第六十六杯「凡人高校生は異世界でも余裕で生きられなさそうです」
「先輩先輩、この問題ってどうやって解いたらいいんですか?」
「ああ、この問題はね……」
期末試験前の期間に入ったため、図書室は普段より人が多い。
試験前に勉強するためだ。
図書室のカウンターに並ぶ輝木さんも、数学の問題集とノートとにらめっこしている。
中1の問題集から始まった勉強は、ようやく高1にまで達していた。
「頑張ってるみたいだね」
「そりゃまあ、夏休みに補習になるのはイヤですし。会長先輩に『せっかく勉強を見てあげたのに、こんな点数しか取れないのね。子猫ちゃん』とか言われたくないですし」
寧音姉への対抗意識からか、勉強を頑張れているようだ。
相性の悪い寧音姉より、僕が勉強を見た方がいいんじゃないかと思ったけど、こうなる事を見越していたのだろうか。
まあ何にせよやる気になっているのはいい事だ。
「それに赤点取らなかったらご褒美に先輩と莉子先輩と3人でデートするって約束もしてますしー」
「え? そんな約束してたっけ?」
「しましたよー。商店街の和菓子屋さんでおはぎ食べに行くって言ったじゃないですかー」
「アハハ、冗談冗談。覚えてるって」
ちゃんと瀬川さんにも話したし、覚えている。
それにしても瀬川さんとデートか……
前回の苦い思い出が蘇る。
どっちもぼっちなせいか、お互い黙り込んでしまって沈黙の時間が続いた苦い思い出が。
でも今回は輝木さんがいる。会話が止まって困るという事はないだろう。
その輝木さんがひとつ問題を解き終えたようで、背もたれにもたれてウーンと伸びをする。
「あー、早く試験終わってラノベ読みたいですー。まあ学年7位の先輩は試験前でも超余裕でラノベ読んでるでしょうけどー」
「いや読んでないよ。ちゃんと試験勉強してるって」
輝木さんの言葉を即否定する。
今だって英語の参考書を読んでるし、ここ最近はずっとラノベを読んでない。
「息抜きに1冊だけって思っても、止まらなくなっちゃうしね」
「デスヨネー。ラノベって1冊読み始めたら止まらなくなっちゃいますよねー」
同じ経験があるらしく、輝木さんが完全同意する。
ちなみに輝木さん家のラノベは、現在全て寧音姉の部屋に没収されていて、図書室や図書館で借りる事も禁止されている。
「期末試験終わったら何読みたい?」
「まずは1巻だけ読んだ『の○りん』ですかねー? それから『クラスで○番目に可愛い女の事友達になった』と、『お隣の天○様に気づけばダメ人間にされていた件』も読みたいですー。先輩は?」
「そうだな……。『○人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』かな」
さっき「超余裕」と聞いてしまったので、あるラノベを思い出してタイトルを言う。
そういえば久しく読んでない。
輝木さんが、この作品は知らなかったらしくスマホで検索して何やらうなづく。
「ほほう、転移系の異世界モノですかー。くノ一の子が可愛いですねー」
「ああ、猿○忍ちゃんね。僕もその子が推しだよ」
「結衣菜も読んでみたいですー。ところで先輩は異世界転生とか異世界転移したいって思いますかー?」
「いや、全然、まったく、さっぱり」
「なんでですかー?」
「普通に死にそうだし、大体の登場人物は超ひどい目とか超痛い目にあってるし」
「デスヨネー」
大体の主人公や登場人物が死にそうな目に遭ったりしてるので、自分が異世界に行くのはゴメン被りたい。
「結衣菜、可愛いから人攫いに捕まって奴隷として売り飛ばされそうですー。せんぱーい、助けてくださーい」
「頑張って、僕は君を見捨てて伸び伸び生きる」
「先輩のはくじょーものー」
僕の腰を輝木さんが指でツンツンつつく。
それからハーッと息を吐いた。
「その点会長先輩とか上手く生き残りそーですよねー。自分は動かずに異世界でも味方つくってー」
「あー、そんな感じだよねー」
それは何か想像できる。
異世界の権力者に取り込んで、上手い事生きていきそうだ。
「莉子先輩も何だかんだ上手く生きていきそーですよねー。王子様に見初められて玉の輿に乗りそうですー」
「あー、そんな感じだよね……」
瀬川さんは、異世界でもたくましく頑張って、嫌がらせやいびりにもめげずに最終的に王子様に見初められて幸せを掴みそうだ。
……ただそうなった時に素直に祝福できる自信は、今の僕にはない。
そうなるのは、多分イヤだと思うと思う。
「板野先輩は……どうですかね?」
「普通に淡々と順応しそうじゃない?」
輝木さんに問われて答える。
一番想像つかないけど、何か普通に生きそうだ。
「ああそうですか」とか言って、淡々と生活しそうな気がする。
「それにしても、なんで異世界モノってこんなにいっぱい出てるんですかねー?」
「うーん、やっぱ現実に疲れた僕達が夢見たいからじゃない?」
異世界に行って成り上がって俺TUEEEE!したり、モテモテになったり、王子様に見初められたりしたいという読者の需要があるから、異世界モノはたくさん出てるし、長く愛されるジャンルになっていると思う。
「現実に疲れた、ですかー……確かにテスト勉強はしたくないですねー。結衣菜、テストのない異世界に行きたいですー」
「多分ないと思うよ。勉強頑張ろう」
「はーい。結衣菜、ベンキョーダーイスキ……」
僕達は、そんな下らない話をしてから再び勉強へ戻った。




