人生結局そんなもん
最期に会うお友達の話です。
「人生結局そんなもん」楽しんでいただけたら嬉しいです。
母が入院して3日経った3月27日土曜日。
人類滅亡まで残り5日。
私は立河市にある大手家電メーカー店舗内にある喫茶店である人を待っていた。
母が医療保護入院してからというもの、私の生活はびっくりするほど安定していた。
物音で起こされることもなければ、食べ物を流し込むのも清拭もおむつ交換もない。
(楽だぁー。)
実母に向かってあんまりな言いようだと思うが、私だって人間だ。大変なものは大変なのだ。
私は去年の4月ごろに買ったエンディングノートをトートバックから取り出す。
少しづつ書いていたからか、遺産や葬儀の項目以外はほとんど埋まっている。
遺書も書いたし、死ぬ準備万端だな。
そんなことを思っていると、店内に1人の女性が入ってきた。
長袖で丈の長いワンピースに身を包んだその子に、私は大きく手を振る。
「やっほ、結衣ちゃん。卒業式ぶり。」
「お久しぶり。死ぬ準備はできた?」
中学2年生から同じクラスだった美鈴ちゃんが、指を2本立ててピースサインを作る。
死ぬ準備も完璧、ということだろう。
私は「じゃ、どうぞ」と席を指差す。
美鈴ちゃんは荷物を椅子にかけて座った。
「ここの喫茶店、事前に注文しておくスタイルなんだね。」
「そうだね。後から店員さんが届けてくれる感じかな。」
こういう喫茶店に入ったことがないのいか、結衣ちゃんはあたりをキョロキョロと見回す。
「結衣ちゃんは何を注文したの?」
「お腹すいたからトースト頼んだ。ハムが入ってるやつ。胡椒入ってて美味しいよ。」
「へえ!一口ちょうだいね。」
「そういう美鈴ちゃんは何を頼んだの?」
「私ボロネーゼー。久しぶりに食べたくってねぇ。」
そう言ってる間に店員が料理を持ってくる。
私たちの前にトーストとパスタが並び、小さな湯気を立てていた。
美鈴ちゃんがスマホで写真を撮る。
私たちは目の前に並ぶ食事に手をつけた。
「ねぇ、お母さん大丈夫なの?」
美鈴ちゃんが首を傾げながら言った。まさかそんな話題が出るなんてな。
「お母さんね、入院しちゃったよ。」
「…あぁ、そうなんだね。」
美鈴ちゃんはそれ以上、母の話題を降ってこなかった。
私はトーストをお皿の上に置くと、まだ口を動かす美鈴ちゃんに言った。
「なんかね、私ここ一年ずっと考えたんだけど、
結局私の中での『生きる』って、こんなもんだったと思うんだよ。
「友達と遊びに行って、家に帰ってご飯食べて、眠ってまた起きるような。
そんなのを繰り返してるだけでも、それが私にとって『生きる』ってことだと思ったの。」
私は一口にそういうと、またトーストを手に取る。
美鈴ちゃんは目を瞬かせると、フォークを置いて目線を上にする。
「そうだね、結局人生ってそんなもんなのかも。
私もこの1年間、犬の散歩サボったことないよ。私の中での生きるって、そんなもんだったのかなって。
あ、悪い意味じゃないよ?犬は可愛いからさ。
でも何も変わらない日常で、私楽しかったな。死んでも、寂しくなんかないよ。」
私たちは顔を見つめ合い、ふふっと小さな笑い声を上げた。
食事し終えた私たちは、喫茶店を出る。
これから一通り立河を周る予定だ。
夕日が私たちの影を伸ばしている。
時刻は午後5時に迫りかけた夕刻だ。
隣に座る美鈴ちゃんが笑いかける。
「いやー遊んだねー。…もう、結衣ちゃんと会うのも最後かなぁ?」
「そうかもね。最後になるかな。」
立河の人通りを眺めながら、私たちはぼぅっと空を見つめた。
「楽しかったね。人間に生まれて良かった。」
「そうだね。悔いなしだ。」
美鈴ちゃんが勢いよく立ち上がり、私に手を差し出す。
「じゃあ弥明後日!世界が終わる夜に、また電話しよ?」
「うん。夜でいいの?回線混みそうだけど。」
「いいのいいのー。」
私たちは反対方向に歩き出す。
美鈴ちゃんの背中は、死へ歩き出す人間とは思えないほど軽やかだった。
私はふと空を見上げる。
綺麗なオレンジ色が空に浮かぶ雲を照らしていた。
最近、水は一体何味なのかなと考えてます。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
ここ数日で一気に暑くなりましたね。そろそろ長袖も潮時だけど、日焼け対策的にはどうなのかなぁ。
みなさんお分かりだと思うんですけど、
なんとなんとこのお話も残り1話になりました。
最後まで、結衣ちゃん達の生き様を読んでいただけたら嬉しいです。
ご意見・ご感想、お待ちしてますー




