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パレード・オブ・ガレイゼル  作者: ドンガラガッシャン
第二章
16/24

リオルと黒い門~常識のない店長を添えて~

第一章の最後が加筆修正されているのでご注意ください。

 木神ウルドラ。それがラニ達と共に店に現れた、人の姿をした神の名だった。

 穏健派と言われる、人類に好意的な神の筆頭である。

 纏う精霊は色鮮やかな新緑と深緑で、風神のものとはまた違った目に優しい色合いである。爪も緑と黄緑で交互に染まり、翡翠のような瞳は輝いていて人ではないことを証明する。首周りに自身の刻印を刻んだ人体は、髪の先に若葉が生えていなければ……形の上では、樹木のような色合いの肌をしたただの人間ではあった。年恰好は三十半ばの、茶髪の大柄な大工のようでいて、お土産と薪の束を渡すしぐさは熊を連想させてくる。

 しかしその薪の樹こそ彼が創造したものにして、十三時間も燃焼を維持する偉大な木材である。冬国でウルドラの名が、主神に匹敵する信仰を集める由縁でもある。


「わーい、いつもありがとう!丁度切れかけてたんだよね、薪ストーブの薪!でもどしたの?」

『木造建築なら任せろ』


 うっきうきである。ストーダンも向こうにいると言う神が手に持つ木槌は日焼けがしてあり、よく使い込まれている。

 朝食をあやかりにやって来ていたリンレイ達世界樹の棘の関係者も、これには微妙な顔をした。


「………………………ここは物体保有神の見世物小屋なのか………………」

「ウルドラ神…………ホーロライ共和国の冬祭りはいいんですか………」

『うん、終わった。うん、棘(いばら)の戦士か。うん』


 よっす、オラ木神ウルドラ。無限の木材を提供するぞぅ


「あはははは」


 動じぬ店長に、店員たちは丸く集まって内緒話を始めてしまった。


「よくこんな状況で笑えるなウチの店長」

「さすが黒騎士、度胸が違う」

「大変だリオル。厄神でもガルガストでもない物体保有神が普通に店に来たぞ」

「やっぱりおかしいですよねこの状況!!」

「風神以外の神は、普通神殿付近にしか現れないはずよ」


 チャッレトが言うには、人体を得た神々が精霊を効率よく吸収できるようになるのは昨夜の話の通りである。だがその人体を手順に沿わずに破壊された場合、身の内に溜めこんでいた精霊が逆に放出されてしまい、弱体化する危険性がある。そのために神は普段出歩かないらしい。


「ウルドラ神はそれでもよく見かける神の一柱ね。でも特殊だから」


 ヨシツネやミトも説明に続いた。


「近代の神々は発達した錬金術を利用し、自分に合った人体を何体も合成して使い捨てる」


 ウルドラほどの神の魂を収める器など、そう簡単には存在しない。だったら自分たちで造ってしまおうと考えるのは、自明の理である。


「そのために契約者(コントラクター)の半数以上が錬金術師だといわれている」

「錬金術師と言えば必ずどこかの神に囲われているのが現状だ。で、厄神はそんな人材を手に入れることも出来ないんで、昔ながらの手っ取り早いやり方を続けてる。劣悪な環境下の罪人の肉体は、合成した人体より脆いから一日一回ぐらいの頻度で交換するけどな」

