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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第二章 エスクリスク聖殿
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59 推理

 59


「まったく、あそこで飛び出す奴があるか! 僕は君を犠牲にしてまで助かるつもりはないぞ!(心配したんだぞ。でも、助けてくれた事、感謝している)」

「ごめんね。でも、あの時はあれしかなくて」


 キュイに宙吊りされて運ばれて、到着するなり座り込んだ俺に、掴みかからんばかりの勢いで迫ってくるリィナ。

 よっぽど心配してくれていたのか、珍しく大きな声だ。


「いや、きっとリィナが助けてくれると思ったんだよ、うん」

「それは、そうだ。見捨てるなんて恥知らずな真似ができるか(助けるに決まってるだろ)」


 ごめんなさい、嘘です。

 儂もノープランでした。

 キュイが飛べなかったらアウトだったよ。


 命の恩人のキュイはとぐろを巻いて休んでいた。

 どうやら飛行は短時間だけで、非常に疲れるらしい。

 ただでさえ、俺との模擬戦から働きっ放しなので、今ぐらいゆっくり休んでほしい。


「……ふう。そうだな。怒鳴って悪かった。それより、肩を見せてみろ」


 溜息を吐いたところで落ち着いたのか、リィナは俺の左肩を見つめてくる。

 獣身供犠の爪で抉られて、まだ血が出ていた。

 傷を負ったまま殴ったせいで悪化していそうだ。


「まったく……」


 小言を漏らしながらも、リィナは自身のシャツの左右の袖を根元から破り、一枚は折りたたんで傷口を押さえて、もう一枚を包帯代わりにして固定してくれた。


「応急処置だ。動かせばすればどうなるかぐらいわかるだろうな?(無理はするなよ?)」

「ありがとう。大丈夫。少しすれば傷も塞がるはずだから」


 これだけ深い傷だと完治まで一時間は掛かるかな。

 とりあえず、出血だけならすぐに止まりそうだし、血が足りないなんて事態は避けられそうだ。


「さて、これからどうしようかな?」

「あちら側に出口があるんじゃないのか?」


 俺の呟きにリィナが首を傾げている。

 獣身供犠に遭遇した時に祭儀場と出入り口を推理したのだ。

 当然、このまま出入り口に向かうと思ったのだろう。


「うん。出られればね」

「なんだと?」

「ほら、ここが勇者の試しの場所だとしたらさ。『怖れを為して逃げるなんて以ての外だ』なんて事になっているんじゃないかと思ってさ」

「………」


 じっとリィナが睨んできた。


「えっと、どうしたの?」

「それなのに、僕に助けを呼びに行けと言ったのか?」

「うっ!」


 逃がすための方便だったとばれてしまった。

 言葉に窮した俺にリィナはますます視線を鋭くする。


「さっきの口調もなんだ? それに戦い方もまるで別格だったじゃないか。僕との模擬戦の時は手加減でもしていたのか?」


 あー、儂が先延ばしにした件も忘れてなかったか。


 さて、どうしたものか。

 俺と儂の関係はティレアさんにしか話していない。

 ほんの数日の付き合いでもリィナはいい奴だし、信頼できる人間だとは思う。

 とはいえ、まだ数日の付き合い。

 さすがに全てを打ち明ける気にはなれなかった。

 なのに、嘘は吐きたくないとも思ってしまうから複雑だ。


「えっと、俺は昔の癖があって、たまにあんな話し方になっちゃうんだ。普段は気を付けているんだけど、余裕がなくなるとあんな感じになってね。で、余計な事を考えないのとか、昔に馴染んだりとかするおかげで、色々と技が冴えたりするんだけど、信じてくれる?」


