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目の前には魔王がいた  作者: 八雲紅葉
新世界は異世界
28/38

~契約~

 大魔王様の城から先に三人で帰った俺達はすぐに他の城主への挨拶のための手土産を準備する。もちろん手作りのお菓子だ。

 あまり難しくなくて、かといって安物では駄目だ。と、いうことで今日はケーキを1ホール作ることにした。

「ここから一番近い城にいる奴は甘いものが好きでイチゴやラズベリーなどのベリー系が好きだぞ」

 と、いうアドバイスを嫁からいただいたのでベリーケーキを作ってみるとしよう。


 普通にケーキの生地にイチゴとブルーベリーの果汁を加える。果肉は焼くときに邪魔になるので入れない。その生地をオーブンで焼いて円形のスポンジを焼きあげる。

 生クリームは白いまま。あの純白は今回のケーキには必要になる。

 そして焼きあがったスポンジを3等分し、間にホイップした生クリームを地面と水平になるように丁寧にパレットナイフを使って塗って生クリームの上に縦に二等分したイチゴを乗せていき、その上にまたホイップクリームを塗っていく。


 その上にスポンジ生地、生クリーム、イチゴ、生クリームの順で重ねていく。そして最後のスポンジを重ねたら今度は横もクリームで塗っていく。もちろんスポンジの上にも薄く、生地が見えない程度に塗っていく。

 塗りが終わったら後は水が張っている円形の器の中心に水滴が垂れた時に出来る波紋のように綺麗に果物を飾っていく。内側から小粒のブルーベリー、ラズベリー、大粒のブルーベリー、そして外側に大粒のイチゴを乗せればベリーケーキの完成だ。

 ちょっと大きすぎたのはこれからも宜しくお願いします。ということにしておこう。でも流石に6号は大きすぎた感がある。18cmのケーキを一人で食べるのは甘党の俺でさえ見ただけで胸やけを起こしそうになる。

 もちろんこのケーキを作ったのは俺とココ。シリルはその俺達を見たいるだけだった。


「それじゃ、行こうか。ミランダで行けばそんなに時間はかからないんだろ?」

「あぁ。1時間ぐらいだと思う」

 流石に今作ったケーキを持って何日間も旅をするなんてことは出来ない。だから今作ったケーキは冷蔵庫の中で保存しておく。たった一時間でも常温で置いておけばまずくなる。

「それじゃあ4人で行くとしましょうか」

 城の外で待っていたミランダの背中に乗って俺達は一時間かけて別の城に向かう。

「私も飛龍族の中でも特殊でな、甘党なんだ。だから私にもケーキをくれると嬉しいんだが、どうかな?」

「んじゃ、次の機会でも良いか? 食べたいケーキがあるなら作ってみるが」

 初めてミランダの背中に乗るココは興奮して地面を見て騒いでいる。そのココを見てシリルも会話をしようとしているが、テンションの上がり過ぎたココは自分の世界に入っていて聞く耳を持っていない。シリルの株がどんどん下がっているように見える。


「そうだな。私はどうも酸っぱい果実は好みじゃないんだ。だから甘いモノだけで作ってくれないか」

「あい。分かった。次会う時までに作ってみるから。期待して待ってろよ」

 甘いものだけ。だから今日作ったベリー系は使えそうにない。でも甘いものだけだったらバナナやチョコなど色々使える。チョコレートケーキなんかはミランダの好みと合うし作ってみよう。

「雅彦~。私にもケーキを作って欲しいな~。私は雅彦が作ってくれたものなら何でも美味しいから好きだぞ」

 ココと会話することをやめてしまったシリルは俺のそばまですり寄って来た。ちょっと泣きそうな顔をしている。

 愛の告白。というわけではないが、好きという単語で俺の心が跳ねる。嬉しいものだ。誰かから愛されるのは。

「分かった。分かった。お前にも作ってやるから」

「それよりも見えてきたよ。あれがマチルダが住む城だよ」

 ミランダの合図で俺とココは目を細めて出来るだけ遠くを見つめる。すると、外観。すべて青の城が見えてくる。青というより、空色と言った方が良いかもしれない。少し白が混じったような青。とても綺麗だ。