「……………北区の被災者が最近街で見かけないのは……」

「主神の加護を失うような事をした人間に同情は禁物だ。後のない人間の行いは、怖(・)い(・)ぞ(・)」


 ミトがそう締めくくり、仲良し店員たちの内緒話は終了した。

 モヤつくものが胸に残ったリオルだったが、目の前でくるくる踊っているウルドラを見てどうでもよくなった。

 何で踊るんだと、ツナとオリーブを挟んだサンドイッチを食べながらガルガストが尋ねてくれたが、暇だからと返された。また自由気ままな神が加わったものである。


『で、いいの?』

「さあ?遺跡の上に建築していいのか、聞いてみないと」

「問題ありません!!」

『だれ?』

「ガホット家当主、ヘンリーと申しますウルドラ神!」


 隣のラニが押しのけられて青筋を立てたが、中年太りの腹を抱える貴族の男は爛々と目を輝かせて名乗りあげた。

 地味な服装で、ちょっと質のいい服を着た平民にも見える出で立ちだ。だが胸元の黒い炎をモチーフにしたそれは、ガレイゼルの貴族である証。

 言い方は悪いが、貴族章を常日頃から着けねば見分けも付かない弱小貴族、といったところである。


「前に言っていた温泉の復興に頑張っていた貴族です。こんな朝っぱらから来るとは驚きましたが」

「あれ、トム君一人?しかも私服。エルシーちゃんは?」

「おはようございます、ルーガス店長。エルシー様は軍の会議に出席しているために今日はこちらに来れません。私も今日は有休をとってまいりました」


 ちょっともうそこの貴族をおさえられなかったので。


『食べていい?』

「……………ウルドラ神については、こちらも予想外でしたが……………」

「あ、あぁー…ウルドラ神!新しいサンドイッチがもうすぐ出来るので、少々お待ちください!!」


 ここの所連日で追加注文していたために、いつもの雑穀パンは原材料が品切れになってしまった。

 仕方なく今日は白い食パンのサンドイッチにしたのだが、レタスやハム、焼き上げたベーコン、それに半熟の甘い卵なども具材にして、かねがね好評を頂けたことにリオルたちも安堵した。

 特にツナとオリーブはキイチとガルガストによって三十個ほど既に消費されていたが、ウルドラの参戦によってまた同じぐらい消え去った。

 ツナ缶を大安売りしてくれた朝市の商人よ、ありがとう。賞味期限があと一ヶ月とか、この店には関係なかった。

 野菜とウインナーをふんだんに使ったスープも大鍋で作ったのだが、底をついた。

 パレード・オブ・ガレイゼルは、今日も大盛況である。


「で、ウルドラ神からお代頂くのか?」

「ガルガスト神も冒険者(ハンター)から巻き上げた金、全部店に入れたしなー………暫くは厄神に恐れをなして、金づるたちも来ないだろうけど………やっぱ客商売だし、な?」

「あ、ウルドラはいいよ。この店タダで作ってくれたから」

『けぷ』


 これは神からお勘定を頂かなくてよかったと喜べばいいのか、またとんでもない話が出てきた事に嘆けばいいのかわからなくなった店員たちの胸の内を、今日も店長は気付いてくれない。

 因みにリンレイもまだリオルの診察料代わりにタダ飯にありついているが、もうそろそろ払わなければいけない。

 明日から払おうかと、金のない貴族に棘のあるお言葉を突き刺す、敏腕銀行員のしっかりと主張する部位をボケっと眺めながら考えていると、口元をナプキンで拭ったウルドラが動き出した。


『じゃ、行く』

「!?お待ちになってくださいな神よ!!」

「行先は温泉街の跡地ですね!?お供させてください!!」

『ん。ルーガス、お昼』

「いーよー。何人いるの?」

『んー………………………百人?』


 その意味を、リオルたちはホワイトシチューを持って行ったときに理解した。











 ルーガスの店がある王都レナードの南東部。そこは波で削り取られた崖と、かつてそこに人が住んでいた痕跡を残す遺跡しかない、何もない地域(エリア)であった。

 一週間ほど続く初夏の嵐の期間さえ除けば王都の一部として有効活用できそうではあるのだが、その遺跡自体が問題だった。

 国父レナードとその騎士がいたく気に入った温泉の街なのである。残された記録と一致する箇所が未だ色濃く残っており、東地区の大鐘を象徴とする王立博物館や大学が、ある種の“聖地”としてそこを大切に残していた。

 いつか奇跡の効能があるという温泉を魔動科学の発達によって復活させられるかもしれないという考えもあった。

 まあその前に温泉は復活を遂げたのだが。


『んじゃ、開けるぞぅ』

「「「「「おおーーーー」」」」」


 先日の源泉の調査から水路のすべてが把握できた事により、木神ウルドラの掛け声の元、石材で出来た水門は開かれた。既に完全に修復されていた石の水路を勢いよく流れる温泉は圧巻で、トム同様に有休をとっていた私服のアレクセイとチャーリーも、興奮気味に木製の橋の上からその様子を眺めていた。

