~技術~
目が覚める。目の前には愛しの魔王様。可愛らしい寝顔を俺だけに見せてくれる。
そういえば、昨日はシリルからキスをしてきたんだなぁ。と昨日の寝る前の事を思い出して顔が熱くなる。かなり恥ずかしいな。まるで初々しいカップルだと。
シリルも起きたら恥ずかしがってくれるのだろうか? いや、恥ずかしがるに決まっている。奥手にも程がある彼女だ。絶対に昨日のことを思い出して顔を真っ赤にしてベッドの上をゴロゴロと転がりながら悶絶するだろう。
さて。俺も恥ずかしがってばかりはいられない。城にいる全員の食事を作りに行かなければいけない。
いくら俺やココがいなくても何とかなると言っても、働きもせずにここで過ごすのはいけないと思っている。なので毎日俺達も仕事をしているんだ。
「おはよ~。昨日の夜ごめんな。カロチニンに行ってたんだ」
「あ、雅彦さん!! 昨日の襲撃から姿が見えないと思って心配していたんですよ!!」
俺の姿を見るや否や、ココが俺に向かって走ってくる。そして飛び込んでくる。
「ごめんって。許してくれって。そんな泣かないでくれって」
声をあげて胸の中で泣くココ。男としては嬉しいが、まぁ嬉しい。だが、俺にはシリルという妻がいる。複雑な気分である。
「だって、だって。雅彦さんが消えたって思うと。胸が張り裂けそうになって」
「そうか。そうか。でももう大丈夫だ。俺は消えないさ」
ココの背中を軽く叩いてあやす。出来れば早く泣きやんでもらいたいが。
「本当ですか? 信じますからね?」
涙目のまま俺の胸から離れてその泣いた顔を俺に見せる。
「おう。消えない消えない。それよりも朝食の準備だ」
献立は今月の頭にすでに決めてあるのでその通りに作る。と、いっても食糧の在庫によってその献立も色々と変わってくるから、その都度考えなくてはいけないが、今日はまだそんなことを考えなくても済むくらいの貯蔵はある。
今日はソーセージに目玉焼き、トースト。とかなり質素な朝食だが、それでも量が多いので不満を言ってくる兵士は少ない。
朝食を食べに食堂まで来たシリル。俺を見つけると、ポン。と小気味良い効果音がぴったり合う感じで、顔を真っ赤にしてうずくまる。魔王様は本当に恥ずかしがり屋であられる。本当に。
「ま、ましゃひこ! 今日は二人で食べないか? いや、食べろ。私の部屋で一緒に」
我が魔王様がこんなにも無様な格好を皆に見せていいのだろうか? 俺の名前を噛んでいるし。
「はいはい。魔王様。では一緒にお食事でもいたしましょうかね」
俺は二人分の朝食を持ってシリルの部屋に向かう。
部屋までシリルの後ろ歩くが、その後ろ姿も面白いもので、途中で頭を左右に揺って何かを忘れようとしている。そのたびに俺は急停止をしなくてはいけないので少し困るが。頭を振り終わると俺の方を一度見て、また歩き出す。という行為を何回か繰り返してようやく部屋に辿り着いた。
「ま、雅彦はその、思い出して恥ずかしがったりしなかったのか?」
律儀にナイフでソーセージを一口大に切りながらそう聞いてくる。
「朝起きた時は恥ずかしかったさ。そりゃお前と初めてキスをしたわけだし」
キスという単語に反応してシリルがビクリと上下に動く。恥ずかしがり屋にも程があるだろうに。
「そ、そそ、そうだよな。雅彦も恥ずかしいよな。私だけが恥ずかしいってわけじゃないんだよな。うん」
自分だけが恥ずかしいわけではない。ということを自分に言い聞かせているように見える。
「まぁさ、これからもお前のペースで良いからさ、これからもゆっくり行こうな」
昨日も言った通り、シリルのペースで良いんだ。俺が欲望の赴くままに行動したらシリルはきっと脅えたりするだろう。だから俺も俺で我慢が必要だ。
「……それは雅彦が我慢してるということか? 私としては雅彦に我慢はなるべくさせたくはないんだが」
「大丈夫だよ。いやさ、俺だって男だよ。お前との子供を作って幸せに暮らしたいって願望もある」
ここまで言って一度間を開ける。いくらなんでも食事中に話す内容ではない。シリルは子供という単語で今度は飲んでいた紅茶を噴きだした。俺が原因だが、その被害が俺にかかっているから何とも言えない。
適当にタオルで顔や髪を拭いて、話を続ける。
