46 勝負
46
「あら、同室なのね、あたしたち」
三人で寮に向かったのだけど、試験日の二日前ともなるとそこそこ部屋数が埋まっているのか、一階を過ぎ、二階を過ぎ、三階の端まで行ってようやく自分の番号を見つけられた。
部屋の扉には番号がみっつ並んでいて、三人部屋なんだなと思っていたら今のマルスの台詞だった。
リィナとマルスも自分の受験番号と見比べて頷いている。
どうやら彼らと同室らしい。
考えてみれば同じタイミングで受付をしたのだから、こうなるのも頷けた。
「じゃあ、改めてよろしく」
「こちらこそね」
最初の衝撃こそ大きかったけど、少し話してくるとマルスにも慣れてきた。
こう、全体を薄目でぼんやりさせて話すのがコツだ。
口調を気にしなければ、でっかくて、ごっつくて、ゴリラみたいだけど、気のいい奴じゃないか。
「だから、ライバルで慣れ合うなと言っているだろうが」
そんな俺たちを置いて、リィナはさっさと部屋に入ってしまう。
ツンデレさんに続いて部屋に入ると、なかなか広い部屋だ。
家具は三段重ねのベッドに、簡素な机と椅子のみだから、広く見えるだけかもしれないけど、狭いわけでもない。
ほんの数日三人と過ごすぐらいなら、ストレスにもならないだろう。
「ベッドはどうしようか?」
「マルスは下だ」
「マルスは下だね」
「もう、何よ! あたしが重くてベッドが壊れるって思ってるの?」
思ってます。
聞いたらどうなるか怖くて確認できないけど、少なく見積もっても重量百キロオーバーの筋肉の塊だからね。
そんなの上の段にいると思うと安眠できそうにない。
文句を言いつつも異論はなかったのか、マルスは手荷物を下の段に放り込んでいる。
残るは上と真ん中か。
「俺はどっちでもいいけど、リィナはどう?」
「なら、上を使わせてくれ」
特に主張がぶつかる事もなく、場所が決まる。
どうせ今日と明日だけなので、こだわる事もないだろう。
俺もベッドに荷物を置いて、旅装から普段着に着替える事にした。
ノルト神父は宿泊先までちゃんと手配してくれていて、ちゃんと夜は宿に泊まれていたから長旅のせいで汚いという事もないけど、丈夫な服ばかり着ていたから部屋着で落ち着きたい。
「意外に鍛えているんだな」
「ええ。あたしほどじゃないけどね!」
そんなコメントが飛んできた。
あと、マルスに勝てるなんて思ってないから。
だから、そのダブルバイセプスはやめてくれない? めっちゃいい笑顔してるのを止めるのは申し訳ないけど、なんか室温が急上昇しそうだ。
「遺跡学科志望だからね」
フィールドワークというのはなかなか体力勝負になるというのもあるけど、この世界には遺跡群という脅威が存在するのだ。
遺跡に潜るなら戦えないと話にならない。
「あら。じゃあ、本当にリィナとはライバルなのね」
「じゃあ、リィナも遺跡学科?」
「ああ。竜卵を活かすなら遺跡に挑むのが一番だろう」
なるほど。
俺や儂みたいに冒険を求めてというより、竜卵を有効活用するための生き方なんだろうな。
「ちなみに、あたしは魔導学科よ」
「……へえ」
その筋肉の塊を有効活用できるとは思えないけど、人それぞれだろう。
こう見えて手先が器用なのかもしれないし。
本人の見た目と希望がバラバラでもおかしくはない。
「というか、二人とも貴族じゃないんだね」
マルスのドレスにしろ、リィナの服にしろ、かなり上等に見えたからてっきり貴族なんじゃないかなって思っていた。
だから、同じ平民用の寮について来た時は内心で驚いた。
「僕の家は帝都で商売をしている」
「そ、服の関係のね。ありがたいことに、あたしも色々と安く手配してもらっているのよ。このドレスも春の新作でね。宣伝のためにモデルをしているわ」
その宣伝は逆効果じゃないのか?
