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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第二章 エスクリスク聖殿
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50 エスクリスク聖殿

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 判明、七層ってかなりすごいらしい。


 竜卵の印は層を重ねるごとに、刻まれる印の数も増えていく。

 最初期は八枚。

 一層目から三層目は十六枚。

 三層目になると一周するのに三十二枚も必要になる。

こんな調子でどんどん成長のハードルは上がっていってしまう。

 それは知っていた。


 七層ともなると歴戦の探索者と同等以上。

 すぐにでも最前線に加われるのだとか。

 余程、有名な探索チームでもなければ、実績なしでも歓迎されるだろう、だってさ。


 あ、それと俺のメリヤという名前で芋づる式にもう一件判明。


 ティレア・メリヤ――別名、『鮮血姫せんけつき』。

 教会の中でも要注意人物として一部で有名なんだって。

 切り捨てた敵の返り血で真っ赤に染まりながら戦う姿にトラウマを患う人間も非常に多かったのだとか。

 まさか、そんな人だったなんて思いもしなかった。

 まあ、自分からは言い出せないよね。


 だって、姫! 姫だよ! 不良シスターなのに、自分で自分を姫とか言えないでしょ!


 いや、もう、ティレアさんには悪いけど爆笑してしまった。

 あまりにも本人に似合わない二つ名だもんなあ。

 よし。これは俺の心の中にしまっておこう。他の家族には秘密だ。


 そんなティレアさんの悪名のおかげで竜卵についても納得してもらえた。

 どうやって鍛えたのか尋問みたいに聞かれていたけど、ティレアさんの名前が出たら『鮮血姫の教え子なら……』ってね。

 おかげで大聖堂の秘密は守られた。


 しかし、それにしても、だ。


「学習院に来る必要なかった……」


 ようやく教師陣から解放されて、二次試験会場の片隅で座り込む。

 さすがにこれは凹む。


 学習院に入学したいと思ったのは、探索チームに入るためのステップだったのだ。

 それが完全に回り道とはどうなっているのか。


 きっとティレアさんとかノルト神父はわかっていたはずだよな。

 その上で黙っていたのは、一足飛びして危険な目に遭わないため、とかかな。

 要するに、基礎からしっかり学んで来い、というわけだ。


 まあ、半端な知識で遺跡に挑むのは自分だけでなく、周りにまで巻き込んでしまうだろうから、保護者としては当然の判断なんだろうけどね。

 せめて一度ぐらい話し合わせてほしかった。


「それは困るな」

「え?」


 いつの間にか隣にリィナが立っていた。

 本人も今の一言は言うつもりがなかったのか、腕組みしたままそっぽを向いている。髪に隠れた耳も赤くなっているような?


「いま、なんて?」

「……なんのことだ? 僕は何も言ってない。空耳だろう」


 おおう。

 なかった事にしようとしているけど、確かに聞いたよ。

 ツンデレさんが思わず本音を漏らしてしまったのか。

 しかも、俺が学習院に来なかったら困る、と。

 やばい。男相手なのにキュンとしたぞ。


 本当にいい奴だよな、リィナ。

 ヴィンセントに挑発された時も自分の時は流してたのに、俺の服の事を貶されたら俺以上に怒ってくれたし。

 彼と友達になれたというだけでも、学習院に入学するように仕向けたティレアさんたちに感謝したくなる。


「それより!」


 誤魔化せていないと察したのか、リィナは強引に話を変えてくる。


「それより、僕との約束があるのに調子が悪いとは言わせないぞ(大丈夫か? 連れて行かれて心配したぞ)」


 ツンデレさんをからかうと面白そうだけど、心配してくれた相手にする事じゃないよな。

 ここは話に乗っておこう。


「ああ、それは平気。話を聞かれただけだから。模擬戦はもう始まってるみたいだけど、どんな感じ?」

「無印は終わって、今やっている一層から二層の受験生同士も終盤だ」


 下の模擬戦会場を見ると、様々なアームズとストレンジで戦う受験生たち。

 いくつかものリーグが同時進行で進められている。

 今も斧のアームズを持った少年が大振りを外して、その間に対戦相手の少女が後ろから短剣で首を斬り、試験官によって試合が止められた。

 首を斬られた少年は悔しげに床を殴っているけど、斬られたはずの首には傷ひとつない。


「あれ、大丈夫なの?」

「らしいな。この会場の力だと説明されたが、君は知っているんだろうな?(知らないなら説明するぞ)」


 俺も別室を出る時に説明を受けていたけど、実際に見てみると違和感がすごい。


「うん。遺跡なんだよね」


 ここは闘技場と劇場を足して二で割ったような舞台だった。

 中央には円状の戦いの舞台。

 広さはかなりのものでサッカー場ぐらいある。

 灰色の石板が整然と並び、不自然なほどに奇麗な状態だ。

 見れば先程の斧のアームズで砕かれたはずの床がいつの間にか修復されていた。

 おそらく、シェロカミン大聖堂と同じ自動修復機能が備わっている。


 周囲には三層に分かれた観客席。

 俺たちがいるこの一層目は階段状の席になっており、かなりの席数がある。

 二層目は高貴な人間を招くためなのか、豪華な仕様になっていて、今も教師らしき人たちが観戦していた。

 三層目は立ち見用だろうか。


 全体的に装飾は少ない。

 その中でも特徴的なのはシンプルながらも太い柱だ。

 前世でいうところのドーリア式に近いだろうか。パルテノン神殿の柱を思い出してもらうとわかりやすいだろう。


 まさに質実剛健を体現している。


「獣人族の遺跡『エスクリスク聖殿』というらしいな」

「エスクリスク……獣人語で修練って意味だっけ。わかりやすいね」


 ここは獣人族の訓練場だったのだろう。

 実戦に近い訓練を行いながら、死傷者を出さないための機能を持たせている。

 なるほど、これなら模擬戦に最適だ。

 少々、疑問点というか、心配な点もあるけど……。


「獣人語まで知っているのか。まったく、呆れた奴だな(君はすごいな)」

「先生が良かったんだよ」


 威圧感が半端ないけど、おかげで集中して勉強できた。

 テールの町の巡廻授業が三段構成になっているのは効率のためだと思っていたけど、年長者じゃないとノルト神父の厳しさについていけないからだと思う。


 俺が毎週の授業を思い出していると、リィナの短い呟きが聞こえた。


「だからこそ、僕は君に勝つ」


 竜卵の差は歴然だ。

 それでもリィナは勝利を諦めていない。

 だからこそ、『勝ちたい』じゃなく、『勝つ』という言葉を選んだのだろう。


 竜卵の成長が全てじゃない。

 使い手の強さ。武器や道具の相性。戦い方。

 そして、戦いに向かう気迫。


 リィナは相手にとって不足はない。


「俺も負けないよ」


 互いに拳を合わせると、自然と笑みが浮かんだ。

 リィナはクールを装っているけど、頬が少しだけ緩んでいる。


『最終リーグを始める。ヴィンセント・ロクトル、リィナ・セルツ、カルロ・メリヤは舞台に集合するように』


 拡声器の魔導具で俺たちの名前が呼ばれた。


 さあ、戦いの時間だ。

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