第二十五話 笑ったのは誰ですか?
侵略の理由は様々だ。単にその場所が欲しいから、住む場所が無くなったから、ただ嫌いだから等々。それらの思いをまとめ上げ国は他国を侵略する。
ジベルタは前世でも数多く見て来たしその歴史からも学んだ。
しかし、このセフィロルと呼ばれる世界では魔族と人族に関しては住み分けができている。どういう理由であれお互いの領域に住み着くのは困難だ。短期では住めるがそこで自分たちの子供は生まれない。精々できることは資源確保か。
にもかかわらず、魔族と人族との間で侵略は行なわれている。
それは何故か。
その領域が変動するからだ。
それさえ起きなければお互いの領域への侵略はなくなるはずだ。最低でも今は。遠い未来は分からないが。
ジベルタは引きこもりを止めて、領域の変動、すなわち大地の魔力の遷移について調べた。
幸い民の教育のため学問には力を入れてきた。それについて調べている学者たちは多数いた。
その者たちを集め問いただしたところ、おそらく魔力の遷移は魔王と『勇者』と呼ばれる者のが関係しているだろうと言うことだった。
『勇者』とは何か。それは『勇者の武器』を持つ者。
『勇者の武器』とは何か。それは『人神』の力を集めた物。
魔王と勇者。何かのお話のようだが、ここでは実在する。そしてそれらは対の様に関連している。
干期の終わりに魔王が現れ、満期が始まる。そして満期の終わりに勇者が現れ干期が始まる。
まるでそれぞれが魔力の遷移期の到来を告げているかのようだ。
では、その勇者が現れたら今の満期は終わるのか。
必ずしもそうではない。そう学者たちは答える。
数ある魔族の歴史書と少しは残っていた人族の歴史書の両方を調べ上げたところ、干期から満期へと遷移する間がしばらく続く場合があった。学者たちは遷移期とは別に『停留期』と呼んでいた。要は魔力の遷移が止まるのだ。
まさにジベルタが望んでいた事柄だ。
その場合は何だと問うと、その答えは魔王が死ななければと言う物だった。
魔王が早々に死ねばヴァルグリンド島近くまで魔力は偏移し、死ななければ魔王が存在する辺りで留まるのだ。
それが長い歴史の中で何回か起こった事柄だった。
しかし、いずれその停留期は長くは続かなかった。それは魔王とて寿命があるのだ。いくら魔力があっても限界はある。
そして、勇者だ。彼らは魔王の命を狙う。なぜなら、彼らも知っているからだ。魔王を倒さなくては魔力の偏移が終わらないことを。自分たちの領土が増えないことを。
だから、執拗に攻めて来る。魔王の元へ。
勇者は強かった。物語のように。それはアンチ魔族とも言うべき存在で、ある程度の範囲の魔力をかき消し自分の周りに疑似聖界とも言うべき物を造り出すことができた。その勇者の武器によって。
そのため魔術主体の普通の魔族では戦うことは難しかった。特に徒党組まれた場合、数が多い人族に軍配が上がることが多かった。
長い歴史の中で勇者に討ちとられた魔王もいる。
だが、ジベルタにとっては勇者は大した問題ではなかった。
勇者を倒す方法などいくらでも思いつく。前世での戦争の歴史を学べば魔術に頼らなくとも色々な武器や罠を作れる。毒殺などの暗殺やハニートラップだってできるかもしれない。事実、実際に勇者を倒した魔王だっている。
しかし、寿命は如何ともし難かった。
多くの者が求めるであろう不老不死。
残念ながら、いや幸いにもか、ゾンビや幽霊などはこの世界には存在しない。おそらく神と呼ばれる者以外は誰もいないだろう。
ジベルタは学者たちと一緒にその停留期について、魔力の偏移を止めることについて研究しだした。
先の見えない物だった。伝承などを探し出し調べ、聖界にも赴き魔力の遷移の様子を調べ、時には人族の中での言い伝えも現地に侵入するなどして調べた。流石に神山と呼ばれる場所には入れなかったが。
中々成果はでなかった。
しかし、その中で奇妙な伝承を見つけることができた。それは魔族の言い伝えよりも人族のよく知られている言い伝えよりも古い物だった。
それは、この世界に魔神もおらず人神いなかった時代の話。そう、古の時代の話。
その時代、ただ一柱の神だけがいたと言う。『始源の神』とも言うべきか。
その神はこの世界セフィロルを造り、そして人を造った。造った当初、世界は上手くいっていた。平和な時代は続いた。
しかし、ある時から増えた人々は争うようになった。それは軽いものから血を流し死に至らしめるものまであった。
そして、その矛先は父とも言えるその神にも向けられた。
子も同然の者たちから刃を向けられ傷つけられたその神は絶望して血を流し、そしてその子らを憂い哀しみ涙した。
そうして、その身から二柱の神が生まれた。血からは魔神が、涙からは人神が。そして、その『始源の神』は二柱に力を分けるようにして消え去った。
その時から世界は二つに割れ魔界と聖界ができた。魔神は世界を魔で満たそうとし、人神はそれを押し返した。
二柱は反発し合い徐々に離れて行き二柱の間で魔界と聖界の境界は揺れ動いた。
そして、魔王が生まれた。それは『始源の神』を傷つけた者たちとは関係がなく、ただ同胞が行なった過ちを憂いていた者だった。そして、その者の同族たちが魔族となった。
その伝承を見つけた時あまり意味が無いように思われた。事の起こりは分かったが問題の解決になるようには思えなかったからだ。
この話が本当なら二柱に相談しその力を均等に保ってもらうしかないからだ。
しかし、ある学者が言う。この『始源の神』の力さえあれば境界を留めることができるのではと。
魔神と人神は『始源の神』から分かれて生まれた。なら、二柱の力を混ぜれば『始源の神』の力が生まれるのではと。
『始源の神』の力は世界を作った創造の力のはず、楔を世界に打ち込むことはできるのではと。
ジベルタその言葉に天啓を得たかのように思った。これしかないと。
魔神の力は自分の魔気だろう。では、人神の力は何か。それは、勇者、いや『勇者の武器』だ。
伝承にはそれは様々な形ではあったが光を纏い、そして勇者を守ったとある。そして、勇者が死ぬとただの武器へと戻ったとある。
おそらく、勇者を媒介に力を発現しているのだろう。魔神が魔王を使っているように。しかし、勇者はほぼただ人。そのためその武器に力を発現させているようだ。
その『勇者の武器』さえあれば……。
ジベルタたちがそれを思いついた時は既に千年が経とうとした時だった。
彼女はこのことを一部を除き公言することを学者たちに禁じた。そして、一部の者に自分の計画を明かすと今の魔王城を造り上げた。
そんな彼女の耳に勇者出現の知らせが届いたのは、それからしばらくしてからだった。
自分の計画の失敗も考慮し民は避難させ、そして自分は魔王城で勇者を迎え撃った。死を覚悟して。
この手記にはそこまでしか書かれていない。
最後には自分の計画の成功とその後の魔族と人族の平安を願うとあった。そして、この手記を読んだ同郷の者への感謝と平安で締めくくられていた。
もちろん、ルクスはその結末を知っている。彼女の子孫が伝えたからだ。
彼女は勇者と相打ち、その際その勇者が持っていた剣をあの謁見の間に刺したのだ。己と勇者が息絶える前に。
それは壮絶な最期だったと。
血まみれで満身創痍だったが、その死に顔は笑顔で美しかったと。
今も勇者の剣はあの謁見の間にある。彼女の想いと共に。
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