 自分でもわけのわからない説明だと思う。

 リィナは腕組みして俺の言葉を吟味し、その間もずっと俺を見つめている。


「納得はできないが、信じよう。少なくとも嘘は吐いていないように感じた」

「……いいの?」

「誰にでも言いたくない事ぐらいあるだろう。僕とてカルロに全てを打ち明けてはいないのだからな。自分を棚上げにして責める程、惨めになるつもりはない」


 理解のある言葉にホッとしかけて、リィナの視線が鋭いままなことに気付く。

 そうだ。

 まだ、リィナの問いの全てに答えていなかった。


「リィナと戦った時は俺の全力だったよ」

「ふん。僕たちは奴を引きずり出す程ではなかったわけか」


 不機嫌になるかと思ったけど、リィナは不敵な笑みを浮かべた。

 隣で寝そべるキュイの頭を撫でながら語りかける。


「キュイ、僕らはもっと強くなるぞ。そして、次こそはカルロに勝つ。いいな?」

「きゅきゅい!」


 ライバルの心に火を点けてしまったようだ。

 どうやら模擬戦も俺の勝ちと判断しているらしい。

 まったく、こっちも俺に楽をさせてくれないとは……実に面白いじゃないか。


「それで、このままでは出れないとカルロは考えるんだな?」


 納得したリィナが話を戻してきた。

 それに頷いて返す。


「たぶん、挑戦者も不法侵入者も自力では出れないだろうね」

「なら、どうする。キュイに砕かせるか?」

「いや、なにせ対象になるのがさっきの獣身供犠の元になるような戦士なんだ。相当、頑丈な造りになっていると思う」


 遺跡群特効があるからどうなるかわからないけど、単純に扉の強度や壁の厚みで防がれていたらどうしようもない。


「では、どうする? その様子からすると、当てはあるのだろう? 出し惜しみは趣味が悪いぞ(意見を聞かせてほしい。カルロは頼りになるからな)」

「うん。祭儀場は戦士だけじゃ成り立たない。必ず神官が必要になる」


 生贄を神に奉げる役目を持った存在。

 神官がこの場に同席していなければおかしい。

 いや、同席ではないな。

 神官こそが儀式を主導していたはずだ。


「なるほど」

「その神官が出入りするルートがあるはずだ」


 いうまでもなく神官は特別な存在だ。

 それこそ王族に近い地位にある。

 そんな神官まで勇者と一緒に生贄にしてしまうなんて事はないだろう。


「場所は祭儀場の近くだと思う」


 いや、根拠のない発言ではないし、もちろん、未知の遺跡を調べたいという欲求に従ったわけでもない。

 興味がないと言えば嘘になるけど、俺も儂も弁えているつもりだ。


「そうだな。怖気づいた戦士に見つからない場所となるとそこが最適だろう。ふん。想像力が豊かな奴だな(やっぱり頼れるやつだ)」


 言わずとも察してくれるからありがたいね。

 さて、話している間に血も止まったようだし、少しぐらい動いても大丈夫だろう。

 視線で尋ねればキュイも頭を持ち上げている。


「キュイも休めたようだな。最後まで気を抜くなよ(苦労を掛けるな。もう少し頑張ってくれ)」

「きゅ」


 リィナに撫でられて嬉しそうに鳴くキュイ。

 いや、本当にね。

 キュイがいなかったら瓦礫に潰されてプチッとなっていたんだから、感謝してもし足りないよ。

 感謝をこめてリィナのように翼を撫でると、キュイは頭をすり寄せてきた。


「ありがとうな。もうちょっとだから、一緒にがんばろう」

「きゅい」

「ふん。言われるまでもない(ああ。頑張ろう)」


 頷き合い、白炎で熔解した床の向こう側を睨む。

 獣身供犠が現れた闇の向こう側――祭儀場のあるだろう場所。


 じゃあ、行ってみようか。

いきなりPVが跳ね上がり、何事かと調べたら日間にお邪魔した模様。

ちょっと嬉しくなって繰り上げて6時も更新してみました。

さあ、12時更新分を書くぞー。(現在、午前2時過ぎ)

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