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図書室の隅っこ

ちょっと不思議な図書室でのお話です。

「図書室の隅っこ」楽しんでいただけたら嬉しいです。


秒針の音が室内に響いている。


10月14日。人類滅亡まで残り169日の午後四時過ぎ。

私は学校の三階に位置する図書室で自習していた。


中間試験が迫っているのも理由の一つだが、9月分の復習の方が大きい。

自分でもどうしてかわからないが、空白のように記憶が曖昧な9月分を取り戻さなくてはならない。



ふと考えてみると、記憶がいまいち定着していない一ヶ月間。

何事もなく登校して、母の面倒も見ていたのだろうか。


(…よくやってたな。私…)


自分で言うのもあれだが、本当に大変だったろうに。



それから30分ぐらい経っただろうか。

本当はもっと勧めるべきなのだろうが、勉強の集中力が全回復するほど、頭の霧が()えたわけじゃない。


私は勉強道具をしまい、図書室内を呆然と徘徊していた。



(読んだことあるようなないような…。)


そんな本ばかりが本棚に並んでいる。

その時、背後から声をかけられた。



「あの、何か探してますか?」



振り向くとそこには、微睡(まどろみ)を擬人化したような、神秘的かつ飽和的なオーラを放つ女子生徒が立っていた。


「あ、いえ。ぶらぶら見てただけで…。」


戸惑いつつも、私はその同級生かも知れない少女に答えた。

少女は値踏みするような視線で私を凝視した後に、「おすすめがあるの。」と言って手招きしてきた。


私は少女の後について歩いていく。




「これなんですけど。」


ある棚の前で止まった少女は、一冊の本を手に取った。

私はその本を見て首を傾げた。


『平家物語』


誰しもが中学校や小学校で触れる物語だ。

内容など説明する必要もあるまい。



「あの、なんでこの本を私に?」


私は本を受け取りながら少女を眺める。

髪は肩につくかつかないかの瀬戸際(せとぎわ)で、肌は白く、制服から覗く腕には青い血管が浮き出ている。



「きっとあなたの役に立つと思って。ぜひ読んでみて、最初だけでも。」



そういって微笑むと、少女は(きびす)を返し、どこかに行ってしまった。

あんな生徒、この学校で見たっけ…?




狐に摘まれた気分で椅子に腰掛け、平家物語を開く。


祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色 盛者必衰の(ことわり)を表す…』


何度も何度も授業で読み返した単語だ。

あの人はなんでこの本を私に勧めたんだろう。



私は漢字だらけの本をペラペラとめくる。


(これ、結局平家滅んで終わるんだよな。)


不思議だ。この本を最後まで見た人は、平家が滅ぶとわかっていて読み進めたことになる。

そんなことになんの意味があるのだろうか。


…最終的にどうなるのかなんて分かりきってるのに、なんでわざわざ読むんだろうな…。


そこまで考えた時、雷に撃ち抜かれたような衝撃が走る。



『最終的に真空崩壊(しんくうほうかい)で死ぬって分かってたのに、なんで私は死ななかった?』



あの子達は「謎現象ではなく自分たちで」と最期を迎えた。

私だって、最初はそうなると思っていた。

なのに私は、断った。


「…どうして…?」


思わず口からそんな言葉が溢れでる。

頭の中がごっちゃになりだし、軽く頭を叩いて整理する。

しかし、いくら考えても理由がわからなかった。



私は勢いよく立ち上がると、図書室の受付に座っている不思議な少女に声をかける。



「あのっ、聞きたいことがあるんですけど…。」

「なんですか?」



全く動じることなく、少女は答える。



「えっと、あなたはこの本を全部読んだんですか?」


私は少女に本の表紙を見せる。

少女は「読みましたよ」と答えた。



「あの、平家が滅ぶって分かって読んでましたよね?どうして…?」


そこまで言うと、少女はにっこりと笑って言った。



「遥か昔にその人たちがいて、どんなふうに生きてたのかとか、本を通してわかるからです。

…それと、その人達の生き様を。最後まで見届けたかったから。かな?」



本を持つ手の力が抜けていく。

私は「ありがとうございます」と言って席に戻った。




「最後まで見届けるため」


その言葉を何度も反芻(はんすう)する。

どうしてもその言葉の中に、()()がある気がした。


(滅ぶとき待ってて、最後まで見届ける…)



そのとき、頭の中の点と線が繋がった気がした。



(死ぬと分かっていても、最期まで見届ける…?)


私たちが来年の3月31日に死ぬことは、世界中の誰もが知っていることだろう。

しかし、人類最後の日は、その日を生きる者にしかわからない。


途中で自ら幕を下ろしたあの子達には、最後の日はわからない。

最後まで見届けず、あの子達は途中で本を閉じたようなものだ。



「途中で投げださず、最期の日まで見届けたかった…?」



そんな言葉が脳裏をよぎる。

断った時、私は最期まで見届けたいと、まだ生きたいと、本能的に願っていた。

だからあんなことを…。


なんとなく腑に落ちた気がする。

私は鞄を持ち、席を立つ。


元あった場所に本を戻すと、受付に立ち寄った。


あの少女は、いつの間にいなくなっていた。




学校を出ると、空が赤く染まっていた。


「途中で本を閉じたりせず、クライマックスまで見届けてあげる。」


私はそう呟くと、帰路についた。



一日、24時間じゃ足りないなって思うことが増えております。氷室八弥です。(読み方:ひむろやや)

図書室の少女、絶対幽霊とか妖とか、そういう類ですよね(笑)

なんとなくイメージ的に。

ご意見・ご感想、お待ちしてますー

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