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パレード・オブ・ガレイゼル  作者: ドンガラガッシャン
第二章
24/24

リオルと女の子~父親に似た外見を添えて~

人によっては不快に思われる描写があります。ご注意ください。

 何もわからず連れてこられたスイ・ウェット中佐は、それでも目の前に現れた重症患者に一瞬息を止め、そして冷静に通信機を取り出した。


「私だ!今すぐ二番の集中治療室を用意しろ、十歳以下の錬成人体も準備しておけ!」

 ―――は、はい!?

「急げ!肢体を拷問された跡を持つ少女だ、部位の取り換えが必要とみなした!!」

 ―――わかりました!!


 手短に通信を終えたウェットは、とりあえず今この場で出来る処置をしようかと懐の応急キットに手を伸ばしたが、無意味に終わった。


『オラ行くぞ医者』

「え?」

「飛翔魔法で送るよ。この子何処に届ければいいの?」

「あ、じゃあ軍病院にお願いします」

『舌噛むなよー』

「え、ちょ何で髪が光って……ぎゃあああああああ!!!!!!!!!!」


 因みにウェット中佐は、高所恐怖症である。











 フロティア暦3月19日 深夜。



 ―――いや全く…心臓がもう一つ欲しい所でしたよ

「あれ?あの子の怪我は両手両足だけだったよね?」

 ―――いや私の心臓がもう一つぐらいあれば良かったという…

『で、あの小っこいのの容体は』

 ―――あ、はい。一命をとりとめました


 ガラス版に表示されたウェット少佐のその報告に、覗き込んでいた全員が歓声を上げた。チャレットなどハンカチで涙をぬぐうほどである。

 スイもただ保冷庫の設置の最終確認のためにたまたま来ていただけなのだが、まさかこんな事態に遭遇するとは思わなかった。何とか乗り越えることは出来たが、二度とごめんな出来事だった。


 ―――で、あの少女は一体?


 その一言に、皆の視線がルーガスに集まった。

 今の所、少女の事を知っているのはこの男のみである。

 みなを代表するかのように、リオルが店長を問い詰めた。


「…店長、以前あの子を助けたと言ってましたね」

「そうだよ?確かエルシーちゃん達と初めて出会った時だね。キイチからちょっと逃げていた時に音を消した銃?何かそういう魔法を使ってたのを精霊から感じ取って、あたりを探ってたら……ばったり?」

『何でその時保護しなかったんだよ?』

「や、してたよ?」



 合流した憲兵が。



「もちろん厄神の影もない真っ当な感じだったから後のこと頼んだんだけど……そのあと何かあったのかな?」

『だろーなーあの怪我の具合じゃあ……』


 そうなると、これは軍の失態という事になる。

 キイチやリンレイがいない以上、今店にいるのはガレイゼル軍の関係者しかいない。その事実は、彼らにとって由々しい問題である。張りつめてきた空気の中で、発言したことを後悔しながら少年はさらに続けた。


「保護した憲兵の顔を……店長憶えていますか?」

「覚えてるも何も、朝市でよく声かけてくれるじゃん。リッツ君だよ」

「リッツさん!?」


 リオルも知る街の憲兵の一人である。朝市の屋台で腹ごしらえをしてから出勤しているらしい彼は、それ以降リオル達と出くわすと律義に挨拶をしてくれる。

 真面目な青年である。


「あの時は北地区のゴタゴタで増援に入ってただけで、いつもは南地区の管轄だって言ってたな~」

 ―――彼から詳しい話は此方で伺いましょう……時にルーガス殿

「僕かい?」

 ―――はい……その少女なのですが……



 貴方の店にあれほどの深手を負って現れたとなれば、やはり用があったのはルーガス殿だと考えられます



 ―――処置は終わり、動かすことも可能です……そして今の話からしてこのまま軍が少女を保護することに、私は危機感を抱きます

『一理あるな。実際、憲兵が保護したはずの少女が死にかけてまた現れてんだ』

 ―――……パレード店にて、保護できませんか?

「いいよ」


 あっさりと、そうなった。











「……?」


 女の子が目を覚ましたのは、翌朝の事だった。

 自分の置かれた状況が、まずよくわからなかった。まぶしい日差しが顔を照らしたために目を覚ましたが、こんな目覚めは初めてだ。

 知らない場所である。そして清潔で柔らかく、暖かなベッドに寝かされている。


「……?」 

『あ、起きた?ちょっと待ってね』

「!」


 ひょこりと覗き込んできたサラマンダーの登場に、キレイな包帯でちゃんとした処理を施された両手で布団を握りしめた少女。

 蜥蜴の行動を追うように上半身を起こし、扉を少し開くところを見届けた。


『リオルーーーー!!!!女の子起きたーーーーーー!!!!!!』

 なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!?????

