二章~3話 異性
用語説明w
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
エスパータイプ:脳力に特化した変異体。サイキック能力とテレパスを含めた感覚器が発達し、脳を巨大化させるため額から上の頭骨が常人より伸びる
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性
食堂
選別を終えたばかりだが、食べられるうちに食事をとっておく
次に、いつ選別が始まるか分からないからだ
ちなみに、ヘルマンは診療室に呼ばれて行ってしまった
定期健診らしい
周りを見ると、五人ほどの被験体がいた
ギガント、エスパー、ドラゴンタイプ
こいつら全員が完成変異体か
百万分の一の確率がこんなに…、俺もだけど
各国が涎を垂らして欲しがる人材達だ
そして、ステージ2には新しい光景
被験体に女がいる!
強制進化を促進するために、被験体の性欲を抑制させていたステージ1は男女が完全に分けられていた
だから、しばらく女というものに接していなかった
ダメだ、つい女を目で追ってしまう
俺は視線を無理やり食事に戻す
すると、男女二人の変異体が食堂に入って来た
「よぉ、新入りかい?」
「新しくステージ2に来た人でしょ」
ドラゴンタイプで魔族の男、エスパータイプでノーマンの女だ
「ああ、うん。昨日、ステージ2に上がってきたんだ」
それを聞いて二人が顔を見合わせる
「え? じゃあ、今朝の選別は初めて参加したの?」
「ああ、初参加だった」
「へー、初戦でかなりの人数が死ぬんだ。生き残れてよかったな」
「…」
確かに初戦は危なかった
ヘルマンに言われて武器を用意していたから良かったが、素手だったら殺されていたかもしれない
改めて、背筋が冷たくなる
戦場と同じだ、準備が生死を分けるんだ
「…ねぇ。あなたの目、きれいな青色ね」
エスパーの女が、俺の目を覗き込む
女性が近い
女性の臭いがする
妙にドキドキしてしまう
俺は変態か?
「左右の目の色が少し違うのね」
エスパー女が、俺の左右の目を見比べる
だから近いって!
…確かに、俺の両目は左右で微妙に違う青色だ
左目は色が少し濃くなっている
この目は「竜眼」と呼ばれる色で、ちょっとレアな色だ
だが、ちょっと珍しい色ってだけで、特に特殊能力があるわけではない
「俺はガマル、こいつはタルヤ、よろしくな」
「俺はラーズ。よろしく」
ステージ2の選別は、ステージ1と違って被検体同士で力を合わせることができる
その分、ステージ1よりもお互いに仲良くなるのかもしれない
「ラーズはもう診療室にいったのか?」
ガマルがニヤリと笑う
「え? いや、今回の選別では怪我をしなかったから行ってないよ」
「ここの診療室は怪我の治療の他に、心の治療もしてくれるんだ」
「心の治療?」
「いつ始まるか分からない選別。そして、いつ襲われるのか分からない殺し合いの時間。精神がまいってきちゃうの。だから、心のケアも必要になるわ」
タルヤが流し目をする
エスパータイプは、額から上が常人より少し長い
だから顔の印象がかなり変わる…、と思っていた
だが、タルヤは髪を伸ばして上で纏めており、常人との違和感があまりない
つまり、女性から離れていた俺の目にとても魅力的に映っている
「…カウンセリングでもしてくれるってこと?」
「そうよ。本格的なカウンセリング、そして性的なカウンセリングね」
「…」
被検体は、ステージ1においては性欲を抑制する成分が入った食事をとらされていた
これは、性的な欲求を満たすことによる精神の満足感を防止するためだ
ステージ1の目的は、被検体の強制進化の促進
強制進化には、殺されたくない、変わりたいという生存本能、現状への不満やストレスが必要であり、精神的な満足感を与えないために性欲を抑制していたのだ
