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第十九話 来たのは誰ですか?

「あん? 何だい、あんたらは?」


 ローザリンデはカウンター越しに現れた、奇妙な二人組に胡散臭そうに視線を向けて問う。



 ここはハンター協会の建屋の中、主に魔物などからの素材を換金する場所だ。

 そのカウンターの一つにローザリンデは受付として座っていた。


 ローザリンデがここに座るようになってから長い年月が立つ。

 彼女も始めハンターとして活躍していたが、足に怪我をして思うように動けなくなったのをきっかけにハンターを引退した。その際縁があってここで受付の仕事をするようになった。それからもう何十年も経った。


 この受付の仕事は主に二つある。

 この建屋の裏にある魔物の解体所で査定された素材の換金と薬草など大きくはない物の鑑定と換金だ。

 裏で査定された物の換金は大したことがない。裏で査定が済んだものの金を渡すだけだからだ。持ち込んだハンターがごねたりと色々とトラブルはあるがそれだけだ。


 しかし、持ち込まれた物の即鑑定は適当な人間ではできない。それなりの目利きがいる。そのためその即時鑑定換金の受付はローザリンデなどの目利きができる古株の人間が担当していた。



 今日も今日とてローザリンデは受付に座っていた。

 見た目少し太ったおばさんで、眼つきも鋭いローザリンデのカウンターの前には誰も立っていなかった。

 そこで換金する者が少ないのもあるかもしれないが、他の受付の前と比べると閑散としていた。場所も入り口から奥の少し暗い所なのもあって、そこだけ空気が違うようだった。

 少し薄暗いことに思うところもないでもないが、ローザリンデも殊更明るい所が好きな人間でもなかったし忙しいよりはいいかと長年変わらずにいた。別段他の受付の者からはぶられているわけでもなく、何か問題が起きた時などローザリンデはよく頼られていた。



 そのローザリンデの受付の前に奇妙な二人組が立った。その一人はどこかの令嬢のようで片方はそのメイドだった。こんな所で見かけたのはローザリンデも初めてだ。

 ただ、その二人は見かけだけでなく明らかに魔族と違っていた。魔族から感じられる魔力が一切、いやほとんど感じられないからだ。

 その変な二人組は人族らしかった。


 もちろん、その変な二人組はミレイユたちだった。

 メドラーを狩った後王都に帰り、ここハンター協会に立ち寄ったのだ。




「これをお願いします」


 そう持っていた袋からメアがメドラーの魔石を取り出してカウンターに置いた。



「こいつは……五等級の物さね」


 ローザリンデは手早くそれを量りにかけるとそう答えた。



「五等級?」

「……知らないのかい?

 ここいらで言えば中の中ってとこだね」


 ミレイユの質問にローザリンデはそう答えた。



「初めて見る顔だけど、あんたら魔界に来てまで狩りにでも行ったのかい?」

「ええ、そうよ。珍しいかしら?」

「珍獣の類だね」


 そう呆れたようにローザリンデはその奇妙な二人連れを見た。



 人族が魔界で狩りをするのは珍しい。魔力の濃い場所に長くはいられないと言うこともあるが、そもそも魔王国に入ることが難しい。許可がないと入国できないからだ。

 近年聖界との交易が盛んになり、その商人たちの護衛として人族のハンターたちがこの魔王国に入り込んではいる。だから、その者たちが暇な時に魔界で魔物を狩っている場合がある。もしくは何かしらの依頼で。



「特にあんたらみたいなのは初めてさね。

 ……こいつは本当にあんたらの物かい?」


 そう鋭くローザリンデはミレイユたちに聞く。


 確かに怪しいことこの上なかった。まだ、誰かの使いで来たと言われた方が納得できるだろう。

 魔族とて貴族の令嬢ぐらいはいる。そして大抵魔力が高く自ら魔物狩りに出ることはある。しかし、こんな女性二人だけで狩りはしないし、もう少し格好も違う。まぁ、着替えてから来たかもしれないが。

 それに人族だ。じかに見たことはないがひ弱な人族の貴族の令嬢などは魔物狩りなんてしないだろう。

 盗んだとは言わないが出所は怪しかった。



「ええ、私たちが狩ったわ」

「……そうかい。まぁ、いい。

 ……ほれ、金だよ」


 ローザリンデは手早く何かに書きつけるとカウンターに金を置いた。二人分としてなら一週間ぐらいここで生活できる金額だ。

 魔石だけの換金は少ないがなくもなかった。大抵はその他の素材も持って帰るだろうが大きい獲物となると中々持ち帰るのは難しい。飼いならした魔獣に荷台を引かせて運んでいるハンターのパーティなどもいるくらいだ。しかし、大人数になるとそれだけ一人あたりの報酬も低くなるので、少人数のパーティーも多い。そう言う場合は魔石だけ換金する。



「いいのかしら?」

「構わんさ。あんたらが嘘をついていてもあたしには分からないし、それを調べるのはあたしの仕事じゃない。

 それにこの程度の魔石の一個や二個どうってことないさね」


 肩をすくめながらローザリンデは答える。過度な詮索は彼女の業務とは関係ない。



「ハンター証とかも必要ないのかしら」

「はん、残念だけど。あんたら人族にはハンター証は発行してないんだよ、魔王国ではね。

 それに聖界で使われているハンター証はここでは関係ないからね。

 まぁ、聖界でも国を跨いでのハンター証なんてそうはないだろうけどね」

「そうね。ある程度近い国でのハンター証は使える場合があるけど。

 大抵は無理ね」

「だろうね。

 ここで人族のハンター証を作ってもどうせすぐにいなくなるからね。

 だから、あんたらには必要ないのさ」


 少し馬鹿にしたようにミレイユたちを見て言う。


 実際人族で長くこの魔王国のハンター協会を利用することは少ない。それは帰国してか、はたまた死亡してか。



「そう、ならいいわ。

 じゃ、またね(・・・)


 そう言ってミレイユは金をメアに取らせるとその場を後にした。



「……また来るつもりかい」


 そんな呆れた声が誰に聞かれることもなく、そのカウンターに流れたのだった。

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