いや、目立つという目的だけなら十分に果たせているだろうけど、リィナの実家の経営戦略が心配になってしまう。
「そういうカルロも立派な服じゃない」
確かに俺の服も二年前のようなお下がりじゃなくなっている。
経営状況の厳しいメリヤ孤児院だったけど、大聖堂のあれこれをちょっとずつ売ったおかで余裕が出てきたのだ。
俺やロミオ兄は服にこだわらないけど、女性陣は地味に喜んで、ちょっとのおしゃれを楽しんでいた。
ちなみに、俺の服はほとんどがアリア姉の手織り、手縫いのオーダーメイドだ。
「テールの町は織物が特産だったからね」
「へえ。これって手織りよね。でも、とっても丁寧。色合いもいいし、あたし好みね」
「ありがとう。これ、姉が作ってくれたやつだから褒めてもらえると、俺も嬉しい」
帝都に持って来たのはその中でもアリア姉の自信作だ。
帝都の人からすると流行から外れて見えるかもしれないけど、俺にとってはこれが一番。
「テール織かぁ。リィナ、ご実家で仕入れてもらったら?」
「僕は服には詳しくないのは知っているだろう。まあ、機会があれば言っておく」
思わぬところで故郷の宣伝になったな。
まあ、テールの町から帝都まで普通は一ヶ月も掛かってしまうので、商売にするにはコストがかかりすぎると思うけどね。
「それよりも、カルロ。こんなふうに話している余裕はあるのか? 明後日の試験に向けて勉強するべきじゃないのか」
意訳、『勉強がしたいなら、マルスを止めるぞ』かな。
気持ちはありがたいけど、直前でバタバタと慌てるような段階ではない。
さすがに明日は最終確認をするつもりだけど、今日は旅の疲れを癒す方が先決だと思っている。
「大丈夫だよ。これでも自信があるんだ」
「ほう。言うじゃないか。それは僕にも負けないぐらいの自信なのか?」
俺が油断しているように見えて、挑発みたいな注意喚起をしているのかとも思ったけど、リィナの目はどことなく好戦的だ。
というか、情熱的に燃えている。
マルスが苦笑しているところからすると、このツンデレさんはプライドも高いのか、勝負事が好きなのかもしれない。
適当に謙遜した方が当たり障りないかもしれないけど、俺は試験で手を抜くつもりはない。
なにせティレアさんやノルト神父に鍛えられて、期待もされている。
半端な事はしたくない。
だから、正直に答えた。
「まあ、負けるつもりで挑む人はいないよね」
その答えにリィナは不敵な笑みを浮かべて提案してくる。
「よし。いい返事だ。なら、ひとつ勝負しようじゃないか。どちらの成績が上になるかな」
「もう、本当に好きよね、リィナは。カルロくん、放っておいてもいいのよ」
マイルが仲裁してくれるけど、リィナに敵対心はなく、純粋に勝負を楽しんでいるように見える。
彼はこういうシチュエーションの方が燃えるタイプなんだろう。
これで彼がいい状態で試験に挑めるというなら、俺が勝負を避ける理由はない。
まだ少しだけの付き合いだけど、二人は面白いしいい奴なのは伝わってきた。どうせなら彼らと一緒に合格したい。
「いいね。その勝負、受けた」
「カルロくん、本当にいいの? リィナはかなりできるわよ」
そうなの?
まあ、それでも俺が負ける事はないと思うけどね。
さすがにリィナがティレアさんよりも上って事はないだろうし。
「いいよ。そうだね、俺が負けたらなんでもいう事をひとつ聞いてもいい」
「いい自信だ。明後日が楽しみだな」
ふふ。俺もやる気になってきたぞ。
そうだな。勝ったら一日思ったことを素直に話すとかお願いしてみよう。入学初日とかにね。
第一印象が良ければ、ツンデレのリィナを他の人も理解しやすいだろうし。
こうして俺とリィナの勝負が決まった。




