっただろう役目だ。

 他の誰にだって譲ってやるものか。


「リィナは俺の親友だ! マルスの親友だ! それじゃダメか!? それだけじゃ足りないか!? リィナが本当に欲しいものはなんだ!」


 座り込んだリィナが俺を見る。

 不安に揺れる瞳はいつものリィナのそれじゃない。

 まるで迷子の子供みたいだ。


「だが、僕は、どうしたって、僕は、誰かに邪魔だって思われる!」


 皇族の血を引く者。

 皇族からは疎まれ、貴族や他国は利用しようと近づいてくる。


 そんな恐れがリィナを孤独においやるというなら、そんな誰かも俺の敵だ。


「生まれてはいけない子だなんて誰にも言わせない。そんな事を言う奴は俺がまとめてぶっとばしてやるよ」


 口だけとは言わせない。

 竜砲の否定と一緒に証明したはずだ。

 俺は負けないと。

 巻き込まれたって構わないと。


 これ以上、言葉を重ねても無意味か。

 もう一度、手を差し伸べる。

 親友になりたいと言った時のように。


「………」


 リィナが選べ。

 孤独の道を行くなら一人で立てばいい。

 でも、俺やマルスと一緒にいる道を選ぶなら、この手を取るんだ。


 俺とじっと見上げていたリィナの肩から力が抜けた。


「……まったく、変な奴だな、君は」

「そう?」

「それに強引で、我が侭で、自分勝手で、破天荒で、無茶苦茶な奴だ」

「そこまでいう?」


 さすがに傷ついちゃうかもしれないんだけど?


「ふん」


 鼻を鳴らしたリィナはそっぽを向いたまま俺の手を握った。


「愚か者め。親友なら、僕の言いたい事ぐらいわかれ(ありがとう、カルロ)」


 ああ。

 いつものリィナだ。

 俺はリィナの細い手を握り返して引き起こした。


「うん。どういたしまして、リィナ。さあ、帰ろう。マルスも待ってる」

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