「!?」


 階下から階段を大多数の人が駆け上がってくる音に、予想外だったのかサラマンダーの背びれも一瞬大きく炎を吹き出した。


『え!?全員!?お店の事も考えようよ!!』


 ムリだった。お玉を持ち黒いエプロンを付けたままのルーガスを筆頭に、ミズヒコまで現れた。


『うわぁ……』

「!?」


 綺麗に洗われたために艶も出ている黒い髪。それが跳ね上がるほど激しく動揺した少女の怯えに、シャラがまず気が付き大人たちを制した。


『ちょっとちょっとみんなタンマ!!人が多すぎ!女の子泣いちゃう!!人数決めよう!』


 という訳で。女性であるチャレットと、大人の男に怯えているという訳で年若いリオルが部屋に残ることとなった。

 当たり触りのない、というよりもまず聞いておきたいことをチャレットが尋ねたが。


「お名前、何て言うのかな?」

「………………………“オモチャ”」


 早速リオルが部屋を飛び出して、廊下で待機していたルーガスたちに合流した。


「……っ…………っ!………!!!」

『わかる、わかるぞ言いたい事は。だが戻れ』

「がんばれリオル」


 顔をぬぐいながら部屋に戻った年上の少年に、女の子はただ首を傾げた。大きなガーゼがその殆どを隠していて痛々しい。

 額も首も、残っていた跡を包帯が隠してはいるが、リオルはここに大人の手が締め付けたかのような跡と、煙草を押し付けたかのような火傷が残っていたのを昨日の内に確かに見た。

 ウェット中佐の手術報告から、肢体の方も詳しい話は聞いていた。

 まず、手足は本来のモノを切断し、錬金術で錬成された人工の肢体と取り換えた。



 患者の年齢からして、定着するのにそう時間はかからないと思いますよ。壊死も始まっていたモノを自己再生させるより、こっちの方が患者の負担も減りますし

 切断したものはこちらの方で調査します

 あ、手術代は後で請求しますので



 そう言って、ウェット中佐は深夜の通信を終了させた。青紫に変色していてより現場にいた者たちに恐怖を与えたあの手足。それと交換されたばかりの少女の両手は、拙いながらもミズヒコが準備していた御お粥を匙で掬い取り口に運んだ。

 まっさらな黒子一つない人工的な腕は、袖のない患者衣から晒されておりそこだけは何一つ傷がない。包帯があるのは接合部分だけである。

 大きな金のつぶらな瞳はお粥を小分けにされた椀に夢中になっている。リスのように頬も膨らんでいる。

 一生懸命だ。


「………………………」

「…………あら、食べきっちゃったわね。もっと欲しい?」

「ううん………もう大丈夫」


 大根やホウレン草も小さく刻まれ入っていたお粥は少女のお気に召したらしい。てきぱきと食器を片付け、チャレットは廊下で待機していた男たちに押し付けてから部屋に戻ってきた。

 因みに押し付けられたのはミトである。トボトボと階下に降りる足音がリオル達にも聞こえたが、チャレットは気にも留めず紅茶を三人分注ぎ始めた。


「………………………ここ、何処?」

「昨日あなたが訪れたお店の二階よ?」

「………お店………………………パレード・オブ・ガレイゼル?」

「!」

「あら、よく知っているわね店のフルネーム!みんなパレード店とか省略するのに、誰から聞いたの?」

「“ご主人様”」



 奴隷制度は何世紀も前に国際法で禁止されています!!



