表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目の前には魔王がいた  作者: 八雲紅葉
新世界は異世界
25/38

~決別~

 さっそく訪れた武器屋に入る。そして欲しいモノを探す。

 何か良い武器はないものだろうか?

 俺が欲しいものは刀だ。もちろんこんなところで売っているところにはそんな大層なモノはない。あるとしても鉤爪やクナイなどのどうしようもないもの。あっちの世界では使い物にはならない。

 そもそもこんなところで刀を買おうというのが間違っている。

「なぁ。にいちゃん。これは滅多に見せれるもんじゃないんだが、こんなんはどうだ?」

 店員。というより、店主なんだろう。そんな風貌と雰囲気。その男は俺に一丁の銃を見せてくる。それを俺は受け取る。

 ずっしりと来る金属の重み。プラスチックではない。これはヤバイものだ。


「……こんなものを売るのは無理だろ。第一どうやって日本に持って来たんだよ?」

「やっぱ平和ボケしているんだと毎回思わされる反応だ。それは銃刀法違反にはならない。もちろんそれはおおっぴらと使って良いものではない。なにしろそれを作っているのはアメリカだし」

 俺は銃を手渡す。男はニヤりと笑いながら銃の事を説明しだす。

「形は銃。もちろん弾がはいれば撃つことが出来る。だが、この銃で撃つことは出来ない。なんせ、マガジンがないんだ。もちろんマガジンを入れれば撃てると思うだろう。だが、そのマガジンも入らない。なぜならば、そういう風に作られていないからだ」

 俺は今までも説明を聞いて、今一つ理解が出来ていない。では、これは何なのだろうか? ただのおもちゃ?


「この銃。デザートイーグルのマグナムの場所はグリップの内部。普通ならばマガジンが入るように設計されて製造されているが、このおもちゃはその部分が一切なくマガジンが入る部分はグリップを作る時に空洞を作らずにそのまま製造されたんだ。もちろんおもちゃだから銃刀法違反にはならない」

「ということはこのおもちゃのデザートイーグルはいったいどういう意味で作られたんだ? 弾が出ないってことは反動もないんだろ?」

「いや、反動は出るように作られている。とりあえず試してみろ。そして俺を狙え」

 もう一度おもちゃを受け取り、安全装置をはずす。そしてスライドを引く。おもちゃということなので何も飛んでこないか、本当は不安だが、店主の腹を狙う。すこしふくよかな腹だ。

 最後にトリガーを引く。すると、音は鳴らなかったが地面と水平にしていた手首の角度が地面と直角の角度になる。凄い反動だ。これを片手で扱うのは結構厳しい。

 弾は込められていないので、店主は無傷。なにも飛んでいなかったみたいだ。


「これは面白い。店主。これはいくらだ?」

「そうだな。輸入とか色々かかったから10万ぐらいで良いぞ」

 まぁおもちゃだけど、手触りとかあの重さはかなりリアルに作られていると思う。だからお高いものだが、それ以上にお得感がある。日本じゃ使えないと思うが。

「このおもちゃってこれだけか? もう一個あったら欲しいんだが」

「欲張りだね。にいちゃん。でもまだ沢山あるから平気だぜ」

「分かった。即金で払う」

 俺は財布の中から諭吉さんを20枚取り出して会計を済ませる。

「それじゃこれは選別だ。ショルダーホルスターだ。その銃ならレッグやヒップよりショルダーの方が格好良いだろ?」

 店主はデザートイーグルを箱に詰めてその箱を外から見えないようにということなのだろう。茶色で不透明のビニール袋に詰めながらホルスターを入れてくれる。気前良い店主だ。

「ありがと。それじゃ」

 俺はホクホク顔で店を出る。この店に来る前まで欲しかった刀の事はすっぱり忘れて、今はこの銃の事で頭がいっぱいだ。




 帰宅しそのおもちゃを取りだす。なかなか面白いシロモノだ。だが、弾も出ないのにどうして反動が起きるんだろう。やっぱりバネなのだろうか? 分解をして中を確認したいところだが、その後に元通りに直せるかわからないので触らないことにする。おもちゃで遊ぶ分には別に中の構造を知らなくても良いのだから。

 そういえば、こっちの世界では魔法を使えるか試していない。使った魔法といえば転移の魔法だけ。試しに糸の魔法を出してみる。

 しかし何も出ない。魔力が使えない。そんな感じ。魔力が無いという感じではない。魔力を出す通路が完璧にシャットアウトされてしまったような感じ。

 どうしたというのだろうか? やっぱこっちでは魔力を使えないんだろう。まぁ使えないものをどうのこうの言っていても仕方がない。使えなくても困らない。もともと使えない世界なのだから。


 それにしてもこっちの世界の技術で持ち帰れるモノは一体なんだろう? 朝も考えたが、俺は一体、なにを持って帰れるのだろうか?

