エピローグ
「礼は言わないからな」
そうルクスはその者たちに告げた。
「いらないわよ。そんなの」
灰色のローブを着てミレイユはメイドのメアを伴ってそれに答える。
ここはルクスたち以外誰もいない魔王城の一室。開け放たれた扉から広いバルコニーが見え、一緒に見える外の景色からここが高い階にあることが窺える。
「別に礼が欲しくてやったわけじゃないからね」
「だろうな」
どこか納得してルクスは頷く。この目の前の者たちが己の礼が欲しくてあんな事をしたのではないくらいはこの者たちのことをよく理解できている。
あれからの後始末は大変だった。
魔王城内には何人も人間が死んでおり、その中には大神官も混ざった上ルクスも重傷。混乱しない方がおかしかった。
幸い簡単だがミレイユたちから応急処置を受けていたルクスは意識があったので指示を飛ばし迅速に処理をした。まぁその応急処置と言うのはメアが治療薬をルクスに嫌そうに投げつけただけだったが。
もちろん、ミレイユたちの姿はその現場からは消えており、王都に行っていたようだ。
確かに現場に残るとややこしくなるのは理解しているが、めんどくさい後始末を全て己に押し付けたようにルクスには感じられた。
結局のところ、大神官であるベネディクトを首謀者とし配下の者多数とその言葉に踊らされた者たちで今回の企てを行なったとした。その結果ルクスのおかげで『勇者の剣』は守られ、彼らの計画は失敗に終わったと。
セバス絡みの話は騎士団長にのみ伝えた。その際ミレイユたちのことは除いて。
「約束通り、誰にもお前たちのことは伝えていない。
伝えたところで余計な事にしかならんしな」
「当然の話ね」
頷いてミレイユは答える。
ミレイユたちのことを伝えても混乱に拍車がかかりルクスにとってもミレイユたちにとってもいいことにはならない。
「世話になったわね」
「やっぱり行くのか」
「ええ、ここは住み着くには広すぎるわ」
少し周りを見渡して言う。
それに少しばかりか残念そうにルクスはする。
「そうか。まぁ確かに広いな、ここは」
「ダンデムさんとかには挨拶できたけど、忙しそうだったシャーリーにはよろしく伝えておいてね」
「タンデムとやらはここの料理長なのは知っているが、シャーリーとは誰のことだ?」
「あなた付きの無表情な侍女のことよ。白のティーバックのが彼女のよ」
「冗談でも止めろ!! 真面に見れなくなるだろうが!!」
「やっぱり、ムッツリスケベでしたか」
「それはお前の主人だろうが!!」
「失礼ね。下着集めはしないわよ」
「はぁ~~~。もういい」
「セクハラです」
「……ため息をついただけでか」
後始末の心労が今になって乗りかかってきたようだ。まだ完治していない腹の傷が痛む。
痛くなってきた腹を押さえ、ルクスはふとあれから疑問になっていたことを聞く。
「俺は間違っているのだろうか?」
「下着を盗んだこと?」
「違う!!
……今の状態を保つことにだ。
俺はジベルタ王が、『KPGHSB YPOLNP』がしたことを誇りに思う。だからその遺志を引き継いでいる。それは王として、また同郷の者としてだ。
しかし、それは神々の意志とやらに反することだ。今回の件はいろいろな者の思惑があったにしろ根本はそれが原因だ」
今回関わった者たちの多くが自分本意な者たちだった。しかし、この騒動の根底にあるのは神々の争えと言う言葉があってのことだ。無ければ魔族も人族も手を取り合ってまで今回の騒動を起こさなかっただろう。
果して神々の意志を蔑にして、一個人の遺志を尊重する。それは正しいのだろうか。
もしその神々の意志とやらに従っていたら、セバスは、兄はああいう風にならなかったのでは……。
「あなたは熱心な宗教者かしら?」
「いいや、違うな」
「なら、そんな神々の意志なんて気にする事はないわね」
「しかし……」
「あなたが気にしないといけないのは神じゃなくて民よ。
だってあなたは王なんでしょう?」
「!!」
その黒い瞳を真っ直ぐ向け告げる。それはあたかも神託のようでもあった。
「ルクロソス・トレク・レド・ガドロルド。
あなたはこの魔王国の王よ。
それは王位があるからでも、力があるからでもないの。民に認められているからよ。
民無き王なんて滑稽だし、王無き民はすぐに消え去る。
王と民は対よ。王と神ではないわ」
それは揺るぎ無い言葉だった。神々の意志とやらよりもはっきりと意志を持った言葉だった。
その黒い瞳にルクスは何故かジベルタ王を見た気がした。
「そうか。そうだな。お前の言う通りだ。
俺はこの魔王国の王だ。
そう、俺が魔王だ」
そう宣言したルクスの顔は晴れやかだった。
それをミレイユも見て少し微笑んで言う。
「そう、じゃ行くわね」
「ああ。
しかし、馬車とかを使わなくていいのか? それくらい用意ぐらいするが」
「いいのよ。飛んだ方が早いわ」
「いやそうかもしれないが……」
「ああ、下から下着が見れれないかってこと?
大丈夫よ。スパッツ穿いてるし、姿も隠すしね」
「そうか、それなら心配は……」
「やっぱりムッツリでしたか」
「違う!!」
「シャーリーにはブラはつけない方が喜ぶって言っておいたわ」
「誰が喜ぶか!!」
「自分で脱がす方がいいのかしら」
「頼むから、もう止めてくれ! 俺が悪かったから」
ルクスはほとほと参ったように懇願して言った。
それを見てミレイユたちはおかしそうに笑う。
「全くお前たちは本当に何しに来たんだ」
「決まっているでしょ。魔王を倒しに来たのよ」
「ああ~~その通りだ。コテンパンだ。全くとんだ勇者だな」
「違うわよ」
「??」
「魔王で勇者よ」
「とんだ一人二役だな。誰だ配役を決めたのは?」
「私じゃないことだけは確かね」
「……それは教えてくれないのか?」
「聞かない約束でしょ」
「世界の半分をくれる代わりに、お前たちのことは言わない聞かない気にもしない。だろう? 分かっている。
だから、誰もいない場所での見送りだ。
だが、気にならないと言ったら嘘だ」
「セクハラです」
「分かった、分かった! もういい。もう聞きはしない。
はぁ~~~」
大きくルクスはため息をつく。
「まぁ、大丈夫だとは思うが気を付けるんだな」
「ええ、そうするわ」
その言葉を合図にす~とミレイユたちの姿が消えていく。その灰色のローブが周りに溶け込むように周りの画像を映し出しているようだ。
その透明な後ろ姿にルクスは言葉を投げかける。
「THGVRLKBUP、同郷の者として礼を言う」
その言葉に去ろうとした気配が止まる。
「IHUPSFBOLUHWHUHTP」
そう軽やかで嬉しそうな声が流れ、そしてそれは開いた扉から去って行ったのだった。
―― ◇ ―― ◇ ――
姫様、この絵本のマオウって何ですか?
--魔族の中で一番強くて偉くて、とっても悪いことをする奴をいうのよ。
悪いことって、いつも姫様がしている……勝手にお菓子食べたり、悪戯をしたりすることですか?
--……いいえ、それよりももっと悪いことよ。
たとえば、人が大事にしている物を奪ったりとか、
とっても綺麗なお姫様をさらったりとか。
えっ姫様がさらわれるのですか。
--たとえばの話よ。たとえばの。
そうですよね。姫様ならコテンパンにやっつけますよね。
--……ええ、そうね。でも魔王を倒すのは勇者の役目よ。
だったら!! ……
魔王編はこれで終了です。
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