最後の晩餐、黎明の予感
パンも無事焼き上がり焼き立てのパン匂いに包まれながらホクホクで帰宅する。
今は玄関につきアンナさんとヨハンさんが荷物を家にいれているところであった。あれね、イメージとしては某大型倉庫店帰り。
私が手伝っても、かえって足手まといになるのは目に見えている。私は「はーい」と短く返事をして、邪魔にならないよう、家の裏手に広がる羊牧場の方へふらりと散歩に出ることにした。
沈みかけた夕日が、牧草地をオレンジ色に染め上げている。
のんびりと草を食む羊たちを眺めていると、ふと、視界の端に違和感が混じった。
そこには、深く被ったフード付きのローブに身を包んだ男が立っていた。
じっと羊を見つめているその姿は、町の住人でもなければ、町に時折やってくる行商人でもない。町外れのこんな場所まで、見ず知らずの人が来るなんてそんなにない。
よし!見なかったふりして家へ帰ろう!
へへへ私は前世でも今世でも知らない大人にはついて行くなと散々口を酸っぱくして言われているんだよ!とりあえずなんでもいいから引き返そ異変異変。
「おい」
「ひゃいっ!?あ、、こんにちわー」
いきなり声をかけられるもんだから驚いて変な声が出た。
「すみません私今から夕飯ですぐ帰らなくちゃいけなくて。失礼しまーす、、」
「ちょっとまて。お前に用があってここに来たんだ」
「…私にですか?」
よくよく見てみるとこの辺りでは見かけない継ぎ接ぎのないきれいなローブ。農民の服は基本継ぎ接ぎだらけであり、そもそもローブなんて平民は着ない。
けれど、その地味な色は、夕闇が迫る牧場の景色に溶け込もうとしているかのようで、余計に不気味さを際立たせている。
……怪しい。 怪しいというか怖い。
確かに怪しいおにーさんは好きだったけれども…!私が好きなのはこういうタイプじゃない。普通に不審者って感じで怖い。
「ああ。お前はteva-luだ。」
「 すみません、teva-lu……?ってなんですか?」
私は1年経ち、そこそこ言葉が通じるようになったからと言って知らない言葉はたくさんあるのである。
例えば英語を習っている人でも知らない言葉があるのと同じである。仕方ない。意味のわからない言葉を意味がわからないままにしてひどい目に合うのは経験済みであった。
「…一般人には知られてないんだったか?…つまりpova-luを持っている人のことだ。」
「えっとpova-lu?ってなんですか…?」
私がさらに聞き返すと男の人は深い溜息を吐いた。
「………ここでは具体的な説明はできないからな。見たほうが早いだろう」
男の人は紙切れをローブの中から取り出したかと思うと手に持っている紙切れが燃え始め、代わりにそこそこ大きい水の玉が空中に出現した。そしてその水は空中にふよふよと漂っている。
「うわぁぁぁ!浮いて…ぇっあ!『魔法』ってこと?すっごぉ!ファンタジー!」
転生してきて変な超科学的現象を見せられたらそれはもう魔法だよね?
魔法じゃないかもしれないけど、私は魔法だと思いたい。
「『魔法』…?とりあえず、わかったな?お前にもこのような事ができる力がある。故に俺等【魔法使い】が保護する。明日、迎えに来るからとりあえず、必要な荷物をまとめておけ。他人には不用心に話すなよ。母親にもだ。」
すうっと男の人の姿が暗闇に溶け込んでいく。
「ぇっ保護?力?どゆこと?あちょ待って消えないで、消えないでー!………消えちゃった…」
誰もいない牧場に、私の間抜けた声だけが響く。
手を伸ばした先には、夜の帳が下り始めた牧場の風景があるだけ。さっきまでそこに、人がいたなんて、嘘みたいだ。
「……夢? いや、でも足元の草、さっきの水で濡れてるし」
現実だ。
そういえば力とかって言ってたけど、、
「力……力? 力!? 私魔法が使えるってこと!?えっ…えぇ……あの人のことをどれだけ信用していいのかわからないけど…いやっふぅ…!魔法!楽しみ楽しみ……」
口角がどんどんと上がっていく。
「ソテラー! どこにいるのー? 全部入れ終わったから戻っといで!」
アンナさんの声が、遠くの家の窓から漏れる光と一緒に届いた。
「はーい!今行くー!」
上がりすぎた口角を戻しつつ弾んだ声で返事をして鼻歌交じりに走り出した。
その後ホクホク顔で家に戻って焼き立てほやほやのパンを齧り、いつも通り床に入る。
そう!実は頭の中がお花畑であるこのポンコツ、「魔法」の存在を気を取られ、保護をされるという部分を考えていなかったのである!!
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