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2/12

目を開ければ、そこは

                 ◇◇◇




 目を開けるとそこには青空が広がっていた。


 私は草の上に寝ていて、辺りを見ようと起き上がると、周りは気持ちのよい風の吹く草原であった。



「どこ…?ここ…」



 先ほどまで私は病院の白い天井を見ていたはずだ。およそ3ヶ月前、かなり進行した病気が見つかり、入院生活を送っていた。今私!外に出てる!久しぶりのお外!



 周りを見渡すとすぐ近く、右には森があり、目の前には広い草原と下の方には小屋?があって周りには羊のようなヤギのような動物が見える。

 でも私は多分あの時死んだはず。もしやここは天国なのだろうか?



 そして起き上がる拍子に、視界の端で何かがさらりと揺れた。



 ……明るい、茶色。



 驚いてその一房を手に取ってみても、やはり見間違いではない。指の間を滑り落ちる、絹のような柔らかな質感。


 私はもともと緩和ケアを受けていた。強い薬の副作用のせいで、髪の毛が抜けていたのである。


 それがいま生えている。そして、触っても抜けない。


 しかしそれは、純日本人として生まれ、一度も髪を染めたことがなかった私にとっては信じられないような、透き通った茶色だった。



「……生えてる。わたしの、髪……」



 これはびっくりしないほうがおかしい。死の淵で失ったはずの髪の毛が、全く別の色を持って再生しているのだ。


 失ったものが戻ってきた喜びと、それが自分の知る自分ではないという奇妙な感覚。


 呆然としながら自分の体に目をやると、着ているものもひどく簡素だった。


 病院の清潔な寝巻きとは違う、現代日本では見かけないようななんだかちょっとしょぼい服。


 その瞬間、私の脳内に、一つの可能性が浮かび上がった。



「もしかして、転生、したとか?」



 それなら青空の下にいるのも理解できるし、服がちょっとあれなのも、髪の毛の色が茶色なのにも納得がいく。



「てーことは、つまり私も魔法が!?使えちゃったり!?使えちゃったり!?」



 テンションが上がった朱莉はそのままばっと立ち上がり、手を前に突き出した。



「炎系統は危ないし…よし! ウォーターボール!!!」



 あかりは ウォーターボール をとなえた! 

 しかし なにも おこらなかった!



「え?でない…じゃあ! 大気なる水よ、我が魔力を糧に集え。紡がれし奔流となりて、仇なす者を押し流せ!――『アクア・ストリーム』!! 掛けまくも畏き 水の女神の御前に恐み恐みも白さく我が祈りの誠の声を 響き届け給いて清き水の恩頼を 恵み賜えと畏こみ畏こみも白す!!」



 いろいろと呪文を変え唱えても魔法が使える気配は微塵たりともない。



「え、なんでぇ……出ない。何にも出ない。私のチートウハウハ異世界ライフはどこ行った!?スローライフでも可!!」



 しかしここの世界で使われている魔法は私の知っているようなものではないのかもしれない。

 そう言い聞かせ、人に合わないことにはと、かなり距離はあるがとりあえず人がいそうな小屋のある方に向かってみることにした。



 そして、少し歩いて音を上げる。足場は悪く、靴もなんかよくわからない布でできた靴といってもいいのかわからないようなもの。


 普段機能性抜群の靴を履いて、鋪装された道を歩いていたから結構きつい。というかそもそもここ最近は一人で歩くのもままならなかったわけである。


 久々の歩行はほぼほぼ登山であるという何たる鬼畜。そもそも山道なんて歩いたこともないから、足元がおぼつかない


 山道を這うように進み、ようやく視界がひらけた。その瞬間、私は足を止めて息を呑む。


足元には色鮮やかな花が咲き乱れ、どこからか鳥のさえずりが風に乗って届き、耳をすませば小川のせせらぎも聞こえ、遠くそびえる雪山は陽光を跳ね返し、銀色に輝いている。



「……きれい…」



 歩いているときはそれで一生懸命で気づかなかった。


 けれど、感動と同時に絶望も襲ってきた。

 視界が開けたことで、目的地である小屋までの正確な距離が分かってしまったのだ。


 ここから小屋までは、気の遠くなるような草原の急斜面が延々と続いている。米粒のように小さく見える羊たちが、あまりにも遠い。


 この道のりを行くのかと肩を落としたが、他に選択肢はない。


 私は大きく深呼吸をして、新しい肺に新鮮な空気を詰め込み、再び一歩を踏み出した。


 私ならできる!多分!


 そして明らかに挙動不審だったであろう私を羊たちは特に警戒する様子もなく、もさもさと草を食べているのであった。




◇◇◇




 かなり遠かったし時間もかかったが、何とかたどり着くことができた。今この小屋に人がいるかは謎だが洗濯物とかも干してあるしたぶん人は住んでいる。


 というか住んでいてくれないと困る。このままだと今晩野宿になってしまう。

 私は願いながらも扉を叩いた。



 「すみません 誰かいませんか?」



 少して声に反応したように奥からパタパタと足音が聞こえ、ひとまず安心した。



「:bira-mi"」



 扉が開かれるといかにも中世ヨーロッパを思わせる服装をした大人の女性が怪訝そうな顔で出てきた。そしてその女性から発せられた言葉に一瞬思考がフリーズした。


 聞きなじみのない言葉。日本語でも、たぶん英語でもない。

 もしかして、いやもしかしなくても今私はこの世界の言葉がわからないのだろうか。


 んな馬鹿な。




 よくある、物語に出てくる転生者が転生先の言葉がわからないだなんてことはないでしょうがっ!

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