 昨日までは誰もいなかった遺跡群。そこは今、地属性の魔法が乱発され開拓されている最中であった。


「アレクセーイ。やっぱ来てたかー。おお、チャーリーも一緒か」

「トム!見てみろ凄い事になってるぞ!あのウルドラ神の刻印を持つ極東の土木集団が、開拓をしているんだ!出土するものも歴史的価値が計り知れない!」

「うん。そのウルドラ神ご所望のお昼を運んでるから、手伝って」

「わー。やっぱあの髪の毛から葉っぱ生やしてるのウルドラ神なんだー」

「隣にいる体に石が張り付いたようなあの方も石のストーダン神らしい」

「うわぁお………神々が直々に開発する温泉街か……そりゃ長年NOしか言わなかった東地区のお偉いさんたちも、さすがに何も言えないかー…………」


 刻印の恩恵を土木工事一点に集結させた彼ら「ウルドラ建設」の手は淀みなく、まず風化した橋の再建を午前中には完了してしまった。

 同時に建てている、拠点となる小屋の方も夕方には終わるらしい。明日から本格的に開発が進むだろう。

 よく働いた五十人ほどの男たちは、芽キャベツが大量に使われた鶏肉のホワイトシチューと、設営された調理場でミトたちが揚げている、朝方作ったばかりのパン粉をまぶされたコロッケの全てを瞬く間に消費した。明日からは自分達でこの調理場を使うから問題ないが、ウルドラ神はよろしく頼むという彼らの言葉に、アレクセイとチャーリーも何となく理由を察した。

 当のウルドラ神は一柱で鍋一つ分を完食し、ラニとヘンリーにこれから造る街の予想図である水彩画と設計図を見せてドヤ顔をしていた。


『実は前の温泉街も俺が創った』

「なんと!?」

「本当ですか!?」

『で、これが当時の設計図』

「「おおおおお!!」」


 盛り上がっている彼らを、アレクセイだけが羨ましそうに見つめていた。


「……エルシー様、私がこちらの方に加わりたいと言ったら許してくれるかなー…………」

「無理でしょ。疫病神衆(やくびょうしんしゅう)の中でも、あのシュレスト神に目を付けられてるんだよ?ここ」

「だよなー………何が出土するかなー……」

「……まあ、シュレスト神が警戒するものがこのガホット温泉地にあったから、あの厄神達が源泉にいた…とも、考えられるな」

「!?じゃあ、この開拓の警護を軍がするかもしれないな!通信士の配置も必須だろう!」


 トムの言葉に目に見えて歓喜するアレクセイだったが、チャーリーは空になった鍋を洗うリオルの方が心配だった。

 日常生活においてはオッドアイを隠す事もなくなり、店に集った冒険者(ハンター)達を、また別の角度から驚かせていた。彼らから情報は世界に流れ、現存する三人目のオッドアイとして注目されだしている。

 店長があのルーガスで、ガルガスト神の入り浸る店の店員だからこそ今は何ともないが、今後彼がどのような輩に目を付けられるのかわからない。


「……ここら辺も、人の出入りが激しくなるねー」

「むしろ北区の方が今は人がいないぞ……あっちは王立の病院を移築するらしい。生き残った娼館も殆ど無許可営業でな…おそらく、温泉街としてこっちが完成したら流れてくる」

「あー………そりゃそーだよねー………」

「うむ、元々北区の娼館街は温泉が枯れて行き場を失った、ガホットの宿屋が始まりだったからな」

「あ、こっちは歴史的観点からだ」

「となると、よ(・)ろ(・)し(・)く(・)な(・)い(・)輩(・)の出入りも激しくなるというわけだ」

「………ガレッド少佐の十三中隊は、もうここが管轄って感じだよな?ハロー・ハローはどう思う?」

「本来は通信魔動機器の開発が主目的な技術屋だからな。今までは改良した魔動機器の試験的運用とかで、無理やり関われていた」


 だが、それだけではこれからは難しいというトムの言葉は正しい。所詮戦闘もこなせない通信魔法だけが取り柄の魔法兵である。リオルと一緒に鍋の片付けをするミトやヨシツネと比べ、肉弾戦も憲兵と同等、下手をすればそれ以下である。

 というより、自分の身が可愛いのならばすぐに降りるべき案件である。


「断固拒否する」

「キャラぶれ激しいよアレクセイ………」

「俺もリード家としては、ルーガス店長とこれからも付き合っていきたい所だ。チャーリーはどうする?」

「んー俺ー?まだまだ退役する予定もないけど、ハロー・ハローはトムのおかげで居心地いいし。エルシー中佐についていくよー?ユリアもそう言うだろうけど」

「………ユリアはもともとルイ家の護衛的な家柄だからな………」

「ん?んんん?」


 引っかかりを覚えたが、それが何かわからないアレクセイにはそのままでいてほしいと二人は思った。

 実は隣の同僚は国王陛下の隠し子で、第三妃アレクシアの件でゴダゴダしている城の中に投げ込まれたらとんでもない事になる火薬品だと知ったら、きっとアレクセイは動揺を隠せない。