 そういえば自分がこれから治める城の外壁やら何やらをじっくりと見たことが無い事に気がついた。どんなふうなのかしっかりと見ておく必要があるな。

 そしてミランダはゆっくりと地面に着陸する。

「ありがとうミランダ。帰りはいつになるかわからないし、一度訪れた場所なら帰れる魔法があるから後は大丈夫だよ」

 自分で言っていてなんと便利な魔法だと思う。某RPGの移動手段。かなりの時間短縮が出来て効率の良い冒険が出来ているんだなと感じた。

「そうか。それじゃ。ケーキの事は期待しておくからな!」

 ミランダは強靭な1対の翼を上下にはばたかせてゆっくりと離陸していき、そして瞬く間に帰って行った。本当に早いんだなぁと思う。

「そんじゃ俺もすぐ戻るから少し待っててくれ」

 保存してあるケーキを取りに行くためにも俺は今立っている場所を頭の中に叩き込む。そうすればまたミランダを呼ぶ必要があるからだ。

 この場所を記憶した俺はすぐに城に戻る。そしてケーキをしまってある箱を手にして移動。

「ただいま。それじゃ挨拶に行こうか」


 俺達3人はマチルダという城主がいる城の領域に足を踏み入れた。

「誰だお前達は!」

 もちろん踏み入れようとする俺達を呼びとめる衛兵。うちの兵士よりも屈強そうな体格をしている。こんなのと戦争とかは嫌だなぁ。

「俺は雅彦。城主マチルダとの面会を希望する」

「私はシリル。魔王族の者だ。マチルダとは友人だと私は思っているがここを通してはくれぬか?」

 俺とシリルは名乗った。すると、兵士の一人がシリルの事を知っているようで無事に敷地に入ることが出来た。

 城の中は俺達が住む城とは全くの別物。当たり前なのだが。色合いも外が空色だったが、中は白を基調にしている。通路の真ん中には赤い線が入っている。

 俺達は兵士の案内されるまま城の中を歩いた。すると、色々金がかかっていそうな扉の前で兵士が止まる。どうやらここにマチルダという城主がいるようだ。

「私はこれにて」と、兵士は立ち去る。

 俺は3回トビラをノックする。

「入っていいぞ~」

 と、なんとも間の抜けた少女の声が聞こえる。


「失礼しまーす」

 俺達三人は扉の中に入る。

 その部屋は何とも豪華。広いし、金がかかっていそうな装飾。富豪だと一瞬で理解できるほどの部屋だ。

 当のマチルダは普通の人間に見えるほど外観はいたって普通だ。空色の髪をポニーテールにしていて、肌はシリルと同じぐらい白い。頭から角なんて生えているわけではないしか弱そうな女の子だ。

「おぉ、なんだシリルじゃないか。今日は一体どうしたんだ?」

「いや、色々と話したいことがあってな。まず、隣にいる男が私の夫だ。手紙では何回か話題にした雅彦だ」

 手紙の話題にされたいたのか。俺は。それにしても二人の表情を見てわかったことと言えば、本当に楽しそうに喋るんだな。と。そう思わざるをえないほど笑顔で会話をしだす二人なのだ。

「まぁまぁ。まずはそこに座ってくれ。立ち話させるわけにはいかないしな」

 と、マチルダは俺達の前にあるソファを指さす。そのソファは何の毛かわからないが、とても高級そうなものを使っているのだと思うぐらいふわふわしているように見える。そして金も使っているようでピカピカに光っている。なんだか座るのが心苦しいというか、座るのに躊躇うソファだ。

 だが、座ってしまえばこっちのものだ。俺は戸惑いを見せないようにゆっくりと深々と腰掛ける。俺の後に続いて右隣にシリル。左隣にココが座る。

 ココは俺と同じ気持ちなのだろう。躊躇いがちに腰をかけた。シリルは自分のソファだと言わんばかりに何食わぬ顔で腰掛ける。なんだかすごいな。と感心する。

「はじめまして。シリルの夫の雅彦です。今日はシリルに替わって新しく城主になった挨拶として訪れさせていただきました。これはシリルから聞いて好物であるベリーをふんだんに使ったケーキです。お口に合えば嬉しいのですが」

