0-3 『戦う考古学者』を偲ぶ会
少年編のラストにしようかとも思いましたが分けました。
変則投稿になっておりますのでご注意ください。
0-3
「はあ、本当に亡くなっちまったんだなあ、先生」
「ああ。ニュースで聞いても信じられなかったけどよ、墓まで見ちまうと実感するな」
「俺、あの人は百歳超えても現場で走り回るってるって信じてたぜ」
「うん。でも、当たり前だけど、七十歳だったんだよね」
「遺言があったんだろ?」
「おう。自分が死んだ後の事まで細かく決めてたみてえだ」
「覚悟してたのか……」
「たぶんな。通夜も葬儀もなし。遺産は処分して研究チームに全額寄付しろだってよ」
「先生らしいね」
「先生っ、ぐすっ、なんで死んじゃったのよ。もっとたくさん遺跡を見つけるんだって言ってたのに……」
「お礼、なんにも返せてなかったのに」
「おいおい。泣くなよ……って、無理だよなあ。本当に、世話になったのになあ」
「僕、今の職場を紹介してもらったんだよ」
「私もよ。知り合いの事務職が空いてるから、どうかって」
「顔が広かったから。研究者になった人も、そうじゃない人もお世話になったよね」
「俺、社長から自分のぶんまで挨拶して来てくれって頼まれたぜ」
「ところでさ、あっちの人たちって……」
「国際色豊かっていうか……」
「研究チームの人たちだ。世界中の大学とか博物館の関係者だろ」
「なんか、学芸誌で見た事ある人もいるね」
「うん。でも、そっちじゃなくて、その奥」
「もっとごつい人たちの方」
「あれは、あれって、あれが先生の先生、か?」
「やっぱり、『戦う考古学者』の『戦う』の部分になった人よね?」
「って、こっちに来たぞ!」
「お話のところ申し訳ない。少しよろしいでしょうか?」
「は、はい!」
「私たちになにか!?」
「えっと、日本語でいいの? 英語? それともポルトガル語?」
「ああ。どうか慌てずに。日本語で結構ですよ」
「……日本語、お達者ですね」
「ありがとう。日本語はオリトから習いました。彼は人にものを教えるのが上手かった。我々が彼に同行したのはほんの半年でしたが、基礎まで完璧に教えてくれた」
「じゃあ、やっぱり、あなたが?」
「ふふ。オリトから聞いていましたか? おそらく、ご想像の通りでしょう」
「隊長。それより、早く話を……」
「落ち着け。それに、隊長ではなく、社長と呼べ」
「Так точно」
「おいおい。昔の言葉が出ているぞ? 部下が失礼しました」
「い、いえ」
「……やっぱり、軍の人」
「……今の何語?」
「……顔、広すぎだよ」
「それであなた方にお聞きしたいのです。オリトがどのような状況で命を落としたのか。我々のいた場所では詳しい情報が届かなかったので、どうしても信じられないのです」
「ああ。あのオリトがそこらの奴に負けるわけがない」
「日本語を教えるから、戦い方を教えてくれなんて言った学者はあいつだけだ」
「学者にしておくのが惜しい奴だった」
「戦場で俺たちと肩を並べてほしかったぜ」
「隊長が本気で教え込んだ奴だからな」
「先生……」
「なんにでも挑戦する人だったけど……」
「鍛えてたもんね。七十歳の体じゃなかったもん」
「俺、ラグビーを教えてくれって言われた時はどうしようかって思ったぜ。あの時、もう六十ぐらいだったはずなのに」
「お前、それでタックルされて、逆に気絶しただろ」
「バッカ! あの人、普通じゃねえんだ! 現役の選手みたいなタックルだったんだからな!?」
「わかるぜ。オリトは教えるのも上手かったが、覚えるのも上手かった」
「お前も何回かやられてたよな?」
「………」
「………」
「無言でわかり合うなよ」
「お前たち、私語は慎め。それで、教えて頂けませんか? オリトの最期を」
「わ、わかりました」
「……そうか。教え子を守って。オリトらしいな」
「相手を道連れ、か」
「そんなのは教えてなかったんだがなあ」
「前に話した時、どこかの部族で組打ちを教えてもらったと言っていたぞ」
「ああ。あの盗掘団の話か?」
「それだ。一緒に戦った戦友だと言っていたぞ」
「銃を持った相手にロープ一本で挑んだと聞いた時は正気を疑ったが」
「本当ですよ。でも、それで有名になったんですよね、先生」
「映画にしないかって話もあったっけ?」
「あれも、どうしてなくなったんだろう?」
「ああ。それは戦った盗掘団の実態が、テロ組織の資金稼ぎだったせいだろう。連中を刺激してはまずいという判断じゃないかな」
「……テロ」
「……組織」
「……先生」
「おや、知らなかったのか。失礼。今のは忘れてくれ」
「君たちは知らないかもしれないが、中東では珍しくない話なんだよ」
「我々はオリトが亡くなったと聞いて、奴らの報復ではないかと疑ったんだ」
「確認しておいてよかった」
「ああ、そうだな。おい。会社で準備している奴らに連絡しておけ。」
「Так точно」
「ねえ。今の準備って……」
「しっ、言うな。深入りしちゃダメだ」
「この人たちの会社って……」
「ふふ。ご想像にお任せします」
「うわっ!」
「なに、今の?」
「パシンッて、すごい音がしたぞ」
「お前たち、しまえ。我々の出番ではない」
「何を……」
「だから、触れるな」
「それより、あれ、あの二人」
「あ。青柳先輩……」
「じゃあ、あっちの平手打ちくらったのが」
「うん。先生が最期に助けた人」
「芙蓉美佐枝さん」
「来てたんだ」
「噂、知ってるよな」
「ゼミじゃ有名だったよ」
「どの顔してここに……」
「私はあなたを絶対に許さない」
「ええ。それでいいわ。許されるなんてわたしも思わない」
「なのに、第一声が『研究チームのサポートをさせてほしい』? ふざけてるの?」
「そうよ。わたしの全てを賭けて、先生の遺したものを支えたいの。あなたならあちらに繋ぎがあるでしょう?」
「ある。だけど、あなたに義理はない」
「それでも、お願いします」
「今更、頭を下げたって知るか! 今まで自分が何をしてきたか思い出せ!」
「なら、何をすればいいの? なんでも言って? 全財産を捨てればいい? 裸になって土下座すればいい? 犬に抱かれてこいっていうなら、すぐに行ってくるわ。死ねという命令以外ならなんでも従うわ」
「口だけなら」
「本当よ。少しでも気が晴れるなら、いくらでも叩いて。わたしは受け入れるわ。もちろん、後から訴えに出たりもしない」
「自分だけ助かって恥ずかしいと思わないの?」
「先生が『死ぬな』って最後に言ったのよ。じゃあ、後を追うなんてできないじゃない。だから、それ以外でお願いします」
「………」
「………」
「……あなたの、能力は、信用している」
「………」
「その全てを考古学界のために費やすと誓えるなら――」
「誓うわ」
「何に?」
「先生からもらった全てに賭けて」
「……明後日の学会の後、私の研究室に来なさい」
「ありがとう」
「あなたのためなんかじゃない。先生のため」
「わかっているわ。それでも、ありがとうございます」
その後、二人は『戦う考古学者』の教え子たちをまとめ上げ、日本の考古学界を最期まで牽引していった。
次から新章突入です。
二年、時間が飛びます。