 そもそもあっちの世界でどんなものが使えるのだろうか? 電気を使えない。だから、こっちで電気を使って動かすモノはあまり持って行きたくはない。


 例として冷蔵庫。城や店の食糧保存方法を見れば早急に欲しいものなのだが、原理を知らない。


 電子レンジ。マイクロ波を用いて食品を振動させてその摩擦熱で加熱するモノ。だが、そのマイクロ波を出す機械を作り出すことなんて無理。


 なんだかこっちの技術は持って行けそうにない。というよりも、ただの料理人が世界全国で使えるような技術を持って行ったとしてもそれがすべて受け入れられるか。と聞かれれば難しいものがあるだろう。医療のノウハウを知らない俺が、腫瘍なら切ってしまえばいい。と言ってもそれが受け入れられることはないだろう。ちゃんとした知識を持ってバックに貴族の力が無ければ話すら聞いてもらえない。

 だから、別に技術を必ず持って行かなくても良いんだ。今持っている知識だけを使っていけば良いだろう。


 やっぱり俺の新しい武器が見つかっただけでも良かったと思うべきなのだ。

 この武器も使い方はかなり特殊なモノを想像している。だが、このおもちゃがそれに耐久出来るかどうかも不安だ。

 それにしても、こっちの世界は本当に平和だと思う。すごくのどかな雰囲気。あっちの世界ではそうそう味わえない雰囲気。

 カロニチンは平和といえば平和だったが、どことなく糸が張り詰めているような感覚。

 その感覚が今の俺は好きだ。この日本のまったりとした雰囲気は服を着たまま水の中で身動きを取るようなそんな感じ。

 今すぐ帰ってしまおうか? でも、シリルの心の準備が終わっていないだろうし、どうしようか。 

 てか、やっぱり一人は落ち着かない。両肩にホルスターを装着する。そしてそこにはデザートイーグルを。そしてスーツを着て祈る。俺の住む場所に。


「ニイヤン。ちょっと待ってや」

 聞いたことのない声が俺を呼びとめる。その声に止まった俺は目を開く。見たことのない場所。金色の光が降り注ぐ綺麗なところ。足元は白い煙で良く見えない。

「ニイヤン、ニイヤン。ちょっとこっちまで来てくれんかね?」

 声の主が現れる。男だ。

 しかし、俺の脚は動かない。いや、動かしたくなかった。その男の背中には羽が生えていた。それに格好が平安時代とかの貴族が着ていそうな服。烏帽子まで頭に乗せている。

「そんなに緊張しなくても良いんやで? なにしろワイは神様やさかい」

「……関西弁を喋る神様がいるわけないじゃないですか。本当は何なんですか?」

 どうも胡散臭い喋り方。目は細いし吊り上っている。本当に神様なのだろうか?

「胡散臭い。ねぇ。しょうがない。標準語で喋るか。まぁ関西弁も結構疲れるんだよね。やっぱ標準語って良いね。そうだろ? 横山雅彦クン」


 俺の名前が聞こえた瞬間に俺は後ろに跳び、離れた。とりあえず近づいては行けないような気がしたからだ。俺はコイツに名前を言った覚えなはい。それなのに目の前の奴は知っている。それだけで距離を取る意味はある。

「いや、そんな逃げんなって。誰のおかげでまだ生きていると思ってんだよ。まったく。とりあえず、そこに座れ」

 座れと言われたが、俺は座らなかった。どうしても相手の言うとおりにしたくはなかった。

「……座れ」

 その男がそう言うと俺の体が言うことを聞かずに座った。どういうことだ。奴の言葉が俺の体を操ったというのだろうか?


「ニイヤン。人の話はすぐに理解して行動しようや。出ないと今ここで君を殺すよ?」

 俺はすぐに糸の魔法を展開しようとした。しかし、ここでも使えなかった。一体どうなっているんだ。

「良いから、人の話を聞きなさい。君は本当だったら死んでいる身なんだ。それは分かっているか?」

「……あぁ。それはそうだと思っていた。後ろから来た衝撃で無傷なんかおかしいと思っていた」

 自転車がお釈迦になって、俺だけがお釈迦になっていないなんてとても考えにくい。頭の隅っこでそういう風に考えてはいたが、いざその真実が突きつけられていると正直つらかった。

「そこを俺の気まぐれで君を助けた。別にそこで代償をよこせなんて言わない。俺の気まぐれだからな」

 そうだったのか。気まぐれで俺は生を再び手に入れたのか。そうだったのか。


「でだ。そろそろ世界の行き来をやめてもらおうかな。と、そう考えたのさ」

「世界の行き来をやめる? それはどちらかの俺を消すというのだろうか?」

「理解がはやくて助かる。君が残りたい世界に死ぬまでいる。それで君が行かなかった世界の君の存在を消す。君がいた。という証拠をすべて、記憶も含めてすべて」

「考えるまでもない。俺はこのままシリルのところに向かう」

 俺にはシリルという、人生を共に歩んでいく相手がいるんだ。だから俺はこのまま進む。

「ふむ。ではそうしたまえ。私に口出し出来ることはないもない。君が選んだ道なんだ。後悔するなとは言わない。ただ、これは言っておく。人生は常に選択を迫られる。そこで片方の道を選んだ後で、別の道の方が良かったなどと思わないことだ。後悔は常に思考を鈍らせる」

 神様のありがたい言葉をいただく。やはり神は色々としているようだ。人間の行く先を。

「……ありがとさん。ついでにこの体をくれてもありがとな。いろいろと出来る体をくれて」

「魔力の事か? そりゃもともと君が持っている能力だ。そこら辺を俺は弄れないし、弄らない。そんなのはつまらない」

 と、いうことはあの莫大な魔力は本当に俺のものなのだろうか?


