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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 少年編
34/179

32 主

 32


 ダウンしたロミオ兄がアリア姉によって運び出された後、食堂には俺とティレアさんが残っている。

 どさくさに紛れて部屋に戻ろうとしたけど、襟首を掴まれて逃げられなかったのだ。

 二人の足音が遠く離れたの確認したところで、ティレアさんが切り出してきた。


「で、どうなってやがる、ご主人様?」


 この人、肉奴隷扱いされたこと根に持ってるな。ティレア

 まあ、完全に飛び火というか、事故に巻き込まれたようなもんだ。俺相手でも文句の一つぐらい言いたいのだろう。

 確かに不良シスターとはいえシスターが肉奴隷とか噂されるのはひどい話だ。

 もしも、ノルト神父の耳に入ろうものならどんな目に遭うのか。想像するだけで冷や汗が出てくる。


 俺もやだなー。

 なんか次に町のガキどもから『ご主人様』なんてあだ名で呼ばれそう。


「あー、話したでしょ。シェロカミン大聖堂で見つけた少女人形のヴィオラ。彼女がちょっと出てきちゃったみたいで。言葉の勉強をしたかったんだって」

「ああ。そいつか」


 これだけで色々と想像がついたのか、ティレアさんは溜息をついていた。

 丁度いいタイミングだから明日の事も話しておこう。


「それで、明日の午後にでも遺跡に行ってくるつもりなんだ。色々と話しておきたいし」

「……危険はないんだな?」

「これがあれば大丈夫」


 服の下から大聖堂のロザリオを取り出してみせた。

 これ、ちょっと前と形が変わっていたりする。

 ロミオ兄が木細工で竜帝の木彫りを作ってくれて、それで覆っているのだ。

 俺は孤児院の子供だけど、教会に出資してもらっているのに、別の宗教のロザリオを首に下げているのはまずいだろうという判断でこうなった。


「わかった。その代わり、明日の夜にそのヴィオラってのも連れてこい」

「え?」


 突然のお招きに困惑。

 ティレアさんの目的が読めない。


「えっと、噂の原因を締め上げるとか、そういうのはちょっと……」

「よし、カルロ。次の模擬戦できつーくしめてやるから覚悟しろよ」


 失言でした。

 ティレアさんは優しいお姉さまです。ヤンキーじゃありませんね。


「そいつ、町で知られたんだろ? で、お前と関係もあるのもばれてる。なら、話を合わせるように相談しねえとどこでボロが出るかわかんねえからな。それに誤解だってわからせんのに、本人がいた方がはええ」


 なるほど。

 確かに十歳児の俺がヴィオラにかしずかれるというのは普通じゃない。

 どうしても注目は浴びてしまう。

 それなら変に興味を持たれてしまう前に、こっちにとって都合のいいストーリーを考えて、広めてしまった方がいいだろう。


「まあ、没落貴族の箱入り娘が行き倒れて、それをカルロが助けたから恩義に思って……とかでいっか。シスター服はオレのを貸したって感じにして。あー、しばらくはうちに置いておくしかねえか? んで、適当なタイミングで遺跡に帰す。後から聞かれたら親戚が引き取りに来たっとでも言っておけばいいな」


