41 誤算
18時にも一話更新しております。
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「そうか。カルロは学習院の入学試験を受けるのか」
「はい」
巡廻授業が終わった後、俺はノルト神父に報告していた。
祝福の言葉もなしに、彼は所見を述べ始める。
「おそらくお前の能力ならどこの学習院でも試験に合格できるだろう。少なくとも知識テストならば私が保証しよう。運動テストもまず問題あるまい」
そこでノルト神父はちらりと俺の後ろに視線を送った。
後ろで立ち会ってくれているティレアさんを見たのだろう。
「ティレアが許可を出したのならばそれなりに鍛えられたはずだ」
「おう。心配ねえよ」
羞恥から半日を掛けて復活したティレアさんが請け負ってくれた。
ちなみに、あれから素手の模擬戦はしてくれるけど、竜卵を使った模擬戦は頑なに拒否されている。
「それならば自信を持って良いだろう」
ノルト神父には俺の竜卵の事も、シャンテの事も、シェロカミン大聖堂についても秘密にしている。
良くも悪くも竜帝に信仰を捧げているノルト神父は融通がきかない。
魔族の関連はどう化学反応を起こすか未知数すぎる。
だから、彼が知っているのは俺の表沙汰にしている能力だけ。
それでも太鼓判を押してくれるのだから、試験については本当に心配いらないだろう。自他に厳しいこの人なら甘い判断はしない人だ。
もちろん、油断はしないけど、過度に警戒する必要もない。
「それで、どこの学習院に行くか決めているのか?」
「帝都のノーツ総合学習院にしようと思います」
「ほう。あそこか」
感心したのか、それとも呆れたのか、ノルト神父は僅かに黙考して、切り出してきた。
「大陸最高学府とは、どうやら私はお前を過小評価していたようだ」
「それって、褒めてます?」
大真面目にノルト神父は頷いた。
「ああ、そうだ。帝都まではここからどんなに急いでも半月は掛かる。現実的に考えれば一月近いか。そんな離れた場所を自主的に選ぶとは思わなかった」
「距離って」
「お前が自らシャンテから離れる選択をしたのは称賛に値する」
俺をどれだけシスコンだと思っていたんだ。
この人の事だから冗談とかじゃないんだろうなあ。
本気の本気で心配されていたとは、言葉もない。
あと、後ろのティレアさん。すっごい頷いているの雰囲気でわかってるからね?
「そして、高みを目指すというのも素晴らしい。私も応援しよう。だが……」
ノルト神父の眉間にしわが寄る。
ヴィオラとはまた別の鉄面皮の人なので、こんな顔なんて滅多に見れないぞ。
「入学費と授業料はどうする?」
ああ。その心配か。
一般的な学習院でも、合わせて百三十枚もの金貨が必要になる。四人家族が三十ヶ月以上も暮らせる金額は少なくない。
少なくとも貧乏暮らしの孤児院で用意できる金額ではなかった。
「あそこは各学科の上位二名までは特待生として学費免除だったはずだが、それを期待しているのか?」
「そうなんですか? ティレアさん、知ってました?」
「いや、オレも知らねえ。そうだったのか?」
俺とティレアさんは顔を見合わせて尋ね返した。
色々と調べたつもりだったけど、お金の問題は解決していたからスルーしていたようだ。
ノルト神父は更にしわを深めつつも、説明を続けてくれた。
「一般教養科、魔導学科、遺跡学科、それぞれの年度トップは特待生として優遇される。学費以外にも様々な面でだ。よく調べてみるといい」
「ありがとうございます」
「それよりも、金銭の話だ」
厳しい表情のノルト神父。
真剣に俺の事を考えてくれているんだな。
「ノーツ総合学習院には劣るが、聖教領スピタリカの学習院ならば紹介できるがどうする? こちらならば学費はかなり抑えられるぞ」
聖教領スピタリカは竜帝信仰の聖地を中心にした宗教国家だ。
ノルト神父やティレアさんたち竜帝教の人はこの国に所属している。
「あそこはカルロに合わねえよ」
「かもしれん。だが、金銭の問題は避けられん」
具体的な案まで出してくれて申し訳ないけど、その辺りもストーリーは考えてあるのだ。
「いえ、当てがあるんです。以前ここにいたヴィオラを覚えていますか? 無担保、無利子でお金を貸してくれると申し出てくれたんです」
「なるほど。彼女か」
ヴィオラと面識のあるノルト神父は納得したのか頷いている。
彼女は親戚の貴族に引き取られた、という事になっているのだ。
貴族ならこれぐらいの金額を捻出できても不思議ではない。
「善行はするものだな。竜帝様は私たちを見守って下さっている」
ロザリオを手に祈るノルト神父。
騙してしまっているので、申し訳ないな。
「ふむ。準備は整っている、というわけだな。よろしい。カルロよ、貴重な機会だ。存分に学んでくるといい」
「はい」
及第点をもらえたようだ。
ノルト神父は大きな手のひらで俺の肩を叩いてくれた。
「うむ。私もささやかだが、お前に協力しようではないか」
「え?」
「ここから帝都まで一月は長すぎる。私が足を用意しよう」
「え?」
気持ちはありがたいんだけど、移動は大聖堂の転移を使うつもりなんですが……。
帝都の近くにちょうどいい転移ポイントがあってですね。そこを使えば帝都まで二時間もかからないんですよ。
しかし、これは手段があるなんて言えない。
ティレアさんの機転に期待して見つめるけど、なんだか『あっちゃー』みたいな顔をしていた。
「でも……」
「遠慮はするな。高みを目指す者を導くのもまた神父の役目。なに、特別なものを用意する。移動は半月もあれば十分だろう」
半月って、それ最短の場合じゃなかったですっけ?
え、どんな方法を使う気なんですか?
それってどんだけお金が掛かるんですか?
色々と気になって腰が引けてしまう。
「でも、巡廻授業とか……」
「もちろん、代役を立てよう。私も嬉しいのだよ、カルロ。教え子がこんなにも成長してくれていたのだからな」
三回目の『でも』は言えなかった。
こんなこと言われて、適当な理由で断れるかよ。
そっと振り返れば、ティレアさんも肩を竦めている。
「では、余裕をもって出立は五日後。カルロは荷物だけ用意しておきなさい。私が迎えに行こう」
「……はい。お願いします」
「うむ。そのように」
最後にもう一度俺の肩を叩いて、ノルト神父は礼拝堂を出ていった。
そういうわけで、俺の出発の日が半月も早くなってしまうのだった。




