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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第一章 シェロカミン大聖堂
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22/179

20 再考察

 20


「よいしょっと」


 儂はシャンテを背負った。

 うむ。問題ないのう。ちゃんと立てる。


 即死しないまでも放っておけないような大怪我をしたはずだが、しばらく休んでいると応急処置していた傷は治りかけていた。

 激しい運動をすればすぐにでも傷口が開きそうだし、失った血までは回復していないようでクラクラするが、シャンテを背負って歩くぐらいなら大丈夫そうだ。

 巨兵人形の時よりも回復力が上がっておる。


 そう思って竜卵を見てみれば案の定、半周分の印が増えておった。

 数にして八枚。

 黄金像やその武具、最後の薄絹――精霊族の羽衣だろうか――を倒したためだろう。

 巨兵人形より格上を倒したにしては増え方が少ないような気もするが、常に一定のペースで増えるとも限らんしのう。


「んん……」

「シャンテ?」


 背中でシャンテが声を漏らしたので呼びかけるが、目を覚ましたわけではないようだ。


 意識を失ったシャンテは眠っているだけのように見える。

 少なくともケガはしておらんのだが、心の内側までは知りようがない。

 なので、それならば少しでも負担が減るように、シャンテの部屋で寝かせてやりたい。


 ちなみに、額の角は消えんかった。

 触ってみたが骨みたいな感触で、シャンテの額から生えているようにしか見えん。

 作り物がつけられているのではとも思ったが、違ったようだ。

 竜卵を当ててみるかと悩んだが、やめておいた。

 事はシャンテの身に起きている。知識もないのに下手な事をして、取り返しがつかなくなっては悔やんでも悔やみきれない。


 とにかく、


「今度こそ脱出しないと」


 しかし、どうしたものか。

 大聖堂の入口である前室。

 そこには回廊に繋がる左右の扉と、大聖堂への大扉しかなかった。

 普通ならもうひとつ、外へ繋がる玄関口があるはずなのだが。

 今まで通ってきた場所にもそれらしい扉は見当たらなかった。


「そもそも、ここはどこにあるんだろう?」


 地理的にもだが、立地的にだ。

 このエタニモ大聖堂に来てから、出入り口どころかひとつとして窓を見ていない。

 まるで外と遮断しているようじゃ。

 まあ、隠された聖堂なのだから、当然の処置だとは思うし、だからこそ今まで誰にも見つからなかったのだろうが。


 険しい山の上とか、未開の僻地とか、絶海の孤島とかならまだいい。

 下手をすると地面の下や空の上、海底の可能性まである。


「普通の出入り口はないのかも」


 そんな懸念が出てくる。

 なにせ、入るのが魔法による瞬間移動だ。

 出る時も同じという可能性は高い。


「問題は、それを僕が見分けられないのと、動かせない事だなあ」


 なんの魔法陣かわからないのに突入するのは無謀すぎる。

 長い時間を掛ければ解読できる気もするが、それでは何年も掛かってしまう。

 シャンテならわかるのだろうか?

 もしかしたら、魔法陣を動かせるかもしれんが、あまり無理はさせたくないというのが正直な気持ちだのう。


「まあ、まずは見つけてからにしよう」


 大聖堂を見回す。

 空っぽになった黄金人形軍の台座が寒々しい中、目に入るのは左右の壁に並んだ扉。

 それぞれに二十ずつある。

 おそらく、儂が最初に大聖堂を見た時は、あのどれかから覗いたのだろう。

 つまり、あの先にあるのは最初に瞬間移動してきた部屋に繋がる通路。


「どれかに出口がある、かなあ?」


 なんとなく、しっくり来ない。

 入ってきた通路の対面にある扉が出口、とは思えないのだ。


 試しに入ってみて、また銀人形に襲われたらたまらん。

 いくら力が強くなっていると言っても本調子ではない。

 シャンテに怪我をさせてしまったらどうする。

 早く帰りたいが、今はシャンテもいる。

 しっかり考えてから行動したい。

 というも、改めて思った事があるのだ。


 この大聖堂、大きすぎやしないか?