 おお。

 スラスラとストーリーをでっちあげるティレアさん。

 意外な才能だ。


「よくそんな簡単に思いつくね」

「あー、まあな。適当だよ、適当」


 なんとなく、ティレアさんの表情が暗い。

 褒めたつもりだけど、嬉しくなかったみたい。

 照れたのを誤魔化しているわけでもない、よな。


 ティレアさんは乱暴に髪を掻き上げてから、びしりと指先を俺の鼻に当ててきた。


「んなことはどうでもいいんだ。話は作っておくから、連れて来い。いいな?」

「わかった。説得してみる」




 そんな会話をした翌日。

 俺はお昼を食べ終わると、構って構ってとしがみついてくるシャンテを断腸の想いでティレアさんに預けて、礼拝堂から大聖堂へと転移した。

 無人の礼拝堂でロザリオに向かって呼びかけると、例の魔法陣がすぐに輝き出して、目をつぶれば既に遺跡の一室。


「お待ちしておりました、ご主人様」


 部屋の入口には姿勢正しくヴィオラが控えていた。

 相変わらずの無表情で、背景にご機嫌の子犬のオーラを纏っている。


「ここは前に来たのと同じ場所?」

「はい。エタニモ礼拝堂近辺の転移地点からは全てこちらに運ばれます。お帰りの際は前回と同様に大聖堂からお願いいたします」


 となると、銀人形が並んでいた通路を通る事になるわけか。

 許可証のロザリオがあるから大丈夫とは聞いているけど、最初の一回はどうしても緊張してしまうな。

 俺はポシェットの竜卵に手を添えつつ、扉をそっと開けてみた。


「うわっ!」


 いや、襲われたわけじゃない。

 明るく照らされた通路には二十体の銀人形が整然と整列していた。

 胸に片手を当て、恭しく一礼したポーズで。

 人形らしくズレのない見事なポージングだった。

 はっきり言おう。不気味だから、これ。


「……銀人形、もう復活してるんだ」


 とりあえず、当たり障りないところを聞いてみる。


「はい。破壊から一日も頂ければ雑役方のクレイドール――銀人形は修復可能です」


 正式名称はクレイドールって言うんだ。

 もう銀人形で慣れてしまったし、ヴィオラも拘らないようだからこのままでいこう。


「じゃあ、あの大きかった巨兵人形のとか、金色の黄金人形軍とかは?」

「巨人型――巨兵人形は五日。守護騎士型――黄金人形軍は一体辺り十五日いただければ復帰いたします」


 サイズ的には巨兵人形の方が大きいけど、黄金人形軍の方が時間が掛かるのか。

 この辺り、性能差のせいなんだろうな。


「それで、これは?」

「ご主人様のお越しを歓迎させてみました。お気に召しましたでしょうか?」

「ヴィオラの差し金かよ」


 巨大な銀色のデッサン人形が整然と並んでいる光景はホラーハウスにしか見えない。

 これで通路が暗いままだったら完全に嫌がらせだ。


「あー、俺が来る時も普通でいいから。彼らも戻してやって」

「お気に召しませんでしたか。では、どうぞお仕置きを」

「やめろ。革ベルトとか出すな。っていうか、それで俺にどうしろっていうんだよ!」


 マリンさん、恨みますよ。

 開けなくてもいいヴィオラの秘密の扉をこじ開けた罪は重いですからね。


 それにしても、ティレアさん、本当にこいつを孤児院に連れて行っていいの?

 アリア姉やシャンテに悪影響を与えそうで怖いんだけど。


「……承知いたしました。次は必ずご主人様のご期待に応えられるよう全力を尽くします」

「それもやめて? お願いだから」


 ふりふりのゴスロリみたいな服で着飾られた銀人形を想像してしまった。

 もうそんなのマネキンじゃん。

 閉店後の薄暗い服売り場みたいになっちゃうでしょ。


「とりあえず、座って話せる場所はある? 掃除は終わったって言ってたけど」

「承知いたしました。ご案内いたします。どうぞ、こちらへ」


 そうして案内されたのは円環部分の上層の一室――執務室だった。

 かなり上の立場の人間のための部屋だろう。

 シャンテを探して回った時に見た、一番豪華で、隠し扉の先に宝物庫まであったのを覚えている。


 ヴィオラによって清掃され、水晶のシャンデリアに照らし出された部屋は豪華だ。

 調度品ひとつ取っても職人のこだわりを感じさせる逸品ばかり。

 勧められて座ったソファなんてフワフワしすぎて逆に落ち着かないぐらいだ。


 なんというか、同じ教会の施設のはずなのにうちの孤児院とで格差が激しいな。


「ヴィオラ、この部屋はまずいんじゃないの?」

「いいえ。問題ありません。どうぞ、おくつろぎください」


 先に用意していたらしいティーセットを持ってくるヴィオラ。

 紅茶のいい香りが届いてくる。

 どうやってか知らないけど、茶葉を手配したようだ。

 言われずとも準備しているあたり、従者としては有能なんだとしみじみ思う。

 手際よく並べていかれると、本当にこの部屋の主が俺なんじゃないかとも思ってくるけど、そんなわけはない。


「いやいや、ダメでしょ。俺は人族協力者って奴だよね? ここはそんな立場で来る部屋じゃないだろ」

「それが記録を調べたところ、現在、このシェロカミン大聖堂の役職を持つ者はおりません。ご主人様の前に利用されたのは八百年前でした。当時の状況と現状から推察するに当施設は破棄されたと予測されます」


 ヴィオラはどこか悲しそうだ。

 まあ、創造主から不要と判断されたのだから、事実悲しいのだろう。

 気持ちがわかるなんてとても言えそうにない。だから、深くは触れずに話を進めた。


「壊れて使えなくなったのならともかく、こんな施設を破棄って、どうして?」


 どう考えてももったいない。

 最近、習ったからこの世界の歴史も少しわかる。八百年前というと竜帝大陸を竜人族が支配した頃だ。

 となると、魔族が魔大陸に撤退すると決めたから放棄した?

 いや、そうだったとしても、敵に奪われたりしないように、破壊していくものじゃないだろうか。


「いえ、どうやらこのシェロカミン大聖堂は一度、破壊されたのです」

「破壊? そうは見えないけど……」

「はい。八百年かけて修復しましたから」


 自己修復機能があるんですか、そうですか。

 まあ、銀人形も再生するぐらいなのだから、不可能だとは言えない。

 そういえば、前に帰る時もそんなことを話したよな。


 つまり、魔族の想像以上にシェロカミン大聖堂はタフだった、と。


「ですので、シェロカミン大聖堂に主はなく、ご主人様が最も高い権限を持っています」

「俺が……」

「私を含め、大聖堂に存在する全てをご自由にお使いください」


 責任重大だな、これ。

 確かに研究したいとは思っていたけど、支配者になりたいとは思っていなかったのだが。


 尻込みしそうになったところで、俺と儂は同時に思いついた。


「あれ? これ、色々と解決したんじゃない?」

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