 手に持っているケーキをテーブルの上に置く。どんなケーキなのかを知ってもらうために箱を開けて全貌を見せる。

 興味を示してくれたようで彼女は視線がケーキにくぎ付けになっている。


「そうか。ありがとう。後から食べてみるとしよう。それで、もう一人は誰だ?」

「彼女はココと言います。カロニチンで宿屋と酒場を一人で切り盛りしているオーナーでございます。今は訳あって城の料理長として働いています」

 隣にいるココは俺の話を聞いて抗議を申し立てたい。という表情で俺を見るが、俺が視線をそらすと心を決めたようで話だす。

「はじめまして。ココと申します。雅彦さんに命を助けていただいて、その恩をお返したくてお手伝いをさせていただいております」

 自己紹介がすんでペコリと頭を下げた後、元の体勢に戻ると、後で言いたいことがあります。とアイコンタクトで訴えてきた。そして俺は何食わぬ顔で視線をマチルダに戻した。

「そうか。なかなか面白いメンバーじゃないか。それにしても城主変更か。一体何をしたんだシリル?」

「それは、その、なんだ。ちょと経営が困難になってしまってだな」

 年に金貨166枚ぐらいの赤字を出していたなんて口が裂けても言えないだろう。いくら友達だと言っても。

「そうか。それで、雅彦。お前は今日一体どんな用で来たんだ? まさか本気でただ挨拶に来たわけではあるまい?」

 暗い緑色の目が急に鋭るどくなり、俺を見るマチルダ。やはりちゃんとした城主なのだ。相手の腹の中を探る視線は相手を怯ませる。


「……確かに。挨拶程度だったらケーキを渡してすぐにでも帰るさ。俺にはやることがありすぎるからな」

「ほう。じゃあ今日は挨拶だけ。というわけじゃないんだな。どんな理由があるんだ?」

 俺は怯んだが、それをマチルダに悟らせないためにも必死で無表情を装った。

 そして彼女はこの舌戦と呼ぶにはあまりにもお粗末な会話だが、楽しんでいるようで顔は笑っている。だが、ただ普通に笑っているわけではない。卑しい笑いだ。ニヤニヤと相手を追い詰めようとする笑み。

「俺達が商品を作るための材料を格安で売ってもらいたい」

「商売か。何が欲しいんだ? モノによってこっちでも取り扱えないモノがあるからな」

 乗って来た。シリルの情報ではマチルダは流通網を沢山持っているらしい。

 それを俺達が利用できるのならば使わない手はない。むしろ使わなければ赤字削減なんて出来たもんじゃない。

「とりあえず果物。桃とかイチゴとか。とにかく安く。そしてそれをこっちで加工して売る。商場はもう決まっている。街で商売をする」

 カロニチンでシリルに作ってくれと頼まれた桃のハチミツ漬け。あれを作って販売するのはあまり許されるようなことではないが、簡単な所でケーキやクッキーなどの焼き菓子を販売すれば少しでも黒字に近づけるだろう。

「商売ねぇ。どうせ流通網の事はシリルに聞いたんでしょ? 頼めば何とかなると思ったんでしょ? でもね。残念。私は利益にならないようなことは一切しない。……とは限らないけれどもそれでも出来るだけ利益を追求したいの」

 商売人では普通の考えだと思う。自分の利益の追求。それが商売人の考えのいきあたる終着点なのだから。無償の商売なんてものはない。すべては利益のためだ。誰かがそんなことを言ったような気がする。