「これからもよろしくアレクセイ」

「お前はそのままでいてくれアレクセイ」

「お前ら俺のこと馬鹿にしてないか?」


 してないしてないと、二人は同時に答えてやった。


『で、これがまだ地に埋まってるユグラスト神の神殿まで通じる通路』

「「「ちょっと待てい」」」


 そして聞こえてきたウルドラ神の説明は、聞き捨てならない代物だった。











 ―――え、ユグラスト神の神殿?あるよ、知らない?

 ―――知らないですよ!?そんな話何処にも残っていませんでしたよ!?

 ―――うっそマジで?結構当たり前だったのに

 ―――ねー


 ガレイゼル軍の特例会議に設置された通信魔動機器は、そんな人と神々の認識の違いを映し出していた。

 急遽設置することになり、疲れた顔をしたユリアや他のハロー・ハローのメンバーが操作する機器はエルシーの手が翳(かざ)されたガラス版と繋がり、遺跡群のマッピングや現地にいるメンバーの個人情報を宙に表示した。

 軍人たちが常時携帯する武器系統やルーガスのネクタイリング、そしてリオルの鍵のデータが、マッピングデータ上に彼らを点として表示する。リンレイとキイチもである。

 報告は来ていたが実際に目にするのは初めてだった上層部も、これには感嘆の声をあげ覗き込む。


 また予算がぁと悲嘆にくれる青いネクタイをした軍人の声もしたが、ハロー・ハローは全力でその声を聞かなかったことにした。ぐぬぬと唸る魔動車部門のツナギの老人に至っては、視界に入れない努力も必要になったが、頑張った。

 だって自分たちも給料上げてほしいもん。

 そしてトムの報告は続いた。向こうで動きがあったらしい。


 ―――え、もう?報告します!今ストーダン神のご協力の下、ユグラスト神の神殿門に通じる通路が発見されました!!


 黒板のように壁に取り付けられたガラス版には、ストーダン神が作り出した地下に通じる階段と、その奥の黒い扉が日に照らされている様を、中央司令部の一室にも見せつけた。


 ―――うぇ、ガルガンの扉


 そしてウルドラ神の呟きもしっかり拾った。伝説の神喰らいの竜の名がこんな所で出された意味は、扉の色からして皆が察した。マッピングデータ上でも、扉はリオルの鍵と同じ成分であると認識された。頑丈な鉄製の扉かと思えば、とんでもない代物である。迂闊に触っていいものではない。


 ―――あれはお前以外の生命を拒むぞ、ルーガス

 ―――そんな事ないよストーダン、リオルとガルガストも開けられるよ

 ―――うぇあ!!?

 ―――それもそうだな、おい、坊主。物は試しだ、行ってこい

 ―――ガルガストさん!?

 ―――大丈夫大丈夫ーほらリオル、ファイト!

 ―――あっぶな!!?


 階段の方へ問答無用で押された少年は、転げ落ちる恐怖を抱いたため扉の前に移動(テレポート)した。それさえも会議室の軍人たちに衝撃を与えたが、上にいる大人たちに危ないじゃないですかと叫ぶリオルは、その背をしっかりと扉に預けて態勢を支えていた。

 そのおどろおどろしい扉に触れても、何ともないらしい。


 ―――だってリオル鍵持ってるじゃーん。小さいからその扉ほど危なくはないけど

 ―――これそういう鍵なんですか!?そしてやっぱりこの扉危険じゃないですかコラ!!

 ―――オッドアイが何言ってやがる。とにかくその鍵はガルガンで出来た扉の全部を開けられるぞー

 ―――もう開けるの決定事項なんですか!?


「それは待っていただけないだろうか、神々よ」

 ―――うん、誰だ?