『って言いたそうな心拍数だ』

「よく聴こえるね、ガルス」

『シャラも聴こえる。チャレットもハラハラしてる』

「そっかー」

「ごほん!!」


 通路側の筒抜けな話声に、チャレットが抗議の咳払いをしたところで向こう側も静まった。

 外に大人が待機していることに気が付いたのか、少女も緊張してしまった。

 呼吸も荒い。まずい状況だ。


「あーえー……名前なかったそういえば…………………名前決めよう!」


 少々リオルも混乱していたが、少女の気を逸らすには十分なものだったらしく、涙目で零れ落ちそうな金色はリオルを映しこんでいた。

 チャレットもそれがいいわと同意してくれたので、完全に気を紛らわせることに成功したかと思えば、裏目に出た。


『落ち着けガルス!お前にネーミングセンスは皆無だ!』

「だって名前決めるんだよ!?大事じゃん僕も混ざりたい!!」

『坊主早くしろ!この男、本気だ!!』

「ごめん急ごう!君は何かこういうのがいいって名前、あるかな!?」

「名前………じゃあ」



 レイラがいい



「………………………わかったよレイラちゃん」

『お前ほんとよく出来た人間だなぁっおい!!』


 なぜよりによってその名が浮上したのか少年も追求したかったが、熱が出て来たのかぼんやりし始めた幼い子供にそれ以上の事を望むほど鬼畜ではない。


「熱が出始めたようね。今は眠った方がいいわ」

「じゃあレイラちゃん、このチャレットお姉さんが一緒にいてくれるから、安心して眠るんだよ」

「………………………お兄ちゃんの名前は?」

「お兄ちゃん?リオルだよ」

「………………………リオル……リオ………ル………………………」


 限界だったのか、レイラはそのまま眠りについた。

 ティーセットと共に部屋を後にしたリオルは大人たちと共に階下に降り、待機していたラスカーやガレッド、そしてウェット中佐をガラス版に表示させているエルシーたちと合流した。


「という訳で、ラスカー」

『何です』

「君にも見えただろう?あの子の因果の糸っていうか、包帯みたいに太い奴」

『………………………あの太さ…………余程のものでなければそうならないというのに』

『しかもよりによって“レイラ”かよ。こりゃ手放せねぇぞ』

『…………』

「あの子はこの店で保護するよ。ラスカー?」

『…………異存ありません……ウィリアムも承知しました』


 テレパシーで陛下ともつながっていたらしい白猫は、ガラスの翼を広げそう宣言した。

 精霊獣自身もあの少女の正体に関心を寄せていた。

 ここで軍がまた保護をして、今度こそ幼い命が失われる事態になることだけは何としてでも避けたい。

 その点、このパレード・オブ・ガレイゼルは申し分ない避難地帯である。


『……………ルーガス』

「僕かい?」

『私は、貴方の頭脳に何の期待もしていません』

「ひどくない!?」


 同意とばかりに、何人かも頷いた。ちなみにリオルやエルシーは視線を逸らすだけに留まったが、それは少数派だった。


『ですが、戦闘における実力………特に“守護者”として振るわれるあなたの力は本物です』


 国父レナードの黒騎士を、ルーガスがただ“かっこいいから”という訳でやっていたわけではない。

 なんだかんだ言ってこの男、何かを守ることに関してはすさまじい力を発揮する。

 アドゥヴァストやシュレストの魔の手から親友の命を守り切るという偉業からして、それだけは騎士として“本物”だ。

 ただガルガンの骨から造りだした黒い鎧が印象的だったために黒の騎士と言われているだけである。ルーガスが自分で名乗ったことは一度もない。

 鎧も黒騎士も言い出しっぺはレナードであり、彼の趣味である。


『二人いっぺんですよ…負担はレナードの時より多いです』

「大丈夫だよ。リオルは人間不信じゃないから」

「それどんな理屈ですか」

『ほんとヤバかったぞ、レナードの人間不信とそれがしょうがないと言える当時の人間構成』

『本当に………………………哀れでした』


 本当に、何があったんだ当時の帝国。











「じゃあまず女の子がずっとあんな患者衣とかよくないよね!服買ってくる!!」

『エルシー、ユリア、共に来てください。この男の美的センスもまた信用できません』

「りょ、了解しました」

『おう坊主、俺らも行くぞ』

「なぜに!?」











 フロティア暦3月20日。



 アネモネ祭りの真っ最中だからであった。

 国花たるアネモネは春の花である。三月の半ばから咲き誇る花を、この国は王族主導で栽培している。見頃になれば王都の至る所に植え替えられ、花見のために国中の人が足を運ぶ。

 その遠方からの客人相手に、王都の店はこの時期一斉に “特価”を始める。洋服店などは特に、冬の売れ残しをここで一気に処分する寸法である。


 “洋服を三枚買えばおまけでもう一枚”

 “冬物大量売り尽くしセール”

 “まとめ買いするなら今がチャンス”