「俺の作ったものが信用できないというのならば、そのケーキを食べてくれ。そうすればきっと信用してくれるだろう。それは俺が自信を持って送り出せる実力の結晶だ」

 ただの挨拶の手土産としてケーキを作ったわけではない。こういうことがあるだろうと予想をしてケーキを作った。


「それじゃいただくけど、これ、アンタが作ったの? 隣の料理長じゃなくて?」

「私はそれに関しては一切関与していません。すべて雅彦さんが作り上げたものでございます」

 マチルダは俺が作った。ということが気になっているようだが、ココがフォローをしてくれた。一応彼女も手伝ってはくれたが。

「そう。ならばいただくとするわ。でも、ナイフやお皿とかが無いわ」

 そう言ってマチルダはベルを鳴らす。すると、一人のメイド服姿の女性が部屋に入って来た。

「ナイフとお皿、それとフォークを持ってきてくれないかしら」

「あ、ナイフは大丈夫ですよ。俺が切るんで」

 俺は糸を出して綺麗に8等分に切り分ける。もちろん不可視の糸で。そうすればマチルダや今来たメイドは何が起こっているのかわからないだろうから。

 案の定何もしないで切れたケーキを見て二人は驚いている。

「……元から切れていたというわけじゃないだろうね? ケーキに触らないで切るなんてそれしか考えられない」

「それはさっきご自分で確認いたしましたよね? しっかりとどのようなケーキなのかを確認時に」

 俺の反論にうぐっ! と、言葉を詰まらせるマチルダ。この舌戦は俺の勝利だ。


「……皿とフォークだ。なるべく早くな」

 命令を聞いたメイドはすぐに部屋を出て行き、そしてすぐに人数分の皿とフォークを持ってきた。

「それじゃまたマジックをいたしますね。今度は勝手に切れたケーキが、なんと。また勝手に宙に浮くというマジックを」

 そして俺はまた糸を操ってケーキを動かして皆の皿の上に運んだ。細い糸でケーキを持ちあげればケーキ自体の重さで綺麗に切れてしまうので、細い糸で編んだ皿に乗せて移動させたのが今回のマジックのタネだ。

 また不可解な現象を目の当たりにして目を点にしてケーキを見ている。もちろん俺の手は膝の上に置いたままなので、俺が何かをしている。までは分かっているのだろうが、どうしてこういうことが出来るのだろう? と悩んでいるに違いない。

 もちろんシリルやココはどんなことをしているのかを理解している。それと俺の事を正確が悪い奴だなぁなんて思っているかもしれない。

「……おい。私の流通網を使わせてやらないぞ?」

 と、反撃に来たマチルダ。流通網が使えないとなると困るのはこっちなので、ネタバラシをする。不可視の呪文と解く。そして糸を分かりやすくするために真っ赤に染め上げる。

 この状況を一目で理解したマチルダが俺を睨む。


「……なかなか楽しいショーだったよ。ショーは楽しかったが、そのショーで盛り上がった空気を料理で台無しにならないことを祈るんだな」

 切り分けられたケーキの鋭角の方からフォークで切って一口。すると、それからワンカットを食べきるまで一言も発しないで食べ続けた。その時間およそ30秒。早いってレベルじゃない。

「……それで、何がどのくらいの量で。どのくらいの値段で欲しいんだ?」

 味も認めてくれたのか、流通網を使わせてくれるようだ。美味しく食べてくれて何よりだ。

「出来るだけ多くて安く。でも質は落としたくない」

「それはなかなか難しい注文だな。こっちの利益率も考えて欲しいものだ」

「そっちは最低でもどれくらいの利益率が欲しいんだ?」

 ここは出来るだけ値切りたい。商品の買い付けで利益率が大幅に変わるんだ。なるべく原価を下げて少しでも利益を上げて商売をしたいところだ。

「最低でも6%は欲しい。そうじゃなきゃやっていられない。普通だったら20%ぐらいの儲けでやっているんだから」

「じゃあその6%で良いか?」

「わかったよ。こんな美味しいものを出されて相手の都合通りに進むのは商売人としてはやってはいけないことだが、仕方がない。それほどにまでこの味を私が欲しがっている」

 そして2個目のケーキを自分の皿に運び出すマチルダ。


「月一程度でケーキを作ってやろうか? 色々と注文を受けるが」

「そうだな。6%の利益でやるんだ。それぐらいの事はしてくれるよな? あ、ちょっと待て。週1でくれないか? 月1ならば8%の計算にする」

 ケーキ1ホールでこの契約が続いてくれるのならば嬉しい限りだ。

 だが、週1でケーキ1ホール。かなりのカロリーを接種するようになるが大丈夫だろうか? 体のラインが細く見える彼女だが、ケーキの食べ過ぎで横に大きくならなければ良いが。

「あぁ。わかった、それじゃこれからよろしく頼むぜ」

「あぁ。じゃあこれに拇印を押してくれ」

 黒いインクを羽ペンにつけて紙にサラサラと文字を書いている。文字は読めないが、意味はわかる。ちゃんと文字を勉強した方が良いかもしれない。

 内容は自社計算の利益率6%で俺に売るという項目と、週1でマチルダが望むケーキを作るという2項目だけだ。

 問題が無いようなので親指にインクをつけて紙に指を押し付ける。綺麗に俺の指紋が紙に残る。

「これで契約が成立した。後日欲しいものを手紙で教えてくれ。そうすれば城に商品が届くようにする。代金はそこで払ってもらうからそのつもりでな」

「了解した」

 3個目のケーキを食べながら契約書を机の中にしまうマチルダ。せめてそれぐらいは食べながらじゃなくても良いだろうと思う。

 そして俺。いや、俺達は借金返済の第一歩を歩むことが出来た。


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