「ガレイスト軍元(・)帥(・)、ガロール・ガレイゼルであります」

 ―――ああ、ウィリアムと王座を押し付けあった王族の生き残りの

 ―――ああ、ジャンケンで勝って元帥の方になった奴


 因みにこの二人は異母兄弟である。先王が崩御され継承権第一だった皇太子が当然即位したのだが、戴冠の儀の最中に悲劇が起こった。

 緘口令どころか、その場にいた者全てが死に絶えたために状況を知る者はいない。ただシュレスト神の毒霧による凶行であったことだけはわかっている。

 そう言った理由で、せっかく王位継承権を放棄して世界樹の棘(いばら)に所属し自由気ままに過ごしていた二人だったが、今ではこのように祖国のために心血を注ぐ毎日である。

 今もシュレスト神と関与する厄神まで王都に現れた事態における、緊急対策の会議だからこそガロールも出席していたが、まさかこのように上位の神と言葉を交わす役になるとは思いもしなかった。


 ―――シュレストの奴、ホントそういうの好きだよな

 ―――ごめんね元帥君。次あいつに会ったら、今(・)度(・)こ(・)そ(・)し(・)っ(・)か(・)り(・)殺(・)す(・)ね(・)!!

「………………………宜しくお願い致します」


 元帥も戸惑うその感性。固唾をのんで見守っていた軍人たちも、戸惑いを隠せない。黒騎士ってこんな人だったんだと、憧れていた何人かもショックを受けた。


 ―――で、入っていい?

 ―――待ってやれよウルドラ。つーか何でそんな入りたがってんだ?

 ―――入った事ない。見たい

 ―――ただの好奇心


 野次馬根性なだけだった。はた迷惑なその行為は、相手が神ゆえにそこらの人類には止めることができない。今会議室にいる者の中でも、それは元帥のみと限られていた。


「誠に申し訳ありませんウルドラ神。我が国の国王陛下がこちらに到着するまで今しばらくお時間をくださいませ」

「問題ない。今到着した」

『どういう事ですかルーガス!ガルガスト!!かの方の神域に続く門は、今はもうないはずですよ!?』

 ―――あれ、ラスカー知らない?この神殿について

 ―――ガ(・)ル(・)ガ(・)ン(・)竜(・)の(・)保(・)管(・)庫(・)だ(・)ぜ(・)、この先の異空間

 ―――なんだ。じゃ、入らない


 あっさり興味を失ったウルドラはストーダンと共にその場を後にした。待ってましたとラニとヘンリーが話の続きを強請ったが、ガルガスト達はじゃあ入ろうぜと扉に向かった。


 ―――おう、坊主。鍵

 ―――待って待って待ってください。俺に状況把握する時間をください


 よく言った少年と、軍上層部は心の中で褒め称えた。

 ウィリアムも自分の肩に乗り毛を逆立てる精霊獣に問いかけた。


「………………………ラスカー、今のはどういう意味だ?」

『……ユグラスト神は今も死んでいます……だからこそあの方の神殿は今の時代にはありません……それだけです』

「以前あの黒騎士が、ユグラスト神の復活についてお前に尋ねたらしいな」

『今は何も言えません』

「………………………まあよい……聞こえるか、ルーガス殿」

 ―――あれ、その声ウィリアム?洋服ありがとう!でもすごく貴族らしい華美な奴だから着る機会ないかな!!

「そこの温泉街復興についていずれ登城してもらうので、その時に着用すればよい」

 ―――ええええええええ!!!!!!!!!

「そ(・)ん(・)な(・)事(・)よ(・)り(・)も(・)、である。邪竜ガルガンの保管庫といったな………なぜそんな所にある」


 ガレイゼル国の王として、ウィリアムは躊躇なく疑問を投げかけた。肩に乗せたラスカーの存在がまた後押ししてくれていて、まずは遺跡群の中でも外れの方…ルーガスの店がある高台の崖下という場所について問いかけた。


 ―――や、単にここでガルガン仕留めただけだけど


 返答は至ってシンプルなものだった。思わず理解するための時間を有するほどである。

 神殿の事を知らなかったラスカーが今度は問いかけた。


『そういえば………確かにここでとは言っておりましたね。てっきり遺体は他に移動したかと思いましたが………まさかものぐさで?ここにずっと置いていたと?』

 ―――えええーだって動かすの面倒じゃん。ガルガンホント大きいんだよ?半島だった極東と同じサイズだよ?

