本日人類は終了します。
人類、滅びます。最終話です。
「本日人類は終了します。」楽しんでいただけたら嬉しいです。
朝日が自室のカーテンから差し込む。私は体を起こし、時刻を確認した。
7時前。ちょうどいい時間に起きた気がする。
3月31日水曜日。
今日の零時、人類は滅亡する。
私はリビングに出ると、朝食を作り始める。
父は自分で用意すると思うので作らない。
別に父が嫌いなわけじゃないが、正直好きでもない。それ以上でもそれ以下でもない。
朝食を食べ終え、適当な格好に着替える。
といっても何も思いつかないので、中学の制服に着替えた。
(本来なら高校の制服が届いていたのだろうな。)
さて、人類最後の日を何して過ごそうかと前々から考えてはいたが、8時を迎えそうな今でも思いついていない。
エンディングノートは書き終わっちゃったし、今更どこかに行きたいとも思えない。
私は特に意志もなくリビングのテレビを点ける。
想像通り、人類滅亡の話題に侵食されているが、その中でもこんなタイトルのニュースが目についた。
『ボイジャー1号、通信途絶える』
確かボイジャー1号は人類最遠の宇宙探査機なはずだ。
その探査機との通信が途絶えたということは、もうそこまで真空崩壊が来ているということになる。
テレビのなかのキャスターや天文学者は大騒ぎしているが、宇宙のことをほとんど知らない中3にはまだ遠い話だ。
私は内心少し驚きつつ、遠で宇宙の藻屑とかした探査機に両手を合わせた。
昼食は父と2人で適当に見繕って食べた。
何か特別なものを食べたとかそういうのではないが、父は今更何を話したらいいのかわからないのか、もごもごと口の中で言葉にならない何かを転がすだけだった。
私は昼食を詰め込んだ後、昼下がりの立河市を歩いている。
ただぶらぶらと歩いていたのだが、自然に通学路になっている。
私は通学路の途中にあるにも関わらず、寄り道禁止のせいで買い物ひとつできていなかったコンビニに入った。
店内は多少商品が少なくなっていたが、至って変なことはないいつも通りの店だった。
私はしばらく店内をうろうろした後にお菓子コーナーを覗く。
その時、小さい時よく食べたお菓子を見つける。
一つだけ手に取り、レジに持っていく。
店員さんは憂鬱そうな様子もなく、淡々と仕事をしている。
商品のバーコードをスキャンし、受け取ったお金をレジにしまう。
(ここのお店を使うのも最後だな。)
そう思った私は、商品を受け取りでていく前に、
「ありがとうございました」とだけ言った。
私はコンビニの外壁に寄りかかり、さっき買ったお菓子を開ける。
幼い頃はこれをよくご褒美としてもらっていた気がする。
昔の記憶を反芻しながら、私はお菓子を口に入れる。
チョコレートの味が口いっぱいに広がり、
幼い時の記憶が鮮明に蘇ってくる。
今日は「人生よく頑張りましたで賞」ということでいいだろうか。
(はい、15年間よく生きましたー。)
私はそういいながら、手に持ったお菓子を頬張った。
夕方4時頃。夕日が部屋に差し込む。
(人生最後の夕日だな。)
私は写真を撮ることもなく、ただ茫然とそれを眺めた。
今日一日、最期をどこで迎えようか考えていたのだが、一つ思いついた場所があった。
今夜はそこに行こうかと思っている。
故に、最期の瞬間に私はここにいないことになるだろう。
(この部屋とも今日でお別れだな。)
この家には悪い思い出もあるが、いい思い出の方が多い。
振り返れば、真空崩壊というものが私たち家族を狂わせてしまっただけで、告知さえなければ健全に生きてた普通の家族だ。
私は飾られた写真を見つめる。
元気だった母。顔色のいい父。
全てが懐かしかった。
「じゃ、いってきます。」
私はそういいながら玄関のドアノブに手をかける。
その時、後ろから声がした。
「こんな日にどこにいくんだ?最期くらい、一緒にいればいいじゃないか。」
そういいながら時計を指差すのは父だ。時刻は午後10時を回っている。
人生最後の入浴を終えた私は、最期を迎える場所に移動しようと思っていた。
私は少し顔を顰め、父に言った。
「半年以上酒に溺れて現実から逃げてた人に、どこで誰と死ぬかまで強制されたくないんですけど。
そもそもお父さんがまともでいてくれたら、こんなことにならなかったんじゃないの?