「あぁ。あの魔力は本当に君の持ち物さ。せめて使い道を誤らないようにな」

「あぁ。ありがとう神様。それじゃ俺はそろそろ行くよ」

 日本に帰れないということは後ろ髪を引かれるような思いはある。だが、俺が前に進むにはそれ相応の代償は必要なんだ。俺の体は一つしかない。だから俺は緊張感に包まれながらの生活で一生を終えることにしよう。

「あ、そうだ。神様。人を作るのって難しいことなのか?」

「……それは禁忌や。人間が無から人間を作り出すこと。そんなことをしたらそいつは人間じゃない。……魔そのものだ。そんなことをしようと思うなよ?」

 人間だと禁忌になるのか。

「あぁ。そんじゃそろそろ戻るとするよ。神様名前は?」

「それは秘密や。まぁ石と似ている名前かね? ほな、さいなら」

 最後に聞こえた声。石ってのは全能の石の事か? 全能の神様? だとしたら俺はものすごい神様に助けられた。




 目を開けるとあのピンクの壁紙の部屋に俺は戻ってくる。だが、この部屋にはシリルはいない。仕事中だろうか?

 それにしても静かだ。おかしいくらいに。まるでこの城に誰もいないくらいに。

 不安になり部屋から飛び出す。なにもない。不思議なことは何もない。ただ、綺麗な廊下。コンクリのようなもので作られた真っ平らな壁や床。ココ達もいないのだろうか? 厨房に向かおう。

 厨房にも人っ子ひとりいない。本当にどこに行ったのだろうか? 時間は午後2時。昼飯は正午なので終わってはいるが、今の時間は夕食の準備を始めていてもおかしくない時間だ。どういうことだ。

 嫌なことばかりが思い浮かぶ。一人は嫌だ。とにかく誰でも良いから会いたい。

「……貴様が雅彦か」


 後ろから声が聞こえた。急いで振りむいて、2丁の銃を抜いて構える。

 俺の背後には何もいない。声だけが聞こえる。

「貴様に私の正体は見えないだろう。そしてお前はこの城で一人きり。ここはもぬけの殻だ」

 おかしい。今回も背後で声が聞こえる。だが、後ろを向いても誰もいない。たぶんだが

、この声の主は皆がどこかに行ったことを知っているだろう。だが、その声の主の体がどこにあるかわからない。

「無駄無駄無駄。お前に私を見つけることは不可能だ」

 また後ろから。でも誰もいない。

 どうして後ろからしか声が聞こえないんだろう。そのことに理由はあるのだろうか?


「……なぁ。シリルやココは無事なのか?」

「もちろんだ。それに関しては教えてやる。今は昼寝でもしているんじゃないか? いままでの疲労を癒しているようだ」

 良かった。あの二人が無事ならば良かった。あの二人、どちらかが欠けたら俺はどうにかなりそうだ。俺の嫁のシリル。そして俺の雇い主のココ。あの二人は俺にとって大切な人だから。

「……良かった。そして、お前の場所も分かった。ここだろ? 出てこいよ」

 俺は振り向かず、脇の下から床に向かって銃を撃つ。銃身から飛び出た弾の反動で右腕が吹き飛びそうになる。かなりの反動だ。片手で撃つのはかなりきつい。

 弾はもちろん魔法弾。炎の弾が床にぶつかる。そこにあるのは俺の影。その影に当たると、何かが飛び出してきた。

 小さい。と言ってもサッカーボールぐらいの大きさの丸いやつが出てくる。

「正解だ。まぁわかるまでかなり時間を消費したな。ギリギリで合格ということにしよう。ここで不合格だったら主は怒るだろうし」


 羽が生えている丸い物体。足も出てきて、尻尾も出てきた。手も出てきた。一体こいつの正体は何なんだ。

「お、おう。それでお前は一体何なんだ?」

「私はただの使い魔。この形状は私が蝙蝠(こうもり)だからだ」

 蝙蝠って足や手ってあったのか? それにしても不気味な蝙蝠だ。

「それで、いつになったらシリル達に会わせてくれるんだ? てか、早く会わせろ」

「せっかちは嫌われるぜ? とりあえず、第一関門突破したから次は最終関門。この穴に飛び込んだらその会場に行けるぜ?」

 第一の次が最終って。 まぁ早いことに越したことはない。俺は使い魔が作った穴に飛び込もうとするが、使い魔の言うことをそのまま信じて良いものなのかと疑う。

 てか、穴が邪悪すぎるのだ。穴の縁は深い紫色で、穴の中は禍々しいオーラが渦巻いている。

「何を迷う必要がある。さっさと入りな」

 使い魔は俺の尻に体当たりをしてきた。俺はかわす事なんて出来なかった。なので、俺は禍々しい穴に飛び込んでしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