「なるほど、よくわかった」


 向こうで歴史的重大発見と叫ぶ声がした。比較的繊細な神経を持つ技術第二部門の主任が、泡を吹いて倒れたのを部下たちが受け止めたが、他も似たような胸の内である。



 こいつ今さらっととんでもない事言い切ったぞ



 これ以上の掘り下げは不要と判断し、ウィリアムは次に移った。


「………その扉を解放し、そしてどうするつもりだ」

 ―――殺した神々から吸収した黒い精霊の浄化だよ?その術式も中にあるんだ

 ―――ユグラスト大神殿にあるのはここの奴のコピーだ。なんだ、伝わってねーのかキイチ

 ―――我々でさえ初耳だ!!なんでこんな所にそれがある!?

 ―――だってガルガンの遺体に刻んでるんだよ?おっかなくて誰も何もできないじゃん!


 うん、確かに。

 そんな術式を目の敵にする厄神達にとって、そこは完全に鬼門である。

 理解し、時間をかけて納得しようとする王族たちとはまた違った疑問が生まれたリオルが、タイミングがいいと見て口を挟んだ。


 ―――………黒い精霊を店長の大剣(クレイモア)が吸収していたの、気のせいではなかったんですね

 ―――ないない、僕(・)の(・)大(・)事(・)な(・)お(・)仕(・)事(・)。やんないと復活したユグラスト神にどんな事されるか分かんないから、店長もこうやって頑張ってるの

 ―――坊主にはそういった役割、課せられてねーのか?

 ―――リオルは生き残ること最優先?よく見える事が重要だし………エルシーちゃんが通信魔法の核になっているみたいな?

『ルーガス、それ以上はお止めなさい』

 ―――はーい


 さすがにラスカーから情報規制が入ってしまった。まあ十分な情報が込められていたので陛下たちには不満はない。少年が必死に話題を掘り下げたい心情を我慢しているが、それは軍部も流すことにした。

 となると、是非とも扉を開放してもらわねばならない。


 黒い精霊の浄化。

 世界でもただ一つ、大陸の北の果て、ホーロライ山脈のユグラスト大神殿にしかない巨大な魔法陣は、常に陣の上の大気中の黒い精霊を浄化し、無色無害な魔力に変換して世に解き放つ。

 ユグラスト大神殿には連日連夜黒い精霊を詰め込まれた水晶が持ち込まれ、浄化の陣の上にて色を失い、神殿管理の精霊魔法のエネルギー源として有効活用されている。

 それと同じものが、この大陸の中でも南東に位置するガレイゼル帝国の中にも存在する。

 沈黙を貫いていた軍人たちも、これには沸きだった。


「ホーロライ共和国へ、毎年どれほどの黒い精霊を運んでいたことか!」

「ここに本当にその魔法陣があるというならば、バカ高いあの運搬費が消え去るぞ!!」

「陛下、元帥!これはもう扉を解放するべきです!!」

「それはわかるが……ルーガス殿」

 ―――うん?

「どう考えてもそ(・)れ(・)が(・)厄(・)神(・)達(・)の(・)真(・)の(・)目(・)的(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)。なぜ思いつかなかった」


 御尤もな意見である。


 ―――………え゛、ガルガンの魔法陣狙ってたの?馬鹿なの?

 ―――まず扉に触れたら普通は死ぬぜ?


 返答もまあ、解らなくもない意見であったために、皆も一応納得した。

 俺も死ぬ可能性を考えてくださいと少年が叫んだが、だからそこはオッドアイだから大丈夫なんだってと言われてしまい、むくれてしまった。


 ―――とにかく黒い精霊を浄化したいから、リオルよろしくー

 ―――もう開けていいだろ?

「仔細ない。ラスカーはどうだ?」

『私も異議はありません』


 そういうわけで、ルーガスやガルガスト、そして興奮冷めやらぬアレクセイとチャーリーやトムが見守る中。

 神殿の扉としてふさわしい巨大な扉は、何千年という月日を経て久しぶりに解き放たれた。










 照明石の淡い光に包まれた幻想的な空間だった。そこに、恐ろしい竜の頭部は存在していた。

 骨まで黒く、肉や眼光はもう存在していないというのにアギトを開ける邪竜の亡骸は、横穴のように奥に続くその異空間に、幾重もの鎖に繋がれ存在していた。

 扉の先にあった通路は、その顔面に創られた展望台にリオルたちを誘った。すぐ目の前に現れた邪竜の成れの果てに、画面越しとはいえウィリアムとガロールは息をのんだ。現地の方もちょっとした混乱が生まれていた。

