~訓練~
「いいか。魔力は生命力でもあるんだ。魔力が無くなっていけば生命力も低下する」
朝の説教を終えて、朝食を取った俺達は荒れ地で魔法の訓練を始めている。
「もちろん上限は個人で違うが下限値は全員一緒。すなわち【死】だ。生命力が無くなった生き物は必ず死を迎える」
魔法を使うと死んでしまうのか。どんな感じに死ぬんだろうか? 寿命で死ぬ感じなのだろうか?
まぁ魔法をあまり使わなければ良いだけだから、俺とは無縁の存在だと思う。ダンジョンの中に潜ったりするわけでもない。街中でゴロツキ達と魔法をバンバン使って争ったりもしないだろう。
「まぁ私クラスの魔力を持っているんだ。生命力を使い果すまでの魔法を使う時なんて戦争ぐらいじゃないと無理だ。だからそんな簡単に死ぬことはない」
「そうなのか。てか、どの魔法がどれくらいの魔力を消費するのかを知らないからそこらへんのことを詳しく聞きたい」
強い魔法を使えばそりゃあたくさんの魔力を消費するだろう。そもそもこの世界でも魔法は有名な某RPGゲームみたいに火の球が最終的に火柱になったりする感じで魔法にも段階があるのだろうか?
「それはだな。魔力を持って産まれた生き物ならば得意な魔法がある。それは人それぞれだしもちろん苦手な魔法もある。魔力の消費はどれくらいの規模の魔法を発動させるのか。それとその魔法にどれくらいの魔力をつぎこむか。この二つが魔力の消費量を決めるんだ」
ということは、魔法に技名とかはないのだろうか? だとすると、魔法というものは自分の想像力がそのまま力になるのだろう。炎の龍を召喚してみたり大量のゾンビを出現させてみたりと。、色々なことが出来るだろう。
「つまり、こんなことが出来るってわけか」
いきなり大技として炎の龍を出してみればシリルに怒られるのは目に見えてるので、小さな。掌にのる大きさの可愛い真っ赤に燃える炎のスライムを作りだした。炎を出しているが、俺の掌は焦げていない。ただメラメラと燃えるだけの体を想像したからである。このスライムには攻撃方法が体当たりしかないうえに、その威力も低くしている。
「そうポンポン出せるものじゃないのだが。そこがお前のおかしいところなんだ。普通なら魔法陣を書いたりして召喚を行うんだ。まぁ私も魔法陣なしで召喚は出来るけれども」
シリルもシリルで右手の掌に俺が作ったスライムと同じくらいのスライムを召喚した。そのスライムは普通のスライムというか、青っぽい有色透明の某RPGの最初に出てくるモンスターを出した。
俺達は二匹のスライムを手放すと、二匹のスライムはお互いに寄り添っていく。そして二匹の体が触れると徐々に体が溶けていき、その溶けたものは気体となって消えていく。
「火と水。水は火を消していく。これは魔法の関連性でもあり、日常生活でも使われているものだ。ただ今回、私のスライムが消えたのは込められた魔力が尽きてしまったからだ。あと少しでも込める魔力が少なければ、私のスライムが食われてしまうところだったぞ」
やはり魔法の属性においての優劣はあるみたいだ。そこら辺は正確に覚えておきたい情報だ。別に戦うために覚えるわけではない。これから魔法を使う身としては基本的なことだと思うからだ。
「じゃあその魔法の属性を教えてくれ」
「まず、火の属性。水の属性。これは今私たちが見せた魔法だ。あとは風の属性。土の属性などがある。他にもあるが私にはわからない。お前が使っている移動魔法だってどんな魔法かを私は知らないからな」
俺のあれはかなりの特異なものみたいだ。使っている俺もどういう原理で発動しているかを知らないのだからシリルが知らなくても当然なのだが。
「まぁとりあえずは水は火に強い。火は木に強い。という感じなんだ」
その前に、火とか風とかどこかの五車星を思い出す。あれ? 風と雲ってなんか似てね? なんてことを思ったり思わなかったり。