「だけど、それは今の俺達には早すぎると思うんだ。それに時間だってまだある。あと50年以上あるだろう。だから焦らずにいこうさ」
本当に焦ることはない。これは本心だ。男としては据え膳状態ですけれども。
「うぅ。確かにそうだけれども、雅彦がそれでいいなら私もそうしたいが」
「あぁ。大丈夫だ」
そこで俺は一度、紅茶で舌を湿らす。
「あのさ、今まで気になっていたんだが、この城の。というよりお前の資金はどこから出ているんだ?」
今までの謎。俺達が使っている食費とかはどこから出ているのかが気になる。特に何かを生産しているわけではないし、というより、仕事をしていないように見える。
「そりゃ、大魔王様からの資金援助だったり私の城から出て行った兵士やメイドが人間の街で働いた金を今までの恩として送ってきてくれたりとかだ」
と、いうことは特に仕事をしているわけではないのか。
「大魔王様ってすごいんだな。シリル以外にも沢山の兵士を抱えた魔族がいるわけなんだろ? その魔族にも金を送ったりしているわけなんだろ?」
シリルだけが贔屓にされている。というわけではないだろう。そうなれば不満やら何やらがこの城に色々な形でぶつけられているだろうし。
「そうね。主だったのは私を含めて10貴族かしらね? まぁあまり大魔王様に迷惑がかからないように私も色々としているんだけどね」
俺も色々と頑張った方が良いのかもしれない。早く店が完成しないだろうか。
「最近だと、人間の街に魔族の者を派遣したりして、その斡旋料をもらったりしているし」
こう見えて仕事をしているんだよ。と胸を張ってアピールする我が嫁。ちゃんと仕事をしていた嫁に驚く俺。
「それにしても斡旋業か。まぁ謎が一つ解けたよ」
俺は昨日シリルとゆっくり行こうと決めたのだが、そもそも俺はシリルの事を知らな過ぎているのだ。
シリルの年齢だったり、今まで育ってきた環境。とにかく知らないことが多すぎなのだ。
「じゃあ私からも質問を良いか?」
「あぁ。何なりと」
「じゃあ、その」
なんだかもじもじと体をくねらせて何かを言おうと頑張っている。その姿は可愛い。
「雅彦は誰かと経験があるのか?」
ストレートに自分が知りたいことを聞いてくる。目を力強く閉じて、両手で握りこぶしを作って胸の前に持ってきている。
「うーん。それは包み隠さず答えた方がいいか?」
今まで何人と経験したのかという質問に正直に答えるのは聞いてきた人以上には恥ずかしい。でもこれは彼女のため。そしてこれからの関係を考えれば、ちゃんと答えるしかないだろう。
「……3人とキスはした」
妙にリアルな数字だと思っているに違いない。それに表情が妙に暗い。
「……そうか3人か。そうか。私で4人目か。それでそれ以上は何人としたんだ?」
顔を真っ赤にして続けるシリル。俺も俺でしっかりと答えなければいけないだろう。
「それは2人。あんまり経験しているわけじゃないんだ」
「……それでも2人と経験をしているのか」
俯くシリル。いや、その経験人数だけで俯かれても困るのだが。
「あのさ。別に誰だどれだけ経験しているとかはそんなに問題か? そりゃ今までの生活環境で人は色々なことを経験するんだ。だから人それぞれに誤差は生じるんだ」
「それはそうだけれども、その、やっぱり、雅彦は私と色々としたいだろうに」
もう堂々巡りだ。別に俺はしたくてしたくてたまらないと言うわけではない。もちろんそれはシリルに魅力が無いというわけではない。魅力はたっぷりだ。ただ、まだ理性が勝っているからである。
「あー。もう。とにかく、俺はまだ我慢できる。お前の心の準備が出来てからやることをやる。それまではしない。分かったな?」
色々と堂々巡りを続けてきたこの話題に終止符をうつ。別にこのままでも良いんだ。別に。
「……あぁ。そうだな。わかった。私の覚悟が足りないんだよな。頑張って覚悟を身につけるとしよう」
「そうだな。がんばれ。そしてその時間をお前にあげよう」
シリルがキョトンとした顔をこっちに向ける。
「いや、今から一月この城から消えようかなって。てか、元の世界に帰ろうかなって」
「は? それはどういうことだ!? おい。ちゃんと説明をしろよ。せっかく雅彦の事をちゃんと知ろうと思ったのに」