「あ、安いですね」

『黒い服なんてガレイゼルじゃなーと買えねーんだよなー。それが安く買えるとなりゃぁ、狙わねーと』


 邪竜を連想させる黒い服飾は喪服ぐらいでしか使用されず、日常で着こなすことは帝国以外では嫌悪されている。

 需要がなければ手に入ることはないため、ガルガストはこの時期BM(ブラックマン)ブランドの黒いシャツを大量購入する常連となっていた。

 店の方もガルガンのサイズをとっくの昔に把握している。今年の流行らしい光をモチーフにしたデザインの入った衣服を作り待ち構えていたが、今年はそこにもう二人。

 上物の買い手が加わった。


「いかがでしょうか黒騎士様、こちらはボタンが全て光をモチーフにしておりまして…」

「あ、いいね!これも欲しい!!」

「ありがとうございます」


 さすがは店を後もう一軒は建てられるほどの財力。値段も聞かず即決した。

 かく言うリオルにもそれなりの財はある。危険手当の入っている月々の給料もかなりのものであるがもう一つ。

 実験的な意味があったとはいえ、ウルドラ神の倉庫で厄神の消滅を行ったことが軍で評価されてしまい、国から褒賞をもらってしまったのが大きい。

 まあ運用管理は店長同様ラニに全て任せているので、悪いようにはならないだろう。多分。


「それにしてもラスカーさんたちの方……………時間かかってますね」

『女の買い物だぜ?あと二時間ぐらいはかかると思え』

「あ、これリオルに丁度いいんじゃない?一緒にお願い!」

「かしこまりました」

「店長!!」

『………………………こっちの衝動買いも相変わらずだな……』


 婦人服と紳士服は階が違い、ラスカーとエルシーは二階に、そしてリオル達は三階の接待室に通されて商品を吟味している最中であった。かれこれ一時間ほどたってはいるが、階下の二人が合流する様子はない。

 かといって様子を見に行って捕まってしまうのも怖いので、リオルは大人しくソファに座り店長の買い物を眺めていた。


「……自分の服は自分でお金払います…」

「いーからいーから。リオルはもしもの入院費のためにお金貯めときなさい」

「うおぉぉぉ……微妙に否定しずらい!!」

『保険とか入れてるか?厄神に狙われるの必須なお前が』

「無理でした!!」

『だよなー』


 世の中本当に世知辛い。そんな事をしている間にルーガスの方の買い物が終了し、女性陣と合流することとなった。

 まずそちらの方はまだ服の厳選からして難航していた。


「ラスカーこっち終わったよー……何それ可愛い!!!!!」

「黒と白を基調としておりますゴシック調の、少女を対象にした商品でございます」

「全部買おうよ!」

『こらこらお馬鹿。我々が買い占めたら他の少女たちが着れなくなります。ここはより多くの少女の手に渡れるよう、吟味するところです』

『それはボケか?それとも本気か?』

『至って真面目です』

『そっかー』

「……」


 本日のマネキンはエルシーだった。テンションが上がりまくっているユリアと店員たちと共にあれこれと着せ替えられているが、本人もまんざらではないらしい。

 たまにくるりと回ってみせ、耳を上下にせわしなく羽ばたかせている。今にも飛びそうな勢いである。


「リオル様!どうでしょうか?変な所はありませんか?」

「いや、ものすごく似合っているよ…」


 やや興奮気味な少女の可憐な問いかけに、リオルもすこし赤くなりながらもそう答えた。大人二人が下世話な笑みを浮かべていたので足元をちょっと蹴ったが、無駄だった。

 違和感が全くなかった。ダークエルフとゴシック調のファッションの親和性がすさまじい。

 店長たちも帰り際、ぜひうちの看板モデルになっていくれと懇願するほどである。軍人であるために上と話を通さなければならないとエルシーが言った瞬間にラスカーがちょっと失礼と何処かに転移してしまったので、実現は間もないであろう。

