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二章~4話 身体能力の把握

用語説明w

ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。ラーズに導入されているが、現在は停止措置を施されている


ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた


運動場



ヘルマンに訓練をお願いした


「ヘルマン、組手をお願いしていいですか?」


「ああ、構わないがどうしたんだ? 焦ってるじゃないか」


「…体がおかしいんです」


前回の、俺達が初めて参加した選別


感覚が鋭くなっていて戸惑った

そして、俺は蹴りで敵の首を叩き折ってしまった


感覚と身体能力が上がっている

だが、俺の経験上の能力と()()()()()

制御できない力は危険だ


例えば、市街地で殺されそうになって逃げるとする

目の前には、レースで使うF1のスポーツカーと軽自動車

どちらを使うか?


答は軽自動車だ

焦っている心理状態で、素人がF1カーに乗ったとしても、スピードが制御できずにビルに突っ込んで終わりだ


力を制御する、それは力を引き出すための前提条件だ

動きを阻害させない、その上で必要な時、つまり攻撃の瞬間などに変異体の筋力を上乗せできれば理想だろう



「なるほどな。それなら、おすすめの鍛錬方法が二つある」


「おすすめ?」


ヘルマンが頷く


「一つは、ひたすらシャドーを繰り返す。自分の体の動きは自分で動かし続けて把握するしかない」


「…確かに」


「そして、もう一つがこれだ」

ヘルマンが腰を少し下げて右手を俺に差し出す


「俺の右手の甲にラーズの右手の甲をつけろ」


「こうですか?」


向かい合って、お互いに右手を出して手の甲をつけている状態だ


「これは推手(すいしゅ)と言って、手の甲をつけたまま相手の動きを感じる練習だ」


そう言って、ヘルマンが一歩踏み込みながら俺の右腕ごと俺の体を押し出した


「あっ…」


「お前は、接触している右腕で相手の勢いをいなしながら逆に押し出しを狙う。お互いに、相手の動きを右手の接触点から読み取る。この相手を感じる能力を聴勁というんだ」


「聴勁…」


「初心者は自分のしたいことを一番に考える、上級者は相手のしたいことを予想する。推手は、自分と相手の動きを俯瞰して見られる思考練習でもある」


「なるほど」


「それに俺達は、完成変異体となって感覚の感度が数倍に上がっている。この感覚を使いこなすのにもってこいの練習だ」

そう言って、ヘルマンが布を俺に差し出した


「…目隠しですか?」


「視覚以外の感覚を鍛える。暗闇での戦闘などで必要な能力だ」



俺達は、互いに目隠しをして右手の甲を合わせる


推手


確かに目を閉じると分かる


右手から、その先のヘルマンの体の動きが分かる気がする


それどころか、右手のわずかな動きでヘルマンが何をしようとしているのか、何を狙っているのかが伝わってくる気がする



だが…


「うわっ…!」


「おぉっ!?」


「あっ!!」


ヘルマンの、ゆったりとしているのに的確な動きで、簡単に俺の体が崩される

何回も押し出され、倒された



「ふぅー…、疲れた」

慣れない練習で突かれた


「ラーズ、視覚を閉ざすことに慣れてないか? 普通は、最初からこんなにうまくできないぞ?」


「ああ、軍隊時代に、訓練の一環で視覚を潰されて山の中に捨てられたことがあったんですよ。その経験で、視覚がなくても少しなら動けます」


「…お前の軍隊って、大丈夫だったのか?」



俺の軍時代の先生


元暗殺者で、とんでもない訓練を課してくれた

思い返すと、何回死にかけたのか覚えていないくらいだ


…だが、あの人のおかげで今の俺があることは間違いない

打算と覚悟、勇気、生きる上で大切な物を俺に教えてくれた人だ



「よし、次はお前の動きを見てやるよ。少しシャドーをしてみろ」


「はい、お願いします」


俺は、軍に入る前の大学時代から格闘技を習ってきた

だから、徒手格闘には少しだけ自信をもっていたりする