「お、おう。まぁ分かった。まずは魔力のコントロールを覚えなきゃいけないんだが」
魔力を出し過ぎて、魔法が大きくなってしまうのを恐れて俺は魔力の扱い方を学びに来たのだ。
「あぁ。そんなに焦るな。今すぐに魔力の扱いが完璧になれるはずなどない。ゆっくりと年月を重ねてようやく習得出来るものなのだ。まぁ私は代々受け継がれてきた魔王の血のおかげでそんなことをせずにいられるが、雅彦は違う。お前は人間だ。その人間が私と同じぐらいの魔力があるということは藁で出来た家に火を放つぐらいに危ないことなのだ」
シリルの例えは少しわかりにくいが、同じぐらいの高さの高層ビルの間にかけられた鉄骨の上を渡るぐらい危ないことなのだろう。そうだろう。
「とりあえず、雅彦の感覚で良い。自分が出せる最低限の魔力で魔法を使ってみろ。そしていまから私が出す魔法と相殺させてみろ」
そう言ってシリルは先ほど出したスライムを召喚する。スライムはこれからどうしたら良いのかわからないようで、召喚者であるシリルにこれからのことを聞きたがっている。シリルはそのスライムに何かを言っているみたいだが俺には分からなかった。初めて海外旅行をして旅行地の言葉が分からない時と同じ感じに陥る。
彼女の言葉を聞いたスライムは俺の事を睨みつけているのか目が半分閉じている。姿が姿の所為で可愛いマスコットである。とても可愛い。
青いスライム。ということは水の魔法である。そして自分が出せる最低限の魔力。最低限ってことは魔力1なのか? どういうことなのだろう? そもそも魔力というものは数値化されているのだろうか? ただ自分の感覚で最低限出せる魔力を1と決めているのだろうか? だとしたらかなり曖昧で個人差の出る最低限だ。
ひとまず俺も青いスライムを召喚してみることにする。魔力は出来るだけ少なく。ピペットで水滴を1滴だけ出すように。慎重に自分の魔力を放出する。
そして現れた俺の青いスライム。見事にとがった角。ふるふると震えるつやつやボディ。
そんな見た目をしているのはシリルが召喚したスライムであって俺のスライムではない。確かにふるふると震えているボディ。だがしかし、あのスライムの形をしていない。高いところから落とされた豆腐のような形。とても可愛いと言える代物ではない。そもそも生き物として成立しているのだろうか? 当然シリルが召喚したスライムとぶつけてもこっちのスライムが消えてなくなり、シリルのスライムは込められた魔力が消費されたどころか、俺の魔力を取り込んでいるかもしれない。
「体などがしっかりと形成されるほどの魔力を込めなかったら駄目だろう。いくら最低限の魔力と言えども」
さっきと言っていることが違うのだが。まぁ確かに今のは最低限も良いところだったかもしれない。その分ちゃんとしたものが召喚できなかったが。
次はさっきよりは強く。それでいて魔力をあまり込めないで。出来るだけ体を形成できるだけの魔力を込める。
そして召喚されたのはちゃんと姿が形成されたスライム。今回は成功した。
姿は形成された。次は込められた魔力量がシリルのスライムと同じぐらいかどうかである。すぐに試してみると今度はシリルのスライムが消滅してしまう。俺のスライムも最初に召喚したスライムと同じ姿になってしまった。魔力が強すぎたようだ。
「今度は魔力が多すぎたようだな。少しでも違えばこんな風になる。分かったか?」
そう言いながらも新しいスライムを召喚するシリル。彼女の血がそうさせているのか。それとも俺が出会う間から魔法の練習をしていたからなのだろうか。それとも両方なのか。それを俺は知らないが、魔法の扱いは俺の何十倍も巧いに決まっている。俺もあれほど簡単にこなせるようになるのだろうか? こなせたとしてもそれは一体何十年後になるのだろうか?
