転生少女の始まり
【転生】、それが生易しいものではないことをエレンは生まれて間もなく理解した。
この世界【ノルス】に再誕した神子はエレンと名付けられた。
前世の記憶を所持するエレンは、即座にノルスを切り捨てた。
失望ではない。
期待など端からしていない。
【ノルス】に意味を見出す価値がなかった、ただそれだけだ。
孤児院の中で雑多に詰め込まれたエレンはノルスを良く研究した。
前世との相違点を探し、より自分の益となる情報を収集した。
日常的に暴力を振るう職員には既に麻痺していた年長者らを上手く動かし、組み敷く耐性が出来上がった。
戦争の噂が流れたのはエレンが四歳の時だ。
治安が悪化の一途をたどる町を観察し、エレンは敗北を悟った。
小国で特段誇る輸出物もない。
王位継承で無駄な争いを起こした愚物が治める国では強大な領土と恵まれた土壌を誇る隣国には到底敵わないと。
それが現実で証明されたのは三か月後のことだ。
敵兵が王都を襲撃するための前準備として襲撃した。
町人の多くが武器を持てど訓練された歴然の兵士に敵うはずもなく二日も経てば見知った顔の遺体で道は赤に染められていた。
その中にはよく面倒を見てもらった同じ孤児の顔があったが、目は限界まで開かれ苦しみ悶える表情には醜さしか感じ取れなかった。
結果として町は抵抗虚しく戦果に呑まれ、占領されてしまったわけだ。
あらかじめ念入りに逃走経路を準備していたため占拠された町での脱出も容易であった。
戦争孤児が溢れかえるこの時代、新たな受け入れ先など無いことは分かりきっていたため暫くは隣国の森に居座ることにした。
夜間は野生の獣に襲われる可能性が高いが水源と食物さえ確保すれば生活基準はあまり下がらないと納得したからだ。
その点スラムに降りるのは森にすむより死亡率が高い。
機嫌が悪いわけでもないのに邪魔だからと躊躇いなく殺すイかれた野郎の集まりに態々飛び込む馬鹿ではない。
【ノルス】は前世で言う科学と魔法を混合した世界。
この年まで知識を貯め込むだけ貯め込んだ。あとは実戦を繰り返せばある程度の使い物にはなるだろう。
昼間動物の集まる水源を発見し、仕留めた兎や鳥などを解体する。
解体後は干し肉とし常備できるように縄に括りつければ完全非常食の完成だ。
夜動物を避けるために五感が鋭くなり罠の種類も増える。
ここでは生きるか死ぬか。
それ以外の余計なことをしないで良い分成長速度は段違いである。
二年の時を経て、完全な睡眠を脱却し行動時間が伸びた。
狼や猪なども罠アリで簡単に仕留めることができるようになり、毒の耐性も実験を度重ね高まった。
一つ厄介なことは成長痛が始まったことだ。
今までの感覚が使い物にならなくなり罠に頼ることが多くなった。
しかし体格が出来上がるのは良いことでさらに大型の動物と張り合うためには仕方なかった。
ほんの少しの不満を抱えつつ、エレンは罠の点検に出掛ける。