懐かしい場所
「ギルベルト、
今度の接待用にスーツを
一式あつらえよう」
ユリウスはそう言って従者へ目的地を伝えた。
「その間に、ティアはオッドと
こちらを見ていてくれるかい?」
ユリウスに渡されたメモには、ベイリー様の滞在に向けて
必要なものが一覧で記されていた。
必要なものといっても、ほとんどは侍女達が用意を済ませている。ティアナが受け取ったメモは、侍女達が選んだ衣料品類のリストアップだった。
通常であれば侍女に一任できるが、今回は相手が他国の王族である。お店で実物を確認し、最終決定をしてほしいという意味だろう。
「わかりました」
ティアナが返事を返すと、ユリウスはオッドに視線を向けた。オッドはしぶしぶ同意を示した。
馬車は護衛を連れたユリウスとギルを降ろすと、
衣料品店へ向けて出発した。
◇◇◇
「はぁーーー」
ユリウスが降りた後、オッドは長いため息を吐いた。
「・・・」
しかし、ティアナはそれを咎めなかった。
「・・ここで降ろして」
オッドは御者にそう伝えると、
「少し歩こうか〜」
ティアナを連れて馬車を降りた。
「・・・」
ティアナは横目でオッドを盗みみるが、
オッドは気にする様子もなく街路路を進んでいく。
(こんな所にお店が?)
オッドが進む道はどんどんと騒がしい雰囲気に代わり、威勢の良い声がゆきかっている。そこは賑やかなお店が建ち並ぶ活気のある商店街で、他国の王族に用意するような高級衣料品店があるとはとてもではないが思えなかった。
(一体、どこに向かっているんだろう?)
そう思っていた矢先、
オッドはピタリと足を止めた。
「・・ここ、覚えてる?」
「え?ここって・・」
ティアナは、活気のあるその場所を見渡した。
(このお店、どこかで・・?)
どこか見覚えのあるそのお店を見ていると、
中から年配の男性が顔を覗かせた。
「あ!」
ティアナは年老いたその人をよく覚えていた。
それはまだ前世を思い出す前。オッドを殴り飛ばしたその畏怖を幼いながらにも記憶していた。
「俺たちが出会った場所」
そう。あの日、私達は出会った。
茶色の毛に琥珀色の瞳。
テディベアに似たその少年を、私は強く欲したのだ。
「懐かしい・・」
幼い頃、怖い思いをした私は、
あれからこの場所に来るのを避けていた。
「今も怖い?」
十数年ぶりに訪れた変わらないその街に、
恐れる気持ちはもうなかった。
「何年も前よ?」
「そ?」
あれからこの場所を避けるようになった事を、
オッドは気にしていたのだろうか?
「あ、あのパン。
あのスムージー。
お父様と飲んだなぁ」
変わらない様子に懐かしくなり
ティアナは瞳を輝かせた。
「ん〜
なら、行こうか」
「え?」
オッドは返答も待たずに、
「ほら、ほら」
ティアナの背中を押しながらパン屋へと向かった。