だが、強制進化が終わったステージ2においては、強烈な精神的ストレスに耐えるために、ステージ1とは逆に精神的な満足感を与えられる
主に食事、そして異性だ
診療室においては、被検体の多種多様な趣味に合わせた相手が用意されている
カウンセラーが心と体のケアを
そして、プロの女性と男性が、男女はもちろん、女同士や男同士も…
早い話が、診療室はナースさん達に性欲をぶつけていいという部屋なのだ
当然、男も女も選別が終われば診療室に入り浸る
そして、その欲求の発散は精神の均衡を保つのに多大な貢献をしているらしい
「ステージ2に上がってしばらく経つと、自分でも焦るくらいムラムラ来るはずだ。そうしたら行ってみたらいいぜ。あらかじめ、予約表を貰うんだぞ」
ガマルが言う
「その前に、私と仲良くしましょうよ」
タルヤが俺の肩に手をかける
「え?」
「ステージ2は、被検体同士の恋愛もオッケー。誰でも口説いていいのよ?」
「…っ!?」
クレオが言っていたが、ステージ1と待遇がえらい違うな
だが、殺し合いをさせられることは変わらない
「…もしかしてゲイ? それとも、ロリコンとかそういう趣味?」
「いや、違うけど!?」
「じゃあ、私はどう? 一緒に気持ちよくなりましょう、ここには他に楽しみなんかないし」
「ちょ、初対面でいきなりだし…、ちょっと待って…!」
「病気とか心配してるの? 私達、完成変異体は性病になんか感染しないから大丈夫よ」
「え?」
性病とは、主に性交渉によって感染する
クラミジア、淋病、HIV、梅毒、肝炎などが有名だ
感染した場合は、細菌やウイルスを殺す抗生物質や魔属性治療を行わないと治療ができない
だが、完成変異体の高い免疫では、これらの細菌、ウイルスに感染しないことが分かっている
「性病にかからない…!?」
「完成変異体は、劣悪な環境下での長期活動を想定しているからな。生命力とタフさに関してはBランクにも負けない性能だ。性病なんか目じゃないぜ」
ガマルがちょっと得意気に言う
「私は、お肌が少し硬くなったのが不満だけどね…。だから安心してエッチしましょう?」
そして、タルヤが俺にしな垂れかかってくる
完成変異体の皮膚はある程度の耐刃性能を持っており、皮膚が割けたり切れたりがしにくくなっている
小さな傷から感染症を引き起こすことの防止、虫さされなどを減らすための変化だ
その分、弾力はあるが少し硬く感じる皮膚となった
「いや、何でそうなるの!? ちょっ、待て、脱ぐなって!」
「タルヤ、落ち着けって。ラーズはここに来たばかりでまだ性欲が戻ってないんだろ」
ガマルがタルヤを止める
「えー…?」
タルヤが不満気に俺から離れる
「タルヤはセックス依存症なんだ。ここでの死のストレスで少し壊れちまってな」
ガマルが自分の頭を指す
「…っ!?」
「ここでは、男でも女でもどんどん死んでいく。ステージ3に上がれるのは一握りだ。さっきまで話していた被検体が、選別後に肉にされて出荷されていくんだ。残れるのはまともな精神の奴じゃない」
「…」
「じゃあ、私は診療室に行ってくるわ。ラーズ、やりたくなったらいつでも声をかけてね!」
タルヤが、立ち上がる
「俺も行くよ。じゃ、またな、ラーズ」
ガマルも立ち上がる
そう言って、二人は行ってしまった
俺は部屋に戻る
ステージ2は、ステージ1とはかなり雰囲気が違って戸惑った
タルヤ…
女性…
触りたい、抱きしめられたい
だが、こんなところで欲求を解消している暇はない
俺は満足してはいけない
俺の目標はこの施設を出る事ではない
完成変異体として、戦える力を得ることだからだ
記憶の整理ができて、俺の視界が変わった
心の中に向いていた意識を前に向けられている
目標が明確になった
神らしきものの教団を潰す、その為の力を得る
…ちょうどいい
この施設を利用して、俺は強くなる
心の片隅で、セフィ姉やフィーナの顔が浮かぶ
…会いたい
この願いを糧に、生き抜いてやる