 さて、そんな大量に買い込んだ大小お揃いのドレスだが。

 早速店に持ち帰られ、熱が下がりまた起きて軽く温泉で汗を流したレイラに着せる事となった。


「「っきゃーーーー!!」」


 お揃いのドレスを着た少女が二人。早速女性軍人が歓声を上げて喜んだ。まだ残っていたガレッドも喜色を示し、尻尾が揺れた。

 レイラはまだ立ち続けるのは難しいために椅子に座らされ、いそいそとトムたちお決まりの三人が写真撮影の準備をしているのを、不思議そうに眺めていた。

 因みに写真機材はハロー・ハローの仕事用のものなのだが、戻ってきたラスカーがゴーサインを出した。


『少女の顔写真をそれとなく確保できるいい機会です』

『ただし服はオメーらの趣味な』

『患者衣など無粋です』


 力強く、言い切られた。











 さてそんな撮影会も終了し、一息つこうと紅茶とコーヒーが振る舞われた店内にて。

 レイラはエルシーとリオルと共に、紅茶とベリーがたっぷり乗せられたチーズケーキを初めて味わっていた。

 意外なことに、フォークの持ち方はちゃんとしたものだった。子供特有の握りしめて突き刺すような食べ方を覚悟していたが、まだ指の動きが多少ぎこちないだけで問題はない。


「レイラちゃん食べ方上手だね。誰かに教わったの?」

「……ん……父様……」


 窓際の少年少女たちの会話に、早速軍人たちが記録を開始した。ガレッドや竜人の姿のガルガスト達は一番遠いカウンター席にいたが、耳はいいので問題なかった。


「へー、レイラちゃんのお父さんってどんな人?」

「れんきんぢゅつのせんせい……」


 思わずリオルはカウンター席に視線を飛ばしたが、続けろとばかりサインを送られただけだった。


「……お父さんの名前………レスト・ファレッジ」


 すぐさまアレクセイが反応し、本日のおすすめなどを書いて店の前に置いておく黒板をひっつかみ書きなぐった。



 “国父レナード墓所発掘の責任者です!!”



 とんでもない情報が掲げられた瞬間である。背を向けるレイラには見えなかったが、エルシーとリオルは目を見開いて動揺した。

 リリーダと共に行方不明になっているはずの男である。

 そして、独身。娘の話など全くなかった。



「………………………まさか、いえ、そんな…………!!」

「エルシー?」

「?」


 最悪の答えは、黒板を借りたガルガストが代わりに提示してくれた。



 “今の情報で確信した。それホムンクルスだ”



 ホムンクルス。錬金術師という人間たちによって生み出された人造人間。フラスコの中でしか生きられない小人にして、あらゆる知識を有するという存在。

 ただし、決してこの少女のように完全な人間の形をした者はいない。帝国も例にもれずこれを利用しているが、展望台の巨大なフラスコの中に“飼育管理”されているのは、大人ほどの大きさもある巨大な胎児である。言葉も発せられず、へその緒で魔動機器と繋がる巨大な異形。

 知識はあるが知性はない。テレパシー魔法でコミュニケーションは取れるが、解析士という特殊な風魔法の使い手ぐらいにしか解明できない特殊な鳴き声で、“予知”した自然災害などを報告するだけである。成長することもなく、外部の装置がなければ生命維持も出来ず、そして莫大な費用も掛かる。

 だからこそ、皆信じられなかった。

 このどこからどう見ても、ただの少女にしか見えない子が。あのフラスコの中の胎児と同類だなんて。


「レイラ、ホムンクルスだよ?」

「本人の肯定入ったああああ!!!!!」


 しかし当の本人はその異常性に対して認識を持っておらず、あっさりと正体を暴露した。

 いつの間にかトムがつなげていた通信機の向こうのウェット中佐たちの絶叫などからして驚くべき真実なのだが。ちなみにあまりにも五月蠅すぎて、通信機はガルガストの手によって無情にも切られてしまった。


『……で、ちびっこ』

「!」


 竜人のガルガストが恐ろしかったのだろう。驚いてレイラはすくみ上った。皆の非難の眼が突き刺さり、遺憾だと神は吠えた。


『オークション!オークションに何でいたのか聞きたかっただけだっつの!!』

「あーそれね。レイラちゃん僕のこと覚えてるー?」

「………………………“黒騎士”サマ………レイラ“たち”の、“成功体”の大元………………」

「レイラ“たち”」

『“成功体”』

「うわー不穏なワードがいっぱいだー」

『ラスカァァァァ!!!』

『な、なんですか突然!?』


 今度こそレイラは泣き出した。宥める立場であるエルシーも、自分より小さな子を抱きしめて震えていた。神の怒気である。隣にいたガレッドも風圧に耐えるのでやっとで、そんなものの矛先になったラスカーには心当たりもない。


『レナードの墓所からあの琥珀は見つかったか!?』

『え、ええ……ルーガスの血液を中に封じたあの琥珀なら……』

『盗まれたか!?』

『盗まれました。手(・)筈(・)通(・)り(・)に(・)』

『それで!?祟り発動しなかったのかよ!?』

『知りませんよ!?祟りとか私も初耳です!一体貴方とレナードはどんなトラップを仕込んでいたのですか!』


 叫び返したラスカーの主張に、ガルガストがまた吠えた。レナード自身から彼女にもその話は通っていたとばかり思いこんでいたらしい。そして目の前で繰り広げられたそれに、ルーガス自身が目を白黒させていた。


