笑えない冗談は冗談じゃない
当初の予定より1日早いですが、本日から投稿再開させていただきます。
まだまだ朱莉ちゃんのお話は続きますので、気長に見ていただけましたら幸いです。
「私達は結局どこへ向かっているんですか?」
先をゆく後ろ姿に声をかけた。
「teva-lu-domだ」
またもや聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「てば……?」
「……俺達のようなやつが住む場所だ」
「そうですか……で、なんでこんな山奥に来ているんですか!?おかしいでしょう!!獣道すらない!!!こんなところに本当に人が住んでいるんですか……」
本当に、ただの未開の自然の中を歩いているのだ。
足元には膝丈まである草が生い茂り、行く手を阻むように伸びた枝が容赦なく頬をかすめる。頭上を覆う木々のせいで光は細い木漏れ日となり、私達を照らす。
気をつけていなければ容赦なく顔にクモの巣を被るし、泥を踏む可能性だってある。
それにまとわりつくような湿気が不快!!!ここはヨーロッパではないのか……地中海性気候仕事しろよ……
「うるさい」
つい声を張ってしまったせいで非難の声が響く。
彼は振り返りもせず、ただ低く冷たい声だけを後ろに放ってきた。
「すみませんねぇ!!」
私は八つ当たり気味に右足を蹴り出した。靴の先にべっとりとついた泥を、前を行く男の背中に飛ばしてやろうと思ったのだ。
けれど、泥は男の足元にすら届くことなく、ただ手前の草むらへ無残に落ちただけだった。
まぁ本当に飛んでいったら困るけど……
「誰がどこで見ているかわからないような場所でbira-vold-pova-luは使えないだろう。それくらい考えろ」
「すみませんねぇ!!そういうのなにも教えてもらってないもので!!」
男は歩みを止めないまま、わざわざ私に聞こえるように、首を振って盛大にため息を吐きだした。
「はぁ……だから嫌だったんだ……大体あいつらも弟子いないくせに……俺に押しつけやがって………」
「大体説明不足すぎますよ、先ほどのあの…騎士?がいなければ私もあなたのこと信用できなかった気しますし」
先ほどと言っても、もう日は天高く登っている。すでに山道を2時間以上は歩き続けているはずだ。
すると、前を歩いていた男が、なんの前触れもなくピタリと足を止めた。
「そろそろbira-vold-pova-luを使う。ほら、つかまれ」
急に後ろを振り返ったかと思えば、私の目の前にぶっきらぼうに手を差し出してくる。
「また随分と急ですねぇ!!」
文句を言いつつも、私はその綺麗な手を恐る恐る握った。すると男は、私の手を驚くほどの強い力でギュッと握り返してくる。
「以前、100年ほど前だと聞いたかな、bira-vold-pova-luで一緒にbira-vold-luしていたやつがうっかり手を離してな、そのまま帰ってこなかったとか―――」
男は淡々とした口調でとんでもないことをぶっこんでくる。
「だーーー!!言葉わからないけどなんか怖いい……やめてくださいよ……」
「さあ、本当は冗談かもしれん」
自分も真相は知らないというように目を閉じた。
「笑えない冗談は冗談じゃないって知りません……?」
「うるさい行くぞ」
「;bira-vold-pova-lu-ya-mi-teva-lu-dom'」
男が唱える始めるの同時になんだか怖くなって目を固くつぶる。
男がそう唱え終わるのと同時そこにはもう人がいた痕跡すらなかった。
◇◇◇
ぎゅっとつぶった目をおそるおそる開くと、そこはまたもや何も変わらぬ森の中だった。
いや、正確には変わった。しかし、変わったことにも気づかぬくらい、先ほどまでと酷似した緑一色の世界であった。
「いや、全然変わってないじゃないですか!!」
目を見開いた私は、思わず周囲の木々を指差しながら絶叫した。
あの凄まじい呪文は一体なんだったのか。
もう私は今すぐにでもお風呂に入ってキンキンにクーラーをかけた部屋で布団を被りながらゴロゴロしたい。この世界にはないが……
「まぁあと1時間くらい歩けばつく。我慢しろ」
男は私のパニックなどどこ吹く風で、繋いでいた手をパッと離すと、何事もなかったかのようにまた歩き出そうとする。
「そんな殺生な……」
私はその場にガクッと膝をつき、湿った地面に突っ伏したくなった。
つまり合計3時間ぶっ続けで道なき道を歩けと…!?
殺す気か!!!!!!!!




