アーシュタワー 1
ルキアとカイトが無事に壁を乗り越えたことを確認すると
カゲは刀を構えなおした。
ざっと見積もっただけでも数百のカマキリが取り囲んでいる。
その奥から轟音が鳴り響き、一台の戦車が煙をあげて向かってきた。
「カゲよ。再び会えて光栄だ」戦車の上に、鈍色の甲殻を持つ、
ひと際大きなカマキリが月光りに照らされていた。
「主か」カゲが応えた。
「奴を捕らえよ。今こそ我ら地底の民が地上を征服する時だ」
無数のカマキリがカゲに飛びかかったが、同時にすさまじい速さで
切り捨てられていく。
カゲは左右に飛びながら、カマキリたちの胴を首を薙ぎ払っていった。
どうにかして主までたどりつけば勝機はある。
そう考えると同時にカゲの背中に強い衝撃が走った。
(なんだ、今のは?)
確認しようと振り向こうとするが身体がいうことを聞かない。
剣のつかを握ろうと伸ばした指がピクリとも動かず、
カゲは膝から崩れ落ちた。
(俺は死ぬのか?)あまりのあっけなさに恐怖ではなく驚きの感情が
湧き上がってきたかと思うと、視界が闇に閉ざされた。
「さすがドクター・アーシュだ。数百年前の遺物をよみがえらせるとはな」
遠くからぼやけた声が聞こえた。
腕を動かそうとして、カゲは身体の感覚が消えていることに気づいた。
(ここは、どこだ?)
「大昔の飛び道具だろう?麻酔銃と呼ぶらしい。
主に大型の動物を捕縛するために使われていた」
「大型の動物!死神は動物か」
「熊と闘ったらしいからな」
嘲るような笑い声が聞こえた。
「しっかり縛りつけろ。廊下から主様の声がする」
何者かが自分の周りをうろついて大急ぎで作業をしている。
うっすら目を開けると、兵士たちがカゲの手足を寝台にくくりつけている様子が見えた。




