43 帝都ドラクル
本日、6時にも更新しております。
未読の方はよろしければそちらもご覧ください。
43
「これが、帝都……」
多くて、大きい。
魔導列車から降りて、駅舎を出た俺の感想はそんな子供みたいに幼稚なものだった。
最初に目に入ったのは雑踏。
テールの町と比べ物にならない。
お祭りの時に広場に人が集まった時よりも人が多いんじゃないだろうか。
駅の大通りには大勢の人々が行き交っていた。
そして、その周囲の建物の大きさ。
どの建物も複数階建てで、それもほとんどが五階以上の建物ばかり。
レンガ造りの頑丈そうな四角い建物が道の左右を埋め尽くしている。
木造家屋なんてひとつもない。
喧騒がまるで波みたいに押し寄せてくる。
段々とそのまま飲み込まれてしまいそうな気になってきた。
やっぱり、外から遠目に見るのと、実際に街の中では違う。
「そうだ。これが百万都市、竜帝国ドラグニアの帝都『ドラクル』だ」
隣のノルト神父は平然としている。
列車の中で聞いたけど、何度も訪れた事があるのだとか。
「お前はこれからここで一人になる。覚悟はできているか?」
じろりと睨まれる。
これは俺の覚悟を試しているのだろう。
「大丈夫。最初は驚いたけど、もう慣れたよ」
「ふむ。言葉だけではなさそうだな。よろしい。ついてきなさい」
歩き出したノルト神父から離れないようについていく。
慣れたというのは違うけど、もう動揺していないのは本当だ。
俺には初体験でも、前世の儂ではもっと激しい人ごみも、大都市も経験しているのだ。それを思い出せば圧倒されたままになるわけがない。
それに、街の中に入ったのは初めてでも、来たことはある。
大聖堂の転移でいける場所は全て実際に回っている。その時に王都は外から眺めていた。
一度落ち着けば色々と見えてくる。
テールの町から帝都まで魔導二輪から魔導列車と乗り換えて来たけど、途中で通ったどの都市よりも発展している。
道を見ればいくつかわかった。
歩行者のための歩道。魔導車のための車道。ふたつがちゃんと区別されて、順守されている。交通ルールが定められているのだろう。
車道は見事に平らな石畳だ。おかげで魔導車が道を行き交っている。馬車が見当たらないところからすると、都市内への侵入が禁じらているのかもしれない。
これらは国が整備しないと完成しないシステムだ。
つまり、竜帝国は流通の重要さを理解している。
「ノルト神父。百万都市の百万って、人口の事ですよね?」
「そうだ。竜帝国は竜帝大陸の六割を支配下に置いている。その心臓部がこの帝都であり、それだけに多くの人々が訪れるのだ。人だけではない。物も、経済も、技術も、知識も、全てが集まってくる」
そう発展するようになっている。
竜帝国には他にも貴族の領土に大きな都市があるけど、きっとどれも帝都には及ばない。
帝都の強大さを示す事で、示威としているんだ。
「そうだな」
西の空に傾き始めた夕日を見上げて、ノルト神父が続けた。
「この調子ならば今日の受付時間には間に合うだろう。折角だ、帝都について教えておく」
それはありがたい。
これから三年間、住む予定なのだ。情報は多い方がいい。
今までも色々と習って来たけど、こうして実際に見てから教わった方が身につくからね。
「お願いします」
「ああ。帝都は四つの四角で分けるとわかりやすい」
足を止めないままノルト神父が解説を始めた。
その視線はまっすぐに大通りの正面――北に定められていた。
巨大な山脈を背にした建築物。
遠くからでも目に入る帝都でも一際巨大な宮殿。
あれこそまさに城だ。
「最初の四角は竜王が政務を執り行う白帝宮。そして、その周囲の特権区。帝国政府関係者、貴族の別宅、大商人などだけが住む権利を持つ。別名、竜の巣だ」
「竜の巣?」
「竜王の住まいを囲んでいるからと言われているが、大衆には『ここに入りたければ竜の巣に侵入する覚悟を持て』という警告の方が知られているな。ちなみに、区別は簡単だ。特権区は歩道が石畳ではなくレンガ造りになっている。覚えておくといい」
権謀術策渦巻くどろどろの世界って事ですね。
関わり合いになりたくないな。
遠目に見ても歴史的な価値のありそうな建物っぽいけど、トラブルに自ら首を突っ込むつもりはない。
「その周囲の四角が商業区。増改築が繰り返されたため帝都の人間でも全貌は把握できていないそうだ。帝都で遭難したくなければ、案内を頼むべきだろう」
買い物するのに遭難の心配って。
ノルト神父が言うのだから冗談ではないのだろう。
「そして、その外側の四角が居住区。こちらは区画整理されている。目的地さえしっかり把握していれば迷う心配はあるまい」
よかった。
さすがに住むだけで心配事があるなんてたまらないよ。
「この帝都の駅があるのは商業区と居住区の境目だ。線路を目印にするように」
ただし、この線路は路面電車みたいに他の道と繋がっているから油断できない。
ぼうっと歩いていたら魔導列車にひかれてしまいかねない。
まあ、列車の本数はそんなに多くないから気を付けておけば大丈夫だろうけど。
「そして、最後の四角は居住区南部の外側になる。これから私たちが向かう場所だ」
ノルト神父が足を止める。
そこはバス――大型魔導車乗り場だった。
緩やかな速度で大型魔導車が進んでいく。
俺はノルト神父と並んで後ろの方に立って、車内を眺めていた。
乗客は多い。
ざっと三十人ぐらいだろう。
俺と同い年ぐらいの割合が高いな。
「この人たちも学習院の入学試験を受けに来たんですかね」
「そうだろうな。受付の締切も近い。お前と同じように各地から集まっても不思議ではあるまい」
微妙に注目を集めているな。
旅の間も徹頭徹尾、神父服だったノルト神父が目立っている。
どうしてこんな場所に竜帝教の神父が? と首を傾げていた。
魔導列車に乗るまで、あるいは帝都に着くまでの案内だと思っていたけど、ノルト神父は学習院の受付まで付き合ってくれるようだ。
アリア姉に頼まれて竜帝に誓っていたからかな。手抜きはできないのだろう。
「帝都南部はお前が試験を受ける、ノーツ総合学習院がある。詳細は……実際に入学して自分で調べてみるといい」
それは楽しみだ。
俺も、儂も、教えてもらうより、自分で調べて、考えて、真実に手を伸ばす方が楽しいと感じる人間なのだ。
その辺り、ノルト神父はわかっている。
そうしている間に大型魔導車は坂道を下り始めた。
ノーツ総合学習院は帝都より低地にあるらしい。
急なカーブをゆっくりと曲がっていく。
「見えたぞ」
言われてノルト神父の視線を追う。
正面の窓。
つづら折りの坂の向こう側。
そこでひとつの街が俺たちを待っていた。




