07 睡眠負債
「……ねむ」
あれから数日が経った。
毎日明晰夢を見ては、二人は各々で時間を潰したり、他愛もない遊びに興じるのみで、特に新鮮味も薄れ、若干の飽きが来ていた。 同時に、日中の倦怠感は増すばかりで、着実に睡眠負債は溜まっているのを渡良瀬愛依は実感していた。
「……一時間目までおやすみっしょ~……」
教室につくなり渡良瀬愛依は眠る。
既に渡良瀬愛依に話しかける生徒はこのクラスには存在しない。
そのため、誰にも邪魔されず、うとうととした心地よい感覚が渡良瀬愛依を襲う。
「……んっ」
しかし、突如、ちょんちょんと何かにつむじをつつかれる感触がした。
「ちょ、つむじ押したらハゲるって……」
「あ、ご、ごめんなさ……。か、髪型、崩したら、わ、悪いと思って……」
犯人は六斎堂愛忌だった。
なんと、六斎堂愛忌から声をかけてくるとは。
はじめて飼い犬がおすわりを覚えた時の達成感にも近い、高揚感、快感。
渡良瀬愛依の脳には脳内麻薬が大量に分泌され、天にも登る気持ちになっていた。
単純な男である。
「………………はっ。な、何? 愛忌ちん。どうかしたの」
「……ね……ね、寝不足」
「? 寝不足? まあ、結構寝不足だね~……。今も眠くてさぁ」
「あ、ち、違う。……いや、そ、そうかもしれないけど」
六斎堂愛忌はオドオドとどもりながら訴えかける。
「……ぼ、僕が、寝不足、で、倒れそう」
そう囁いた瞬間、六斎堂愛忌は膝から崩れ落ちる。
あわてて身体を支えた渡良瀬愛依は、六斎堂愛忌の顔を見てぎょっとする。
顔色蒼白で、正常に血が通っているとは思えない。
腕や頬を触っても、体温は低く、寝不足による影響が如実に現れていた。
「……とりあえず、今日は保健室で寝たほうがいいっしょ……。俺も行くから」
六斎堂愛忌は、渡良瀬愛依の腕の中でわずかに頷く。
「愛忌ちんは、いつもは何時に寝てるんだっけ?」
「……九時半で、六時に起きる」
「俺と同じじゃ~ん……。なんでそんなに早いのさ」
「友達、いなくて、することが、なくて」
「……俺と同じじゃ~ん……」
二人は、お肌のゴールデンタイムである夜十時から深夜二時を遵守するためでもなく、朝型だからというわけでもなく、単純に暇だから早く寝る。
さすが、夢の中に居場所を求めるだけのことはある。
「……とりあえず、寝る時間ずらしてみよっか。俺、今日は深夜の一時頃に寝るから、先に寝てみて」
「……い、いいの? 渡良瀬くんは、寝不足とか」
「……俺はまだ余裕あるし、全然気にすることないよ~」
渡良瀬愛依は明るく笑う。
本当はそれなりに疲れている。
「ご、ごめんなさい、気を使ってくれて……」
「大丈夫大丈夫、もともとショートスリーパーだし」
本当は超ロングスリーパーである。
こういうところは良い男だ。
六斎堂愛忌は少し申し訳なさそうにしているが、かといって大丈夫とも言える状態でもないので、結果として渡良瀬愛依の言葉に甘える形となった。
「……愛忌ちん、今日は保健室で寝てる?」
「……いや、よ、夜寝るから大丈夫……。今寝たら、なんだか、わ、渡良瀬くんに申し訳ない気もする」
今寝るなら、夜寝る時間をずらす必要が無くなるということだろうが、それなら今寝てしまって、夜は渡良瀬愛依に先に寝てもらえば良いだけだ。
しかし、時にそういう正論は、空気の読めないお節介になる。
今は、お互いがお互いを思いやる空気を大事にするのを優先する場面だった。
「……そっか~。まあ、無理はしないでね」
「? い、いや、無理はしてるけど……?」
「…………あ~、うん」
六斎堂愛忌には、そういった配慮は不要だったのかもしれない。