 獣人族に支配された精霊族が信仰のため、一致団結のために作った聖堂。

 それにしては規模が大きすぎる。

 この大聖堂だけではない。

 施設にしても、防衛機構にしても、手間を掛け過ぎだと思うのだ。

 こんな建物を造る余力があるなら、獣人族と戦った方が早いだろう。


「人数もなあ」


 エタニモ礼拝堂から移動するとして、受け皿である聖堂の方が広すぎる。

 柱を角とした四角い区画だけで大学の大きな教室レベル。

 儂が所属していた大学の席数が六百だったはずだから、立っていれば千人は入れるとして、そんな区画が五十、通路を抜いても四十もある。

 収容人数は四万人以上という計算になる。通路まで使って、詰めればもう一・二万は入るだろうか。


 エタニモという国にどれだけの精霊族がいたのかはわからんが、そこまで多くはあるまい。そんな人々が何回かに分けてやってきたとしても、聖堂を埋められん。

 どうしたところでガラガラになってしまう。

 他種族の協力者がおったところで同じだな。


 つじつまが合わん、というより、合理性がない。

 こんなもんを支配されていた種族が造れたとは思えん。


「考え違いがあるな」


 最初から穴だらけの推察をしている自覚はあった。

 だから、改めて考える。


 エタニモ大聖堂――いや、エタニモというのは獣人族の国の名前だから、本当は違う名前なのだろうけど、そこは後で確認するとして。


 諸々から推測するに、この大聖堂は地方の一施設というよりは、一大宗派の総本山という格を持っている。

 儂が連想したのは、カトリック教会の総本山であるサンピエトロ大聖堂。

 それぐらいの規模だ。

 断じて隠された聖堂というレベルじゃない。


「隠されていたのは本当だろうけど、もっと大きな話だ」


 精霊族の心の拠り所。

 彼らの信仰の象徴。


 となると。


「他の場所からも参拝に来る?」


 エタニモ礼拝堂だけじゃない。

 世界各地の精霊族の住処から移動するための魔法陣が、あの扉の先にはある?

 精霊族だけの秘密の通路。


「さすがに、飛躍しすぎかな」


 そんな事が可能なら、獣人族に支配される前にここを通して逃げ出しているだろう。

 逃げるだけじゃない。

 他から味方を引き入れる事だって……。


「いや、そっか。順番が逆なんだ。支配された後に繋げたなら……」


 エタニモ国によって支配された精霊族。

 屈服を装ってエタニモ礼拝堂を建設し、大聖堂へと繋げた。

 その後、非戦闘員は脱出させ、逆に同胞の戦闘部隊を国の内部に潜入させ、エタニモ国を内側から打倒した。

 そんなストーリーが思い浮かぶ。


 よし。その線で考えてみるとしよう。


 大聖堂の役割。

 シンボルと一致した構造。

 その上での帰還方法。


「やっぱり、魔法陣だよな」


 ここはエタニモ礼拝堂から遠く離れた地にある可能性が高い。

 それ以外に元の場所に帰れるとは思えん。


 そして、その魔法陣は利便性を考えると、狭い部屋のはずではないだ。

 何万という参拝者があの回廊を通るだけでもかなり時間が掛かってしまう。

 広い場所――さすがに処刑部屋はないだろうから、この大聖堂か、前室のどちらかにありそうだ。


 だが、見つからないという事は発動に条件が必要なのかもしれない。

 エタニモ礼拝堂の時と同じ、とは限らないな。


「月の状態は今も同じのはずだし、シャンテが条件だったとしても動いていないんだから、他の方法だよな」


 それはどこにあるのか?


 儂は足元を見る。


「地下かな」


 この大聖堂が真球の構造を描いているのなら、頭上のドームと対になる部分が下にあるはずだ。

 前世のサンピエトロ大聖堂にも地下墓所があったしのう。

 何かしら重要な施設があったとしても不思議ではない。

 早速、探してみるとしよう。


 一番怪しい祭壇に向かった。

 さっきシャンテが腰かけていた(今思うとかなり不敬な事だ)アナロイのような台が置いてある。

 押してみると普通に動くが、下には何もなかった。

 念のため、竜卵で叩いてみるが硬い音がするだけ。下に空洞がある音ではない。


 祭壇は頭上の映像を引き立てるためか、あまり物が置いていない。

 他に目につくのは後ろのカーテンぐらいか。


「うん。当たりだ」


 紫紺のカーテンをめくると、その先には燐光に照らし出された地下に通じる螺旋階段が口を開けていた。

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