そんなことを考えながらも俺は魔力を体の外に放出する。この時俺の中で稲妻が走った。なんてのは大げさだが、今ここで新しい魔法を思いついた。
「なぁシリル。これは別件になるんだが不可視の魔法なんてものはあるか?」
「ん? 不可視だと? そうだな。あることはある。ただ魔力の量や想像力で不可視具合は変わってくるぞ。それよりも早くスライムを召喚するんだ」
不可視の魔法は想像力と魔力の量。それならばいけるかもしれない。だが、今は魔力のコントロールが必要だ。そっちに集中しなければいけない。
1回目よりも多く。2回目よりも少なく。シリルが出したスライムと同じぐらいの魔力でスライムを作り上げる。それが出来なければ俺が考えている魔法を使うことなんか無理なのだろう。これは初歩的な課題なのだ。そうだ。こんなの出来て当たり前なのだ。
そして三回目の召喚。今度こそは成功させたい。召喚したスライムに命令をしてシリルのスライムに攻撃をさせる。もちろん攻撃は体当たりだ。
しかし、俺のスライムは体当たりした瞬間に消えてしまった。俺の魔力の方が弱かったみたいだ。シリルの方は俺が最初に召喚したのと同じぐらいに砕けてはいる。
「今度は弱かったみたいだな」
そしてまた新しいスライムを作る。一匹だけではない。数十匹というスライムの大軍をだ。どう見たってそれぐらい俺が失敗すると思っての事だろう。
「なぁ。最低限の魔力で作ることがそんなにも大切なのか? 魔力のコントロールさえ出来れば良いんじゃないか?」
「私が作ったスライムと同じぐらいの魔力でスライムが作れないのにそんなことを言うのか? 別にこれで私の事を嫌いになっても良い。ただ、私はお前の事を思って言っていることを忘れるなよ? 魔法の暴発で雅彦が消えたら私は立ち直れないけれどもな」
細かい作業で目先の事しか頭になかった俺は反省せざるを得ない。シリルの好意でこんなことをさせてもらっているんだから俺が文句なんかを言える立場ではないのに。
そして寂しそうな目をして俯いているシリルの顔を見ると何も言えなくなる。これは恋愛感情故なのだろう。地球にいる時もこんなことが何度かあったがその時もなにも言えずに俺はいた。
「すまなかった。もう少し頑張ってみるよ」
そして俺は出来るだけ少なく。かといって多すぎないように魔力を放出してスライムをたくさん召喚じ、俺もスライムの大軍を作り出す。
そしてそのスライム達は小さな戦争を繰り出す。と言っても攻撃方法は体当たりだけなのでなんだろう。ほんわかする光景だ。
そのほんわかする光景は跡形なく消え去り戦場には誰一匹も残らなかった。
「ふむ。雅彦は何か一つを作るよりも大量生産した方が安定した魔力コントロールが出来るみたいだな。合格だよ。雅彦」
そう言って、シリルは俺の胸に飛び込んできた。やはりさっきのあれで傷つけてしまったのだろう。避けたりしないで真正面で受け止めて頭を撫でてやった。くすぐったそうに頭を動かす彼女。
それにしても大量生産型と判別された俺。それは好都合でさっき閃いた魔法にピッタリな型だ。なんてたって一度に何百と発動する感じの魔法だったから。決して頭の上に電球が出てきてピコーンなどというSEがついたりはしてない。
「それで、新しく思いついた魔法とは一体何だ?」
シリルも気になるようで、魔法の正体を聞いてくる。顔を上げたので目と目が合う。気恥ずかしそうに目を逸らす彼女。やっぱり可愛いな。この魔王は。
「そうだな。教えてやるか。実はこんな魔法なんだ」
そして俺は新しい魔法を発動する。そしてシリルは宙に浮く。宙に浮いたシリルは驚いた顔をしたがすぐにその正体に気付いたようで笑っている。
「考えたな。それで不可視の魔法の事を聞いたのか。これはなかなか面白い魔法だな」
「あぁ。これを使えば店で暴れるような奴を簡単に捕まえることが出来るからな。下ろすぞ?」
シリルの手首。胴体に絡ませた数多の不可視の糸を操って足を地面に付かせる。
「それに糸の強度を変えることでこんなことも出来るのさ」
手頃なモノを探して、見つけたのはこぶし大の石。その石に糸を巻きつけて糸を引っ張る。すると石は綺麗な断面を見せる。
「ほう。これまた考えている。魔王の夫としても恥ずかしくないぐらいの戦闘力を身に付けたな」
すり寄るシリルは俺の右腕をつかみ顔をこすりつけている。
こんな姿を部下にでも見られたら威厳が無くなるんじゃないかと心配になる。
「まぁ俺も進歩しなきゃいけないからな。街に構える飲食店の店主として。そして魔王の夫としてな」
今のところなんとか週1更新が出来ている。頑張っていますのでどうか、どうか私に感想などをおひとつ、、、
今更なんですけど、文章の行間(?)とかはどのくらい開けた方が良いかな?
まぁこれからもなるべく週1更新で頑張りたいと思いますので。




