プロローグ 魔王でもいいですか?
「よくぞ来た。魔王が住みし城、この魔王城へ。褒めてつかわす」
重厚な扉に似つかわしい重苦しい音を前奏にして美しい歌が歌われえるように、澄んだ声が広い謁見の間に響いた。
その場所の天井は槍を飛ばしても届くことができないくらい高く、床は立ち並べば数千の兵も軽く入れるほどの広さがあった。そして、王座があろう場所に向けて扉から紅くぶ厚い絨毯が真っ直ぐに敷かれていた。
その場所を厳重に閉ざすための大きく重厚な扉は今、ゆっくりと軋むような音を奏でながら開かれている。
そして、その扉の間から現れた人影を中に誘うようにその声は響いている。
「ここに来るまでに幾多の試練があったであろう」
その広い場所の扉から続く紅い絨毯の先にはその場を一望できるように少し高くなった場所があり、何段もの階段がそこに続いていた。もちろん扉から続く紅い絨毯も流れる川の様にその階段を彩っていた。
「幾多の犠牲もあったやもしれぬ」
そして、その高台の様な場所には見るからに重そうな黒く大きな物が鎮座している。
それは、背もたれは人二人分ほど高く形作る黒い金属はどこもぶ厚く、いたるところに奇麗な装飾が施されているが見る者に冷たい威圧感を与える、まさしく魔王が座るに相応しい王座であった。
「中には挫折したことさえあったであろう」
しかし、その大きな王座にはそれとは対照的な者が座っていた。
その髪は濡羽色で何か黒い宝石の様に光によって美しい光沢を放っている。
その大きな王座にその体は合わず、その小さな腕を置くには肘掛けは高すぎ足は床についていない。ただ、それを補うかのように真っ赤な光沢のあるその体に合った大きさのクッションが、その体と王座との間に敷き詰められていた。
そのため足を組み肩肘をつき座る姿は優雅でそれでいてどこか幼さを伴うものだった。
「故によくぞ来た。改めて、褒めてつかわす」
そして、その肌の白色とは対称な真っ赤で小さな唇から紡がれる澄んだ声は、その広い謁見の間の隅々まで広がり何か音楽のしらべの様に響く。
「しかるに、その蛮勇にも似た来訪。甚だしく愉快である」
しかし、紡がれる言葉は尊大で不遜なものだ。
その言葉は来訪者を歓迎しているようで、その実大いに馬鹿にしていた。
それは相手を見下すように向けている、その黒く鋭い瞳も物語っている。
「それ故、戯れに一つ提案をしよう」
だからだろう。提案と告げられたそれは相手に拒否権を与えているようには聞こえない。
「我が下僕とならぬか?」「姫様」
それは家畜かペットを選ぶかのように安く簡単な物言いで相手のことなど微塵も考えてもいなかった。その言葉で相手が不快に思おうが気にもしていない。
「さすれば、世界の半分をやろう」「姫様」
それはとても広く大きな物だが、しかし本人には余計でいらないゴミを与えるかのようで気安い口調だった。
「どうだ? 良い提案だろう?」「姫様」
故に提案と告げられたそれは命令にも似たものになっていた。
だからこそ、その言葉に口を挟もうとする者はいない――
「今ならセットで」「姫様」「……さっきから何?」
――こともなかった。そして……。
「それらのセリフはあちらの方のセリフです」
そう傍らで口を挟んだ者が指差す先には、この謁見の間に入り呆気にとられて立ちすくむ者がいた。
「あら?」
そんな間抜けな呟きがその広い空間に流れたのだった。
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