暇乞い
人生最後の卒業式です。今回もまた、短く平和な雰囲気です。
「暇乞い」楽しんでただけると嬉しいです。
広い体育館の中に、大勢の人が詰め込まれている。
私は舞台の上から、その様子を見下ろしていた。
目の前では、校長の前で3年生が卒業証書を授与されている。
3月15日月曜日。人類滅亡まで残り17日の今日、立河市立錦中学校は卒業式だ。
(…とうとう学校も終わりかぁ。)
そんなことを考えながら、私は証書授与の順番を待っていた。
といっても、私は出席番号が3番なため案外待たない。
すぐに順番が回ってきた。
「磐城結衣さん。」
「はい。」
舞台に立ち、全体を見回しながら返事をする。結構な人数だ。
校長の前に向き直り、礼をする。
先生が証書に書いてある一文を読み上げ手渡す。
私はそれを練習通り受け取り、前に向き直り部隊から降りる。
自分の椅子の前に立ち、これからクラス全員が証書をもらい終わるまで待つ。
(ここからが長いんだよな…。)
学校を休んでいた生徒も一応卒業式は来る子が多いため、人数が少なくなるということはあんまりない。
まぁ本当にいなくなっちゃった子はいるけど。
私はあの3人のことを思い出す。あの子達は今どうしてるのだろう。
(あと少しで私もそっち側に行くから。)
目を瞑り、そう呟いた。
退屈な式も終盤になり、最後に合唱して終わる。
音楽でずっと練習していた歌だ。
(これが人生最後の歌かもな。)
私はそんなことを思いながら、ソプラノに流されないよう耳を集中させた。
「みなさんご卒業おめでとうございます。皆さんと会うのもこれが最期ですね。
大変なこともありましたが、最期までみなさんが穏やかに過ごせることを心から願っています。」
担任はそう言いながら目元をハンカチで抑える。
「先生ちょっと大袈裟じゃない?」
「いや泣けるものがあるんでしょ。」
周囲からそんな声が上がる。
私は教室の窓から、膨らみ始めた桜の蕾を眺めていた。
(あの桜が咲くことはあるのかな。)
去年の4月には桜が咲いていたな。
懐かしい記憶が蘇り、口元が緩む。あの時は気楽だったもんだ。
「ではみなさん健康に気をつけて。最後までお元気で。以上です。」
日直が号令をかける。
椅子を引く音が教室中に響き、一斉に礼をする。
最後だとわかってるからこそ変な気持ちになる。
(中学生、良かったな。)
私は頭を上げながら、少しだけ微笑んだ。
校庭にたくさんの生徒が集まっている。
先輩との別れを惜しむ者。
友達同士で写真を撮る者。
教師にお礼を言う保護者。
客層は様々だ。
黙ってそこを通り過ぎようとした私だったが、勢いよく袖を引っ張られる。
「ちょっと結衣ちゃん!暇乞いぐらいしたらどうなの?最後って分かってます?」
「あーごめんごめん。すっかり忘れてた。」
「忘れないの!」
頬を膨らませるのは美鈴ちゃんだ。
そしてそれを援護するように私の背中を押し、連行するのは宇佐見さんである。
(まぁ最後だもんな。撮っとかないと死ぬ時後悔しそうだ。)
死ぬ時に成績は関係ないし、何も持っていけない。
問題は「死ぬ時彩ある思い出がそばにあるか」だ。
死んでも思い出は持っていける。
私は2人に挟まれ、歪なピースサインをし、慣れない笑顔を浮かべる。
宇佐見さんが持つスマホからシャッター音が響く。
数枚写真を撮ったあと、自分のメッセージに写真が送られてきた。
私は携帯に写真を保存する。
「じゃあ、最後だね。」
宇佐見さんがなんとも悲しげな顔で言う。
私が「そうだね」と言った時、美鈴ちゃんが「違うよ」と付け足す。
「最後なんかじゃないよ。あの世でまた会いましょ?」
宇佐見さんの顔がぱっと明るくなった。
「そうだね!またあの世で!」
そういってハイタッチをしたあと、「じゃあね」と宇佐見さんは駆け出した。
その先には両親と思わしき男女が立っている。
私がその様子を呆然と見ていると、美鈴ちゃんが言った。
「私も家の人が来てるから一緒に帰れないの。結衣ちゃん、元気でね。」
「うん元気で。」
宇佐見さんと同じように、美鈴ちゃんも手のひらをこちらに向ける。
私はその手に手のひらを重ねる。
ぱちんという軽い音が鼓膜を揺らした。
美鈴ちゃんはにこりと微笑み、背をむけ歩き出す。
私はその背中を途中まで見送ったが、だんだん小さくなっていく美鈴ちゃんに声を上げた。
「ねーえー!」
「なぁにー?」
「春休み、一回だけでも会ってくれない?」
「もっちろんっ。」
美鈴ちゃんは、いつものように屈託のない笑みを浮かべた。
私はその姿に、大きく手を振った。
暇乞いというとルロイ修道士を思い出します。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)
卒業式後の写真撮影をすっかり忘れるとは、結衣ちゃんかなりドライですね。
そろそろ新しいお話を書き始めないとなーと思ってるんですけど、何を書いたらいいのかいまいち分かってないんですよね。
ちょっと考え中です。短編にしようか連載にしようか…。
そうそう、なんの関係もないのですが、7年前の今日。私氷室八弥ちょっとやらかしまして。
左手の骨2本折っております。
みなさんも事故にはお気をつけくださいね。
ご意見・ご感想、お待ちしてますー