モンスターや、兵器である銃や杖を持った相手にはさすがに使えないが、それでもこの技術は俺を何度も助けてくれた

何より、格闘技を習ったおかげで予想以上に心を鍛え上げられていたんだ


俺は、アップライトに構えてシャドーを始める



パンチ、キック


ワンツー、アッパー


膝、肘…



だが…


「ぐっ…!?」



体が流れる


パンチやキックに予想以上の力が加わる

思ったより力が乗ってしまう、その感覚でバランスを崩してしまうのだ



「…お前、トラウマと折り合いをつけてから急激に身体能力が上がったな」

ヘルマンが俺の動きを見ながら言う


「やっぱりそうですかね? 自分の体じゃないみたいです…」


「お前のスタイルを変えることになるが、もっと腰を落としてみたらどうだ?」


「腰ですか?」


俺は、膝を曲げて腰を落とす

武術的な構えだ


「フットワークは取りにくくなるが、両足で地面を受け止められる。一つ一つの動作を大地で支えてみろ」


「はい」



パンチ、キック


体幹を下半身で受け止め、地面との摩擦で止める

バランスを取りながら、地面からの反発力も攻撃に上乗せする



「しばらくはフットワークを封印し、後の先に徹した方がいい。攻撃を見た瞬間に動き出しても、いまのラーズの瞬発力ならカウンターを取れるはずだ」


「確かに、バランスを崩しながら攻撃するより、後の先でバランスを崩さない攻撃の方がリスクは少ないかも…」


この感覚には覚えがある


自分の体重が変わらないのに、筋力が跳ね上がった状態だ

身体強化魔法や、軍時代に使っていたナノマシンシステムで身体強化能力を使った時だ


パンチの反力で自分の体が押し戻される

体重が変わらないのに反力が上がればバランスを崩すのは当たり前だ

重心を下げて、大地で反力を受け止める武術的な下半身の使い方が必要になるのだ



しばらく、運動場のサンドバッグに打撃を繰り出して、俺は自分の身体能力を確かめる

反復動作を繰り返した




………




……







「ヘルマン、付き合ってもらってありがとうございました」


「いいさ。今日でかなり掴んだみたいだな」


ヘルマンは、運動場でいろいろな武器を試していた

太刀、槍、斧、投げナイフ、ハンマー、フレイル


ジャマハダルの他にも武器を使うのか


俺も、完成変異体の身体能力に慣れたら武器を選ばないとな


俺は素手での格闘術を習ってきたが、やはり武器を持った人間の方が強い

武器の優位性は明らかだ



「よし、今日はそろそろ終わるか。あまり体力を使いすぎても、選別が始まった時に危険だからな」


「そうですね」


俺達はタオルで汗を拭き、シャワー室に向かう


「…ヘルマン。今更ですけど、何で俺なんかにこんなに良くしてくれんですか?」


「ん?」


「悔しいですけど、ヘルマンの実力は俺なんかより圧倒的に上です。教えてくれるのはありがたいんですけど、何でかなって…」


「ラースの格闘術はかなりの腕だぞ? それに、多少の暗殺技術も齧ってるだろ。ちょっと惜しくてな」


「惜しい?」


「武術的な動きと格闘術の動きが上手く融合していないんだ。頭の中で体系化できれば、お前は化けると思ったんだ」


「え、あ、ありがとうございます」

ヘルマンに褒められて、ちょっと焦ってしまった


「そんなお前を見ていると、ちょっと手を貸してやりたくなったんだ。それに…」


「それに?」


「いずれ、お前に頼みたいことができるかもしれない。だから、恩を売っておきたくてな」

ヘルマンがニヤリと笑う


「ははっ、お返しできるように頑張りますよ」



生き残る


俺は生き残っていいのか


俺だけが生き残った価値があるのか


自分の価値が欲しい

まずは、ここの選別を生き残れる実力をつける



俺達は、シャワー室に向かった



明日は閑話です

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 閑話はフィーナとか、かな? [一言] 化けるとかワクワクするじゃん‼︎
[気になる点] へ、ヘルマンが特大の死亡フラグ建設してる…
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