~交代~
俺は見慣れた兵士達と戦った。もちろん本気でだ。1対1での戦いでは負ける事はなかった。どの相手でも俺の圧勝。負けた相手には「情はないのか?」とか言われたが、情はある。だが、それとこれとは話が別なのだ。
兵士達には恨まれても良かった。シリルだけの原因とは言わないが、主だった原因はシリルの行動からなのだから。
「終わったよ。大魔王様。俺の圧勝。この結果が欲しかったんだろ?」
戦いを見ていた大魔王のところまで歩いて行く。彼女は満足そうな顔をしている。
「御苦労。流石、シリルの夫だ。では約束通りあの城には代わりの者を配備する。城の所有者は雅彦。お前だ」
「……わけがわからない。第一人間の俺が魔王軍の城を預かっても良いのか?」
あの城にはシリル以外の魔族が入るのだと思っていたが、その想像の斜め上をいく回答。
「別にそんな決まりはない。強い奴が城を持つだけだ。まぁ強くても働かなければ今回みたいな事があるんだがな。シリル。お前は今日から雅彦の下で働きなさい」
「……はい。わかりました。大魔王様」
シリルは俯いたまま返事をした。流石にショックなのかもしれない。自分の立場が下がるのだから。
「別に反対したって良い。まぁそうすれば雅彦とはいられないけどな。お前は別のところに移動してもらう」
まぁ仕方ないことなのかもしれない。今までの事が重なって今があるのだから。
「あ、でも俺はあと半年ぐらいしかいられないんだけど、その後はどうしたらいいですか?」
「それはその時に考えよう。お前が推薦したい人がいるならば別に良いが、そうでない場合は他の魔族と相談だな」
腕を組みながらそう言う。こういう堂々とした立ち振る舞いが大魔王になる素質なのだろうか。これがシリルの母さんなのだから、シリルも将来そうなるのだろうか? あまり想像がつかない。
「まぁ分かりました。シリル。帰ったら色々と教えてもらうぞ」
俯いたままの頭をワシャワシャと揉む。ちょっと手触りが良いからこのまま続けていたいと思うのは心の中にしまう。
「兵士ども。俺の力は分かったと思う。だが、俺はただの料理人だ。飯が食いたければ働け。仕事が無いのならば仕事を見つければ良い。今後は働かない奴は食うべからず。その方針で行くから宜しく!!」
本気を出して戦ったが、相手に重傷を負わすまでは力を出していない。というか、ほとんどの相手が鎖を巻き付けて戦闘不能にしただけだ。それを回避したりした人にはしっかりと魔法弾をお見舞いしてやった。火炎弾は火傷したりすると困るので、高粘性の水弾を当てて身動きが出来ないようにした。
その兵士達は上に立つ者の実力が分かっただろうし、そして見慣れない人よりかはマシという感じでほっとしているようだ。
「そんじゃ、とりあえずあの城の所有者となったわけだから今どれくらいの赤字なんだ?」
「驚くなよ? 総額で金貨五百枚というところだな」
金貨千枚。それを聞いて膝から崩れ落ちるような感覚に陥る。
一体何年間の積み立てで金貨五百枚の借金が出来たのだろうか? 四千万なんて金額をどうやって返せと言うんだ。
「……シリル。帰ったら帳簿を見させてもらうからな?」
「そうだな。とりあえず、娘はあの城に3年いたな。17の時に勉強ということであの城でやらせたんだが」
ということは1年に167枚ぐらいの赤字を作っていたわけか。これを黒字に持って行くのには一体何年必要なんだろうか?
「……まぁ出来るだけやってみるよ」
とにかく何事もやらなければいけないことが沢山あるようだが、少しずつ出来る事からやっていこう。
「まぁ今日ぐらいはゆっくりと休んで行け。魔力を使いすぎただろ?」
「そうさせていただきます。俺はどの部屋に行けば良いですか?」
いきなりこの城に来た。と言うより連れてこられたが、俺の部屋はあるのだろうか?