まぁいいや、これが今生の別になるだろうからね。
いろいろお世話になったよ。育ててくれてありがとうございました。じゃ。」
最後の方棒読みになってしまったが、私はそう言って玄関扉を閉めた。
こうして私は、15年間過ごした家をあとにした。
(やっぱ鍵かかってるよなー。)
私はすっかり暗くなった通学路を歩き、立河市立錦中学校の正門前に来ていた。
今夜はここで逝こうかと考えていたのだ。
しかし、さすがに人類滅亡の今日だ。
鍵はしっかりロックされていた。
(でもこれ…。)
私は正門の柵の間を見つめる。
(こんなに開いてるなら、隙間から通れるのでは?)
そう思い、私は柵の間に体をねじ込ませる。
入れるわけないと思った。しかしーー。
(あっ、通れちゃった…。)
杜撰とは言わないが、十分侵入可能だ。
きっと先に逝ったあの3人も、こんなふうに侵入して内側から鍵を開けたのだろう。
私は校庭から昇降口に行き、上履きに履き替えることもないまま校舎内を回った。
一つ一つの教室を見て周り、懐かしさが溢れてくる。
3階まで辿り着いた時、図書室が目に入った。
(あの図書館の人、どうしてるんだろう。)
あの神秘的な雰囲気は、とても同年代とは思えなかった。
最期に話をしてみたいけど…。
(流石に来てないか。)
私はそう思いながら、3階から階段を登って行った。
私は屋上の扉を開ける。
三月の夜風は、まだどこか涼しかった。
(職員室の鍵がかかってなくて助かった。)
事前に鍵がかかっているだろうと思っていたので、先に職員室に行ってマスターキーを拝借してここまで来ている。
こういうのを不法侵入や、窃盗というのだろうか。
私はそんなことを思いながら夜空を見上げる。
去年のクリスマスに見上げた空よりも暗く感じた。
あと少しだ。あと少しで人類は滅ぶ。
時計に目を落とす。
時刻は23時10分だ。
スマホを開いてみると、
『木星が消えた』
という投稿が目に入ってくる。
本当にもうそこまで来ているのだな。やっと実感を持った。
高速で迫ってくるのなら、月がいなくなったなと思った瞬間には死んでる…ということだろうか。
私はそんなことを考えながら、スマホの連絡先を眺める。
そして、1人の人物に電話をかけた。
電波が悪いからか回線が繋がるのに時間がかかったが、電話口から穏やかそうな声が聞こえてくる。
「もしもし?今平気かな。」
『うん、大丈夫。どうした?』
電話をしたのは酒井悠真だ。
2月に一度会っているが、幼馴染である彼に最後に別れを言っておく。
「あとちょっとで終わるけどさ、ありがとうね。」
『…おぅ。』
「そっちはどうするの?最期の時。」
『眠いから寝るわ。』
そっかと私は笑った。
そして「元気でね」と言って電話を切った。
悠真の驚くほど冷静な様子に、今でも少し面白く感じてくる。
私はもう1人の電話番号を打つと、通話ボタンを押す。
回線は、今回は意外と早く繋がった。
『はーい、もうすぐだね。』
年越しを待つテンションでそういうのは美鈴ちゃんだ。
私は受話器に少し口を近づけて言った。
「美鈴ちゃん、友達でいてくれてありがとうね。」
『なーに急に。こちらこそだよ。』
電話口の美鈴ちゃんが楽しそうに笑う声が聞こえる。
「私今学校にいるの。美鈴ちゃんは?」
『私?家だよ。今夜はうちのわんちゃんといるの。』
「そっか。」
「じゃあ、またね。」
『うん、ばいばーい。』
そういって回線を切った。
時刻は23時45分だ。
(思ってみれば、あっという間だったなぁ。)
夜空を見上げながら、私はため息をついた。
こんな人生で良かったのかと今でも少し思うが、もう十分だとも思う。
母は今頃どうしているのだろう。
そんな思考も、頭をよぎった。
夜空の星が、少しづつ消えていく。
あともう少しで私の人生も終わりだ。
振り返れば、なんだかんだいい人生だった。
これ以上は望まない。
「…楽しかったな。」
そう言った瞬間、月の形が不自然に歪んだのが見えた。
(もう時間だ。)
私はそっと目を閉じた。
とうとう完結です。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
みなさん今までこのお話を読んでくださって、ありがとうございました。
あと少し宣伝で、作家ページとんで頂けると
「冥土の旅のご案内」連載しておりますので、
そちらも気が乗ったら是非是非。
ご意見・ご感想、よろしくお願いしますー