「何々?何の話?店長また何か大事なことでも聞き逃してた?」

「あ…多分大丈夫です店長……ガルガストさんたちが何か暗躍していたみたいです」

『国王になった男の墓所なんか、どうせいつか荒らされんの必須じゃねーか!!色々仕込んでたんだよ俺らの方で!おそらく、そのホムンクルスがいう大元っていうのはルーガスの血液だと偽った琥珀の中身だ!!』

「で、それ何なの?」

『俺の血液!やべぇそのちびっこある意味俺(・)の(・)子(・)!』

「!?認知してないガルスの子!?」

『はっ倒すぞ!??』



 あーもう何で祟りがちゃんと発動しなかったかなー!!



『金の目って所でもう嫌な予感はしてたんだよなー!ちょっと改めて祟って来る』

「待て待て待てガルガスト神!!」

「ストップ!ガルス!ストーップ!!」

『あなたも動揺するのですね』

『当たり前だろ!?神が自分の子を創るのにどれだけ苦心してるか!お前だって知ってんだろ!?それがこれだぜ!?』

『あなた自分の子が欲しかったのですか!?』

『勝手に俺の子が創られてたから怒ってるんですけど!?悪い!??』


 人類はみな必死で首を振る。まあ、正論である。


『お前だって竜人の種欲しいけどあんたいらないとかよく言われてるだろ!?』

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


 しかもなぜか話の矛先がガレッドに。竜人あるあるではあるが、ここでその話はひどい。

 そして少年は自分もそんな種馬候補として該当していることに気が付いて胃をおさえた。まずい、これ自分も気づいたら子供がいるパターンいつか来る。


「でもホムンクルスと人類は違うよ?」


 そしてここで冷静に、ルーガスがどうしようもない現実を付きつけてきた。何を皆が慌てているのかわからないと首を傾げる男に、この場にいる皆が鎮まった。


『……お前が言うと重いなその言葉……』

『ルーガス……ここであなたがそれを言いますか……』

「何で二人ともそんな反応するのかなぁ!?繁殖できないホムンクルスを人外だって決定したの、ユグラスト神じゃん!!?」

『いやまあそうなんだけどよー…見ろよこの出来栄え……錬金術がこんな発展するとはユグラストの奴も思ってなかっただろ?』

「や、知ってたよ?」

『はい?』


 その返しはガルガストも予想外だった。


「だから、ホムンクルスが完全に人間と同じ姿にまで発展するって、知ってた」



 でも無理なんだって



「どう頑張った所で二世代目は“奇形児”、可能性ゼロ。魔動機器を使って創る……なんだっけ人工受精?そっちの方が可能性あるってレナードに言ってたよ?やっぱあいつも跡継ぎについていろいろ考えてたから」

『その方面からきたかー信憑性高いわー』

『………………そういえばありましたね……レナードが世継ぎについてユグラスト様に聞きに行ったことが……』


 叫びかけた同僚の口を、チャーリーとトムは必死に塞いだ。錬金術師でない考古学者が入り込んでいい領域では決してない。

 リオルはと言えばレイラの耳を塞ぐので精一杯だった。エルシーの耳までは不可能だったが、何やらショックを受けたのか顔が青い。仕方のない内容だが。

 話しているうちに怒りが萎えたらしい黒い竜人もぐったりとして元いたカウンター席に座り込んだ。もうこれ以上暴れる気はないらしい。これには決死の覚悟をしていたガレッド以外の軍人たちが胸をなでおろす。


「で、認知どうするの?」

「店長ぉぉぉぉ!!!!!!!!」


 ここでそこをまだ続けるルーガスにリオルがもはや泣きの入った叫びをしたが、とうのガルガストは脱力したままだが少年に向け手を振った。


『いーよいーよ坊主……こいつはそういう男だから……それに認知はなんだかんだ言って重要だ』

『さすがに私もウィリアムとの連絡を止めていましたが……口添えを求めますか?』

『そりゃあなー…次世代はないとはいえ、国父と契約していた俺のホムンクルスだし……今の国王も知っとかにゃならんだろ』

『ではそうします………………………それと』



 緘口令、今この場でしかせて頂きますが



『よろしですか、皆さん』



 反対意見は、なかった。


祝!20万字突破!!

後レナードの墓所のホムンクルスは、ラスカーは関わっていませんが他の神が協力してすごくよく似た品を収めていました。神工物です。論外です。

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