08 そういえばいたね
「おす、愛忌ちん。どうだった~?」
「……渡良瀬くんが来たということは、もう深夜になったということ。……つまり、時間差で寝ることに意味はなかったと言うことになる」
六斎堂愛忌は、渡良瀬愛依が来る前からも、ずっと人造人間と二人でこの教室にいたようだ。
渡良瀬愛依が来たことが分かり、六斎堂愛忌は友達を退場させた。
「……そっか~……。これはいよいよ、ヤバい気がしてきたね~……」
「……このままでは死の危険がある。限界を超えたら、僕たちは起きることもできず、永遠に夢の中に閉じ込められてしまう可能性もゼロとは言えない」
大脳が起き続けてしまうことによる脳へのダメージは大きい。
鬱病やアルツハイマーの原因でもある。
六斎堂愛忌の言うように、この現象は緊急に対処しなければならない問題だ。
「……そもそも、なんで愛忌ちんと俺の夢は繋がったんだろう……?」
「それについては、さっきまで考えていた」
六斎堂愛忌は、渡良瀬愛依が来るまでに練り上げた持論を展開する。
「まず、お互いに明晰夢を見るという共通点。これは確実に原因の一つだが、他にも原因がある可能性が高い」
「なんで~?」
「僕たちは中学三年で明晰夢を見るようになっている。すなわち、そのタイミングで夢が繋がっていないとおかしい」
「なるほど、さすが愛忌ちん、鋭い」
「……よ、余計な合いの手は必要ない。……コホン、第二の原因として、同じ学校に入学したこと。この二つの要因が重なったことが何か関係していると考えるのが妥当。更に」
「…………」
「…………?」
「……いや、合いの手は必要ないって、愛忌ちんが」
「僕が言ったのは、余計な合いの手のこと。合いの手は欲しい」
面倒な奴である。
「あ、そうなの……。で、更に、何?」
「夢東京という言葉を聞いたことがある」
「夢……東京?」
「そう。明晰夢を見る人間たちが、夢の世界で落ち合うオフ会というものがあると聞く。東京の名所を集合場所にするのが慣例で、彼らは夢の世界の東京を夢東京と呼んでいた」
「……つまり、俺達以外にも、夢の世界が繋がっている人達がいるってこと~……?」
「真偽は不明。インターネットの最下層の部分で盛り上がりを見せていただけ。オカルト色が強く参加しようとは思わなかったけど、今考えるとあながちオカルトとも言えなかったのかもしれない。……ただ」
「ただ?」
「夢東京とここは同じ世界では無いかもしれない。そうでないと、同じ学校に入学した、という前提が崩れる」
六斎堂愛忌は淡々と説明する。
渡良瀬愛依は感心する。
明晰夢を見る、同じ学校に入学する、という要素だけでは今ひとつだった論に、夢東京という存在の情報は大きな補足材料となった。
「……よくわかんないけど、一歩前進ってことでいいよね~?」
「まだ納得するのは早い。原因が分かっても、対策が何も……。何か、他に――」
それっきり、六斎堂愛忌は黙ってしまった。
渡良瀬愛依も考える。
この問題を解決に導く要因。
入学式以前と、入学式以後。
この差は何なのか。
差があるなら、そこにヒントがあるに違いない。
「……前までは、明晰夢に入ったときに立ってるところは、家の中とか公園とか、結構バラバラだったんだけど~……」
「……それはあくまで結果の話。夢の開始場所が決まっていることについてはあまり重要な問題とは言えない。……ただ、教室……学校という場所が、何か関係しているとは思う」
「……なんで学校なんだろ? 学校なんて、愛忌ちんと話したくらいしか、思い出とかないけどな~」
二人は再び閉口する。
入学ホヤホヤの学生というだけではなく、この二人は、学校という枠内での社会生活に全く適合していない。
そんな二人がどうして、わざわざ学校の教室に立ってしまうのか。
他のクラスメイトは他のクラスメイトで、渡良瀬愛依と六斎堂愛忌抜きの夢の世界にいる可能性もゼロではないが、あの元気な教室から察するにそれは考え難いだろう。
「僕も、渡良瀬くん以外では、職員室で、お母さんが書いた書類に不備があったことで先生に呼び出された以外に、……誰とも会話をしていいない」
「う~ん……。俺も正直、先生に怒られた以外にはもう、誰とも……」
哀しい話である。
「…………あ」
「……?」
「……先生、いたじゃん」
「先生はどの学校にもいる」
「そうじゃなくて……。夢に」
「……あっ」
「俺達が、始めて夢の中で会ったとき、俺達より前に、教室にいたじゃ~~ん!」
「……た、確かに……!」
渡良瀬愛依、大手柄。
もしもあの時、夢の世界で二人を待ち受けていた担任の女教師が、二人と同じように現実とリンクしていたとしたら。
あの日以来顔を見せないことからも、この永続する明晰夢を抜け出す策が見つかるかもしれない。
「……と、とりあえず、先生に、明晰夢を見ているのか確かめる必要がある。たまたま夢の中の一要素として登場した可能性だって大きい」
「ま、まあそうだよね……。う~ん、どうやって聞いたらいいんだろう……」
「? 夢の中でキスをしたのを覚えていますか、と直接聞けばいい」
「いや、だめっしょ、愛忌ちん……」
六斎堂愛忌は、何が悪いのか分からない、という顔をしてきょとんとしている。
渡良瀬愛依はここで相談するのをやめた。
「……もし、あの先生も本物の先生だったら、結構ヤバいかも~……」
六斎堂愛忌に対する横暴な行為に関しては、彼の温情により許されたが、相手が教師となると話は変わってくる。
夢の中だろうが何だろうが、"退学処理"という職権を乱用することも考えられる。
「ね、ねえ愛忌ちん……。か、代わりにさ、先生に聞いてくれない? キスのことは言わない感じで……」
「? 別に構わない。任せてほしい」
六斎堂愛忌はあっさり快諾する。
会話は下手だが、会話をすることについては嫌いではないようだ。
不安が残る渡良瀬愛依だったが、いくつかの作戦会議を行ったあと、二人は夢から覚めていった。