 キイチの顔面にシャラがへばり付きべそをかきだしたのだが、キイチ自身がこれを力任せに引き剝がし、懐に押し込んだ。言葉では伝わりきれていなかった黒竜の規模(スケール)には、アレクセイ達も絶句せざるをえなかった。とにかくでかい。それだけしか言えない。

 目的の魔法陣はその額に刻まれていた。白い光を放つそれは大神殿同様に世界最大規模を誇るが、ガルガンが大きすぎて逆に小さく感じられた。


 ―――なもんで。ここで転移魔法(テレポート)使うのは距離感掴めなくて自殺行為だったから、転移門設置しちゃった♡

 ―――しかもこれ世界最古

 ―――転移門!!いつかの時代の疫病神衆(やくびょうしんしゅう)によって技術が廃れてしまった移動魔法の集大成!!現存するものがまだあった!!


 また思わぬ収穫である。技術部門が我先にと収集されるデータにへ(・)ば(・)り(・)つ(・)い(・)た(・)が、ルーガスはさっさとその門をくぐり、魔法陣上空に浮遊するもう一つの展望台にたどり着いた。

 その小脇には、リオルが抱え込まれていた。


 ―――店長!なぜ俺もですか!?

 ―――ガルガンの上だもん。トム君とかうっかり落下したら大変じゃん



 アレクセイ君もこっちに来るんなら自己責任だよ~

 わかりました!そっちには行きません!!



「だから!なんで俺はこっちに連れて来たんですか!?」

「うん、なんかここの魔法陣、軍の人たちが使う気満々みたいだから」

『どんだけ危ねぇのかデモンストレーションってか』

「なんかウルドラが外に、黒い精霊にまみれたば(・)っ(・)ち(・)い(・)のいたからよろしくってテレパスが。あ、来たみたい」

『ん』


 ムスリとしたウルドラは、自分の植物の蔦で捕獲したそれを引きずって現れた。






 レナードだった。






『………………………は?』

「何でレナード?」

「国父レナード!?ガルガストさんが燃やしたはずじゃあ!?」


 たまらず他の面子も転移門のこちら側にやってきて、捕獲されたレナードらしきものを検分し始めた。蔦を外そうと無表情ながら躍起になっているようだが、体術と防御魔法に特化しただけの人間だったレナードでは蔦から逃れるすべはない。

 そうこうしているうちに、リンレイが目的のものを右手首の内側に発見した。


「あった!よくある文字と数字の区別番号!」

「やはりな………錬金術によって大量生産されたものの一つか」

『ああ、つまりホムンクルスか』

『んじゃ』

『おう』


 届けてくれたウルドラは、用は済んだとばかりにさっさと戻ってしまった。ここ数日の間で神々の奇行には慣れたものだと思っていたトムたちも、呆然と見送るしかなかった。

 こんなものを届けられたルーガスたちも次の行動は早かった。


「じゃ、ガルスそっち持って」

『おう』

「……何してるんですか店長」

「え、このまま下に」

「落とす気かよ!?国父レナードの形してんのにかよ!?」


 さすがのリンレイも待ったをかける非道振りである。戸惑う可愛げも何もない。作業の一種として彼らは淡々とこなそうとしていた。キイチもうわぁと顔を歪ませ、少年はドン引きである。

 通信越しの軍人たちも制止する声が上がり、国王陛下も頭を抱えた。ガロールも、親友と同じ形をしたものに対する彼らの反応に天を仰いでしまうばかり。

 そんな反応をされた神はというと、解せぬとばかりの態度である。


『たかが偽物だろぉ?こいつの生前にも色々見たっつの』

「え、リン君たち自分の姿した何かに襲われたことないの?一度も?」

「「………………………」」

「お二人ともぉ!?」


 すまんとリンレイは、少年に向けて謝った。

 否定できなかった。


『じゃ、落とすぞー』

「えーい☆」

「ああああああああああ!!!!!」


 まだ他にも調べたいことは色々あったのだが、誰も彼らを止められなかった。

 500メートル先の魔法陣まで、蔦に捕らわれたホムンクルスは抵抗も無意味に落下した。その間に黒い精霊は体内から放出され、無色の魔力となり世に溶け込んだ。後には、落下する人型の人形のみ。







「とまあ、このように標高は高いので、ご注意ください!」








 砕け散ったものを指さし、ルーガスは笑顔でそれを言い切った。


ルーガス「え、リオルだけ転移門の向こうに連れてった理由?リオルはテレポートできるじゃん」

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