「そうだな。シリルと同じ部屋でいいだろう?」
「じゃあそうさせていただきます。シリル。部屋を教えてくれ」
シリルに渡された部屋があるんだったらそこの部屋でいいだろうし。色々教えてほしい事もあるわけだし。
シリルの後に続いてその部屋に向かう。案内された部屋はいままで住んでいた城とそっくり。寝屋の作りもいっしょだし、内装もなにもかも同じだ。
「赤字の事は何も言わない。俺がどうのこうの言える立場じゃないから。ただ明日からは俺の下で働くということについては不満か?」
「……不満はない。ただなんだろう。なんていうかしっくりこないというか。べ、べつに雅彦がそんな器じゃないとかそういう風に思っているわけじゃない。ただ、そうすると私は一体何なんだろうかな。って。大魔王の娘としていままでやってきていたが、どうも結果が伴わなかった」
自分のやって来た事が実を結ばない結果。それを3年間苦労してきたわけだろう。彼女には秘書の様な人はいない。だから誰にも言えずにいたのだろう。
俺は彼女を抱きしめた。ただ抱きしめた。
「これからはその苦労を俺が預かる。でも、俺もこれからその苦労を実感するだろう。だからその時は俺の苦労を一緒に受け止めてくれないか?」
なんだか、プロポーズをしているようなセリフだ。もっとも俺達はもうプロポーズも済ました関係なのだが。
「うん。分かった。これからは雅彦の補佐として頑張る。あ、秘書の方が合ってるか?」
秘書。響きが良いな。秘書。公私混同しないように気をつけよう。
「そうだな。でもまぁシリルは俺の嫁だ」
「うん。分かっている。とりあえず、今日は疲れただろ? 風呂にでも入ったらどうだ?」
「そうだな。 なんだったら一緒に入るか?」
俺はただ普通に誘った。今は夫婦の関係だからただ恥ずかしがるだけだと思っていた。
だが、違った。恥ずかしがるのは予想通りだった。確かに顔を真っ赤にしている。俺の目をじっと見つめながら。何かを言おうと頑張って勇気を振り絞っているように見える。
「……うん。入る。一緒に入る。さぁ行くぞ!」
あの恥ずかしがり屋のシリルが言った。一緒に風呂に入ると。
「えっと、いや。ホントですか? 俺と一緒に風呂に入るのか? いつもは恥ずかしがって入らないのに?」
「ば、馬鹿にするなっ! 私だってそれぐらい出来る。そりゃ恥ずかしいけど、将来は一緒に入ったりするだろうし練習だ。未来のための」
どうやら本気らしい。今までの彼女を知っているからなおさら本気だとわかる。顔に気合が入っている。そんな風呂程度で気合を入れる必要はないと思うが。
「そ、それじゃ。あとから行くから先に行っててくれ。風呂はそこの扉の向こうだ」
準備があるのだろう。俺の事を先に行かせる彼女。まぁシリルの言うことを聞こう。
それに風呂はこの部屋の奥にあるのか。大きさはそれほど期待しない方がいいかもしれない。
なんて考えは甘かった。扉の先にはこれから俺の城になるところの風呂場よりも大きかった。個人で使うには大きすぎる大きさだ。
材木とかは城のものと一緒。良い風呂だ。
シリルが入ってくるということなので、隠さなくてはいけないのだが、どうしようか。
と、思ったが、糸を編んで水着とはいかずに隠せる布を作ってそれを履く。手触りは麻に近い感じが無難だろう。
さっきまで戦って出てきた汗を流す。程よく暖かいお湯が心地よい。布が水を吸って重くなり、そのまま脱げそうになったが、紐で結んで落ちないようにする。
汗も流したので、湯船に肩までつかる。俺が入ったせいでお湯が少しだけ溢れる。広すぎる浴槽だから溢れる量は少なかった。
「ま、雅彦。入っても良いか?」
恐る恐る。扉をゆっくりと開けて顔を覗かす。湯船につかっている俺を見て少しほっとしたのか、浴室に現れた。その姿に俺は固まる。
シリルの事だ。露出の少ない水着を着てやってくるのだろうと思っていた。
だが違った。あの紅いドレスと同じ色のビキニを着ていた。布面積がものすごく少なく、最低限の部分だけを隠しているだけの水着だ。
「ば、ばっかやろう! お、お前はなんて格好してんだよ!」
「ば、馬鹿とはなんだ! 確かにこの水着は派手だと思うし、色々と隠せていない部分も多くある。……だから、これを着るのは雅彦の前だけだ」
ほとんど裸の様な格好なので、今のシリルの体の肉つきがはっきりとわかる。お腹のお肉はまだ無くなっていないようだった
シリルは一度入って来た風呂場から出て行って、少したった後にまだ戻って来た。
今度はあのエロい水着ではないが、こっちもこっちでなかなか危ない所を突いてくる。スク水だ。
どうしてこの世界にそんなモノがあるのか。それは気になるところだが、今はそれどころではない。
「これなら大丈夫だろ? ちゃんと隠せているわけだし。と言うわけだから一緒に入らせてもらうぞ?」
そう言いながらシャワーを浴びてから湯船に入る彼女。水に濡れたせいで体のラインがはっきりとわかってしまう。やっぱり良い肉つきをしている。程よく肉がついた体。母性が満ち溢れている感じと言う感じだ。
「……別に雅彦だから今は何も言わないでいるが、あんまり人の体を凝視し続けるのはいかがなものかと思うんだが」
「あ、いや。まぁすまん。ほら。こっちに来たらどうだ?」
広々とした湯船の中で離れているのは普通の使い方だと思うが、今はその使い方とは逆の使い方をしたい。
右腕を少しだけ上げてここに来い。と行動で示す。シリルはそこに収まる。
「そうだな。せっかくこうやって二人きりになれたんだもんな。ゆっくりするとしようか」
とは言ったものののぼせてしまうのでそうそう長い間は湯船に漬かってはいられない。だが、のぼせるまでは一緒にいても良いだろう。
「ひとまずこれからは忙しくなるだろうから、今ぐらいはゆっくりとしようか」
それから俺達は一言もかわさないでゆっくりと風呂を満喫した。
お互いに肌が真っ赤になるまで漬かっていて茹でダコ状態だ。
「でさ。もうこれからどうしたらいいんだ?」
風呂から出てお互い、バスローブを着てベッドに寝そべる。もちろん俺の右腕はシリルの枕となっている。
「なにをどうしたいから雅彦が決めることだ」
俺がしたい事。ねぇ。ひとまずは赤字の解消なのだが。どうやって解消しようか。
「……城主の先輩として言わせてもらうのならば、他の城主に相談してみたりするのはどうだ?」
シリルと目が合う。それが彼女には助けを求めるために目を合わせた。と思われた。まぁ確かに助けてほしかったが。
それにしてもこれから本当に忙しくなる。ようやく店が出来るまでゆっくりと出来ると思った矢先に俺が城主になるとは。
でも今はこのままシリルと二人でベッドの上でイチャつきながら寝る事にしよう。
疲れた。料理パート書きたい、、、