俺もシリルの事を知ろうとした。だけれども俺は元の世界にある技術をこの世界に持ってきたい。だから持ってこれそうな技術を探しに俺は元の世界に戻る。
「あぁ。こっちにいろんな技術を持ってきたいんだ。だから出来る事なら早く行ってこっちで使えるモノがあればこっちで利用したいし」
「……そうか。雅彦は頑張っているんだな。私も頑張ってはいるんだが、それは雅彦のと比べるとどうも霞んで見える」
「そんなことはないだろ。お前にはお前しか出来ないことの方が沢山あるんだ。俺はただこの世とは別の世界から来ている人間なんだ。だから俺にしか出来ないことも俺にはある」
だから俺は出来ることだけを頑張るしかない。
「……そんなわけだからさ、ちょっと行ってくるな」
食事を取り終わっているシリルの額にキスをする。意味はお互いに知っている。この世界で一月、向こうの世界で約二日間。俺はこの世界のために世界を離れる。
「……わかった。雅彦が帰ってくるまでに私も覚悟を決めておく。だから頑張ってこい」
シリルの覚悟決めた顔を網膜に焼き付ける。彼女を悲しませないためにも早く帰ってこようと思う。
俺はしばらく帰っていない世界のベッドを思い出す。そして魔法を発動させる。
そして約一月ぶりに元の世界。日本に戻って来た。こっちの時間的には約二日しか経っていないんだけれども。
想像していた通り、俺はベッドの上で寝ていた。時間は午前10時。
シリルにあれほど大見栄きって来たわけなのだが、あの世界にどんな技術を持って行こうか?
そもそも、向こうの世界には電気というモノが存在していない。だから電気というものを持って行こうと思っているけど、もっていってもそれをどうやって活用するかというのも問題だ。じゃあ何を持って行こうか?
そういえば冷凍方法とかをしっかりと学んだ方が良いかもしれない。
と、言っても別に冷凍方法は今のままで良いのかもしれない。
冷凍で肉が冷凍焼けしたりするのは仕方ない。それは今の冷凍法でも起こることなのだから。
だとしたら、どうしようか。困ったものだな。
てか、俺はあの世界でなにがしたいのだろう?
あの世界に行くことも、この世界に戻るのも、必ず出来るという保証はない。
だから片方の世界から出れなくなる。俺はどっちの世界で骨になるのかをしっかりと決めれなくてはいけないだろう。
いくら、あっちの世界で、美人でスタイルの良い嫁がいるとしても、向こうには親は存在しないのだ。シリルがいなくなったら向こうの世界では俺は一人ぼっちになる。
でも、アイツがいないこの世界も嫌だ。どうしようか。と考えるふりをする。もちろん意思はすでに決まっている。シリルのいる世界で骨を埋める。
この世界にいる俺は、他の誰かに任せよう。俺がいない間、誰かが俺の体を動かしているみたいだし。
この世界から消えるのに対して未練はないわけではない。こっちの世界でも色々とやりたいことはある。それでも俺はシリルと居ることを望んでいる。だから俺はもうこの世界に来ることはないように出来ることをしよう。
あっちの世界に持って行きたいモノが無いかを再確認する。包丁はもう持っていったし、後はなんだ。てか、服だな。スーツだけだとちょっと動きにくい。スーツを脱いで薄手の長そでのシャツを着て、その上に黒のポロシャツを重ね着。そして深い青色のジーンズをはく。結構ラフな格好だ。
あとは、必要なモノはなんだろう? エプロンは向こうにあるわけだし、後はなんだ? ないのか? 本当に無いのかもしれない。必要なモノはほとんど向こうの世界にあるし。
ふと思いついて財布の中身を確認する。何故か10万円もある。しっかりと仕事をしているのか?
ちょっとスマートフォンを使って自分の口座にある残高を確認する。貯蓄が増えている。確か、俺がこの世界から消える前までは100万はあったはず。それになぜか10万ほど増えている。
この二日で一体何があったというのだろうか?
まぁ良い。貯蓄の半分ぐらいは俺が使っても良いだろう。俺が貯めた金だし。
買うものは決めている。俺は早速、細々と経営を続けている武器屋へと向かう。
「ちょっと。あんた。どこに行くのさ」
「ちょっと色々欲しいものがあるんだ」
そして俺は、久々に日本の土地を駆けた。
今日はなぜだか、調子が良くて更新しました。もちろん明日も更新しますのでお楽しみに




